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惰眠をむさぼっていた竜さんがお目覚めのお時間のようです。

義兄夫婦と弟夫婦も加われば、ものすごいものが出来そうです。

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 月英げつえい玉音ぎょくおんには辛い旅だっただろうが、孔明こうめい琉璃りゅうりには楽しい船旅となった。

 特に琉璃は見たことのない魚や船、それ以上に琉璃に対する態度の違い……。
 船の船長や登りの為に待機している漕ぎ手、月英の補佐として数人の商人がいたのだが、彼らは琉璃のことを普通の子供として可愛がってくれる。
 琉璃が、あれは何ですか?これはどんな風に使うのですか?と問いかけると嫌がる素振り一つなく、楽しそうに説明してくれるのである。

「あの、お邪魔ですか?」

と、一度聞いた時には、逆に首を傾げられ、

「どうしてですか? お嬢さんは、見たことがない物を見て聞いて覚えようとされている。それは邪魔ではなくて、お嬢さんには探求心と好奇心があるんですな。そうやって知りたい、確認したい、納得したい。それは、我々商人にとっても新鮮で、聞いていて楽しいですよ」

そうそうと、商人達は頷く。

「どうしてですか?」
「わしらは男ですから、女性の好み、気になるものと言うのは確認したいものです。的確な意見が言える、お嬢さんのような人がいて助かりますよ」
「そうですね。昨日の荷の確認は、本当にありがたいことです。お嬢さんは、商人の目をお持ちですね」

 感心する商人達に、ほっとしたように微笑む。

「ありがとうございます。私も沢山色々教えて貰って、とても勉強になりました。そう言って戴けて嬉しいです」
「良かったね。琉璃。色々教えて貰って」

 傍で琉璃と商人達の会話を黙って聞き入っていた孔明は、優しく微笑む。

「はい、とても面白かったです」
「そうだねぇ。私も勉強になったよ。昨日の、漕ぎ手の仕事を兼務していると言う若い商人の人に聞いたって言う話は珍しくて、琉璃に教えて貰って楽しかったな。琉璃は考え方が柔軟で型にはまらない。私にも、月英や士元しげん元直げんちょく兄にも思い付かない考え方が出来る。それは凄く羨ましい」

 孔明に頭を撫でられ、見上げる。

「そうなのですか? 琉璃は良く解りません。でも、琉璃は旦那様と一緒がいいので、旦那様の為になることを一杯考えます。旦那様は沢山のことを効率よく、上手にこなされてます。とても凄いのです。琉璃は不器用なので一つ一つします。でも、他を置いても一番は、旦那様のことを大事にすることなのです」
「えっ!? 私?」

 孔明は目を見開く。

「そうなのです。紅瑩こうえいお姉様と晶瑩しょうえいお姉様とお約束しました。『琉璃はりょうのことを一番に考えて頂戴ね』って。紅瑩お姉様は『他は、何にも考えなくて良いのよ。亮の喜ぶこと……そうねぇ? あの子のことだから、琉璃が解らないこと、質問しなさいな。何でも良いのよ。この花はどうなるのかとか……』とおっしゃって、晶瑩お姉様は『他はそうねぇ、亮の好きな書物の話をしてご覧なさい。『論語ろんご』とか『荀子じゅんし』、『春秋しゅんじゅう』……あの子は兄上と違って『孫子そんし』や『墨子ぼくし』よりも、そう言う難しい考えるものが好きなの。と言うよりも、物事を難しく堅苦しく考えすぎなのよ~』ってクスクス笑っていらっしゃいました。で、紅瑩お姉様が『考えたところで、どうせ堂々巡りで元に戻るだけなの。煮詰まって眉間に眉を寄せたりしてたら、その時ね♪ 琉璃がお話しする最高の瞬間よ!』晶瑩お姉様が大きく頷いて『そうそう。その時に教えて下さいって言って御覧なさい。そうすれば、丁寧に教えてくれるわよ。で、丁寧に解りやすく琉璃に話す事で、亮も理解できるから』って。言ってました」
「あ~ね~上達は~!」

 実の姉達に見透かされた事に照れ臭くもあり、悔しくもある孔明である。

「『それに、琉璃が他の人に教えて貰ったこと……あ、女の子同士の内緒話以外ね? ……もう、庭の花が咲きましたよ。とか、風が強いです。畑は大丈夫ですか? とかでもいいわね』『そうそう。書物を読んだら理解できなかったけれど、亮に聞いたので、解った。で充分。そうやって、沢山お話ししてあげて。あの子、何でも器用そうでいて、遠慮が出るとか……はっきりいって人付き合いも苦手なのよ。人に教えるのは教えるけれど、何もかも自分で背負い込むしね』『困った子なのよ』って、笑ってらっしゃいました」
「あ、姉上達にだけは言われたくなかった」

 ガックリ……肩を落とす。

 背負いたくて背負った訳ではない。
 兄姉達が細々しいことを、全てまとめて放り出すのを、孔明が後ろから拾い上げて、一つ一つ小分けしてこなしていただけである……それなのに。

「なので琉璃は、旦那様に一杯お話をする事にしたのです。琉璃は解らないことを知りたいです。沢山教えて戴いて、旦那様が塾の老師ろうしになったら、琉璃は旦那様の傍にいてそのお手伝いをします。沢山のお弟子さんに囲まれて、嬉しそうに笑いながらお弟子さんたちにお話をする、旦那様を傍で見ていたいです。いいですか?」

 首を傾げ見上げる琉璃に、孔明は目を見開き問いかける。

「ど、どうして……知ってるの? まだ誰一人として、教えてないのに……?」
「解ります。旦那様が、水鏡老師すいきょうろうし水鏡老師の代わりに弟弟子さん達に、授業をされている時はとても楽しそうです。見てると琉璃も楽しくて嬉しくなります」
「そ、そうだったんだ。琉璃には解るんだね、私の事」
「琉璃のことを沢山知ってるのは、旦那様です。琉璃も旦那様の事を沢山解るのです」

 琉璃は嬉しそうに笑う。

「少しずつでもお金を貯めて、塾を開きましょう、ね? 琉璃もお手伝いします」

 孔明はぎゅっと、琉璃の細い体を抱き締める。

「……ありがとう。二人で一緒に塾を開こう。私も頑張るから、琉璃、傍にいて? 約束しよう」



 孔明も琉璃も知らない……運命の輪は、星の影で回り始めているのだ……。
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