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惰眠をむさぼっていた竜さんがお目覚めのお時間のようです。

運命と言うのは、本人とは違うところで動き始めます。

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 江東こうとうにしばらく滞在した6人は、荊州けいしゅうへ帰路に付いた。
 ちなみに、子瑜しゆの次男、きょうも共に連れていくことになった。

 喬が孔明こうめい琉璃りゅうりに非常に懐いたことと、兄であるかくとの相性が悪すぎた為である。
 このままでは喬が萎縮し、成長が妨げられると子瑜が告げ、泣く泣く玲衣れい瑤樹ようじゅが養子に出すことに決めたのである。
 それに他の家に養子に出すよりも、弟夫婦の元に預ける方がマシである。
 潤んだ瞳で息子との別れを寂しがる両親に、様々な準備をして貰ったり、おもちゃや好物等々、孔明は教えて貰ったりいるのだが、喬は琉璃ときゃぁきゃぁと嬉しそうに遊んでいる。

「おとーしゃん! だっこ」

 手を伸ばしねだる息子に、孔明は抱き上げ言い聞かす。

「喬? 父上と母上にご挨拶をしよう。いってきますって」
「あい、いってきましゅ! ちーうえ、はーうえ。おばーしゃま」

 ただのお出掛けのつもりなのか、嬉しそうに手を振りバイバイとする。

りょう。琉璃。何かあったらすぐにこちらにおいで? いいね? 喬のことだけじゃない。亮と琉璃も心配だからね?」

 子瑜の言葉に、孔明は頷く。

「何かあれば、月英げつえいやもしくはきんに頼んで、喬と琉璃をこちらに逃がします。大丈夫です」
「こら、私は琉璃と喬だけじゃなくて、お前にも言ったのだけどね?」

 子瑜は弟を睨む。

馬家ばけ龐家ほうけに嫁いだ紅瑩こうえい晶瑩しょうえいは、家ごとにきちんと対策を取っているだろう。琉璃も黄家こうけの娘だから何とかなると思っているかもしれないが、黄家は商いを生業としている。黄家を侮っているのでも蔑んでいる訳でもない。心配なのは、商いの為に出入りする人間が全て善人とは言えないこと。そりゃぁ、私達のように政治を生業としたり武将として戦う人にだって、善人だけなんてあり得ない。どこかしら打算だってある。でもね、黄承彦こうしょうげんどのが何もしなくとも、他の何かが要因で最悪の結果を招くことがある。黄承彦どのではなく、気になるのはお前の敬弟けいてい達、馬家の4男と5男だ」

 孔明は目を見張る。
 兄の情報収集力は侮れない。

「あの二人は危険だ。特に『白眉はくび』とか言うのは満足を知らない。敬兄けいけいであるお前にも家族にも愛されているのに、その自覚すらない。逆に、お前のその欲しがっていた安定した生活を壊すものになる。絶対に気を許すな。ついでに士元しげんはいいけれど、もう一人の元直げんちょくどのか? 彼には注意しなさい。彼は悪人ではないが馬家に近すぎるし、温厚で優しい性格と聞いている。利用される」
「解っています」
「解っていても、その時が来れば……お前はきっと暴走する。何かあれば、必ずこちらに相談すること! いいね? 約束だよ?」

 珍しくくどい兄の言葉に、逃げもせず、

「解っています。必ず相談します」
「琉璃もだよ? 自分で抱え込まないように。琉璃は家の嫁なんだよ? 必ず話をしてね?」
「はい、お兄様。ちゃんとご相談します」

琉璃も頷く。

「よろしい。亮も琉璃も父親と母親になったんだ。責任を持つんだから、いいね? 仲良くして、喬を頼むよ」
「はい。父として喬をしっかり育てます。琉璃も……」
「はい。お母さんとして、喬ちゃんを大事にします。ありがとうございます。お兄様、お姉様」

 二人は深々と頭を下げ、船に乗り込む。



そして、行きとは違い、漕ぎ手がゆっくりと江をさかのぼり始めるのだった。
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