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孔明さんの不本意ありまくりの出廬が近づいてます。

少しずつ運命が動き始めます、良い意味にも……

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 孔明こうめいは、息子の手を引き歩いていく。

「ねぇ、お父さん。お母さんと一緒が良かったね?」

 ぴょこんぴょこんと跳び跳ねながら、きょうは長身の父親を見上げる。

「そうだねぇ……明日お出掛けする時には、一緒に3人でお出掛けしようか?」
「うん!」

 大きく頷いた喬だが、急に立ち止まり首を傾げる。

「どうしたの? 喬?」

 地面を食い入るように見つめていた喬は、足元を示す。

「お父さん。光華(こうか)や雪花(せつか)達と違う、蹄(ひづめ)の跡があるよ。でね? こっちに行ってる」
「えっ?」

 孔明は息子の示した方を見た後、確認するように足元を見下ろす。
 喬の言った通り、3つ……いや、4、5つ程だろうか、馬の蹄の跡がある。

 朝方3人で、ゆっくりと散歩したのとは違う。
 何故なら、孔明達親子3人なら、体の重い孔明の乗った月花(げつか)の蹄の跡が深く、体の軽い琉璃(りゅうり)と喬は蹄の跡は浅いはずである。

 それなのに目の前の長く続いた跡は、どれも孔明と同じ位の重さかそれ以上の重さの人が馬に乗り、早足で移動させた跡である。

 この上は、孔明達の家しかない。
 その事を知っているのか、それとも知らず馬の早駆けの訓練でもしているのか……。

「近所に、お友達できるといいなぁ……」

 ワクワクと楽しそうな息子の様子に、孔明は微笑む。

「そうだねぇ。楽しみだねぇ」
「うん!」

 孔明は一瞬不安になる気持ちを押し隠し、幾つかの視線を感じつつ喬を庇うように坂を下っていった。



「……あれが『臥龍がりゅう』か?」

 立ち去った親子を見送り、道に現れた5人の中で40代後半には見えない男が呟く。

「はい。私の敬兄けいけいであり『臥龍』、『伏龍ふくりゅう』と呼ばれる諸葛孔明しょかつこうめい殿です」

 答えたのは、小柄で眉の白い学者肌の青年。

「あれのどこが『臥龍』なんだ? ただの普通のひょろひょろっとした若造じゃねえか!」

 昨晩、酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしたかった健康的に日焼けした虎男こと、張益徳ちょうえきとくが不満げにぶつぶつと漏らす。

「一晩ぐらい我慢しろ、益徳。帰る途中で何か狩れば、良い馳走ちそうになるだろう」

 赤黒く焼けた肌の長い髭の男……関雲長かんうんちょうがたしなめる。

「……まぁ、それもそうだが。あにぃ。どうするんだ? あの『臥龍』か『土竜もぐら』か何か解らねーひょろひょろ野郎は行っちまったぞ。会えねえだろ? とっとと帰ろうぜ」
「あ、もしかしたら、月英げつえい殿かきん殿がいるかもしれません」

 張益徳や関雲長より迫力に欠けるが、馬家の末っ子、幼常ようじょうが口を開く。

「幼常。先程敬兄は、あの女しかいないと言っていただろう?」

 季常きじょうは不愉快そうに眉を潜める。

「女?」

 劉玄徳りゅうげんとくは馬家の兄弟を見る。

「はい、孔明殿には嫁がいるんです」
「私はあの女、敬兄の嫁だと認めてないから。あれの価値は、黄承彦こうしょうげん殿の娘ってだけだから。それ以外利用価値ないから」

 季常の一言に、劉玄徳は馬の頭を孔明の家に向ける。

「どうしましたか? 玄徳様」
「いや、あの、黄承彦の娘とやらの顔を見てやろうと思ってな」

 苦々しげに過去の出来事を思い出した劉玄徳は、馬に乗ると丘の上にあると言う孔明の家に向かって駆け出す。

「あ、兄者あにじゃ! 行くぞ、益徳!」
「ちっ、解ったよ。行きゃあいいんだろ。後で酒を飲んでやる!」

 4人……ちなみに季常は弟の後ろに乗って、渋々劉玄徳を追いかけていったのだった。
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