上 下
51 / 100
デレデレ新婚夫婦のあまあまな日々……これでいいんだ!多分。

実際のところ、孔明さんはデレデレ体質でした。

しおりを挟む
 琉璃りゅうりは2、3日しょうに横たえられ、孔明こうめいはその間ほぼ傍に付き添った。
 孔明が傍を離れたのは、黄承彦こうしょうげん月英げつえいの見舞いに行く程度でである。

 孔明は、傍に付いている間は書簡を読んでいるか、目を覚まし琉璃が手持ち無沙汰を持て余していると、様々な話をする。
 月英の作る道具の話、そして、晶瑩しょうえい紅瑩こうえいきんの昔の話、他にも子瑜しゆの事や、他の家族の事も話してくれる。

「おかーしゃまと、いみょーとしゃまが、いゆのれしゅか?」

 初めて聞く孔明の家族である。

 この話になったのは、いつも紅瑩の嫁ぎ先の龐家の屋敷に孔明や均宛の便りがくる。
 今日、江東こうとうの兄、子瑜の元から便りが届いた。
 しかも、孔明と均だけでなく琉璃宛に。
 そんなことは生まれて初めてで、驚いた琉璃は、まだ余り字も読めないこともあり孔明に代読を頼んだのだ。

 その時に聞かされた話である。

「あ、あにょ、おにーしゃまは結婚しゃれてて、おねーしゃま、いゆと、きいたのれしゅが……」
「言うの忘れててごめんね。実は母と妹もいるんだ。でも、兄上や姉上達、私や均を生んでくれた実母はもう亡くなっているから、父の再婚で、新しく家に入ってくれた方なんだ。でも、私達を実の子供のように分け隔てなく育ててくれた、優しい人だよ。妹の珠樹しゅじゅも……ウーン、6才下だから14,5才だね。義母に似ていて優しい子だよ。琉璃と仲良くなれるよ」
「な、仲良く……?」

 目を見開く。
 孔明が消したはずの苦しみが現れる前に、続ける。

「そう。均とお花の話をしたり、衣の話をしたりしてるよね? そう言うお話が出来るお友達。近くにはいないけれど、ほら、今私が読んでいるのは、兄上が義母や珠樹の代筆をして下さった便りだよ。琉璃が諸葛家の嫁になってくれて嬉しいって、義母は言っているそうだよ。珠樹は、琉璃の好きなものは何ですか? 自分は果物を干したものが大好きです。江東は、沢山珍しい果物が有ります。送りますねって。送ってきてるよ」

 横に置かれた籠の中には、山盛りの干した果物。

「へぇ……珠樹が、これが美味しいって」

 孔明は籠の果物を、琉璃の口にぽんっといれる。
 噛むと、少し硬い果肉から、甘い甘い味が溶けていく。

「……っ!……」

 頬を押さえ、ふにゃっと幸せそうな顔になる琉璃に、クスクスと孔明は笑う。
 一瞬にして、不安げに表情を翳らせ見上げた琉璃に、孔明は慌てて首を振り、

「あのね? 琉璃は何気ない事でも一つ一つを大切にして、何か出来る度に、口にする度に、とっても嬉しそうに笑うんだよ。だから本当に嬉しいんだ、美味しいんだなって思ってたんだよ。今日も顔を綻ばせて、満面の笑顔を見せてくれたから、私も嬉しくなったんだよ。良かったなぁ、珠樹のお陰だなぁって。琉璃の笑顔が見れて良かったなぁって」

 書簡を示す。

「それにね、珠樹が書いてたんだよ。きっと琉璃は笑顔の可愛いお姉様ですねって。兄上が琉璃のことを沢山、義母や珠樹にお話してくれたみたいでね? この果物を琉璃に食べさせて、琉璃の笑顔を沢山見て兄上……私のことだね……も、その眉間のシワを薄くして下さい……だって! ちょっと失礼だよね? 琉璃。しかも、子瑜兄上に巨大化していると聞きました。琉璃義姉上の前では、怖い顔だけはやめて下さいね! 目付きが悪いのに、その上巨大化したなんて、悪い要素だらけですよ。兄上、琉璃義姉上を、泣かせたりして離婚だけはやめて下さいね……だって?」

 書簡を見つめ愕然とする孔明に、琉璃はプッと吹き出し、コロコロと笑い出す。

「……っ! りゅ、琉璃まで、酷い……」

 ガックリ……大袈裟に肩を落とす孔明に、慌てて口を押さえブンブンと首を振る。

「ち、ちあうにょ。あにしゃまわやったじゃにゃくて……りゅ、りゅーり……」

 おろおろとする琉璃を振り返り、よしよしと頭をなで笑顔を向ける。

「解ってます。琉璃は、嬉しくて笑ったんだよね。からかってごめん。でも、琉璃はやっぱり笑顔が似合うね。珠樹の言った通りだ」
「しゅじゅしゃまの?」
「琉璃が笑顔でいると、私も嬉しい。だから、笑って。その為なら、何でも出来るから……」
「りゅ、りゅーりは、にいしゃまにもわやってほしーにょ……」

 首を傾げ見上げる琉璃。

「……んと、りゅーりさっきわやったの、にいしゃまわやった。……らから、りゅーりわやうの、にいしゃまわやってね? やくしょく」

 琉璃の言葉に、孔明はハッとしたように口に手を当てる。

「……そうだね……琉璃が笑って私も笑う……約束しようね」
「はいにゃの」



 孔明の新婚生活は、甘い甘い干し果物を食べているよう……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

徳川家基、不本意!

克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。

忍者同心 服部文蔵

大澤伝兵衛
歴史・時代
 八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。  服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。  忍者同心の誕生である。  だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。  それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...