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引きこもり竜が穴蔵からおいだされるかもしれません。
孔明さんは、本当に紫の上育成計画を実践するつもりです。
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門の中に入り、隙間から呆然と立ち尽くす親子を見、黄承彦はケラケラと笑う。
「婿殿。見られたか? あの面を! 久々に楽しい物を見せて貰った!」
「私はドキドキでしたけど……」
孔明は苦笑する。
実は、黄承彦の体を支えていたのは孔明である。
義父の怪我を心配しているのだ。
「そうですのぉ、婿殿はもっと迫力のある……」
「いえいえ、先程の衣装は着ませんから」
「それは残念。でも婿殿は派手な色よりも、落ち着いた色の方が似合うからの」
ふむふむと、何度も頷く。
「おっ?宮城に帰ろうとしておる。ふふふっ。この後の宮城が楽しみですなぁ。見てみたい気も……」
「止めて下さいよ。義父上。かなり乱暴にはねのけられて、したたかに肩を打っているではないですか。今日は湿布をしてお休み下さい」
「うん? 可愛い琉璃や月英に比べれば大丈夫、いだだだだ!」
うめき声を漏らす。
「だから、言っているのです。休んで下さいね? 月英もひどい捻挫ですよ。琉璃と3人、怪我人親子ですよ」
「おや、それは嬉しいねぇ。仲良し親子っぽくて」
「ひどい怪我人が、喜んでどうしますか。早くお休みしましょう」
孔明は使用人が先導する道をついていき、黄承彦の部屋の前で待っていた付き人に預け、月英の棟に移動する。
孔明と琉璃が黄家で滞在する際は、義兄月英の棟に用意された部屋を利用するのである。
まずは、琉璃を迎えにいく為に月英の部屋にいく。
そっと扉を開け、中を覗くと寝息が聞こえる。
二人とも眠っているらしい。
起こすのも悪いと、琉璃の体を抱き上げると熱い。
痛み止めの薬を飲ませているが、熱が出たのか、うつらうつらしている。
これは……!
出ていこうとした孔明の背に、呼び掛ける声。
「大丈夫だ。さっきここに置いていたのを飲ませている。ようやく寝付いた。薬は多すぎると毒だと、お前が言ったんだろう? まずは落ち着け。どうだった?」
振り返り近づくと、
「劉景升の次男とその母親が、謝りにきてやったと言ってたね。母親は横柄、高慢だったし、次男の琮は酒を飲んでた。義父上が謝罪は受け取らない、と追い返したよ。でも、打ち付けた肩が辛そうだった。しばらく固めておいた方が良いと思う。月英もだよ」
「まぁなぁ……」
包帯の巻かれた両手を持ち上げ、自嘲する。
「大事な職人の腕に、何てことしやがる……それに悔しいな……あんな奴に馬鹿にされて」
「月英……」
よしよしと頭を撫でる。
「こら、オレはお前より4才年上だぞ。それに、頭も痛いんだ。あんまり乱暴に触るなよ」
包帯の巻かれた頭を示す。
「軽く撫でたでしょ、兄弟なんですから良いんです。それよりも月英。あんな奴らに負けなくて良かったね」
「……まぁな」
枕の上に流れる髪を見て、呟く。
「この髪は、母上と同じ色だ。瞳も母上は琉璃と同じ青だった。親父は、母上の愛らしさ、優しさ、美しさが好きだと言った。オレは母上の息子なんだから、それを誇りにしろと。でも、昔は恨んだ。親父を」
「……」
「母上は、後から入ってきた親父の本妻で、あの女とその瓜二つの妹にいびられ、虐げられ、蔑まれ、最後に自殺に見せかけられて殺された。オレと親父が遠い地での交渉事をしている間にだった。何時もだったら、親父は母上も連れていっていた。母上は身ごもってたそうだ」
苦笑する。
「贖罪かもな……親父にとっても、オレにとっても」
「良いんじゃないんですか? 母上の生んだ妹で……琉璃は月英の妹でしょう?」
孔明は笑いかける。
「月英もそろそろ、可愛いお嫁さん見つけたらいいと思うけど? 良い年なんだし」
「義弟、しかも形式婚しかしてない奴に、言われたくないね!!」
「私はこの結婚楽しいですし、満足してますけど?」
真顔で返す孔明。
「嘘だろ? 正気か! 形式婚だぞ?」
「嘘じゃないですよ。毎日楽しいし嬉しいですよ。満足です。今のところ」
孔明は首を傾げ微笑む。
「それに、良いじゃないですか。可愛い嫁を自分好みに育ててるんですよ。最高でしょう? 私の好きなものを好きになって、私と同じ価値観、でも当然、全て一緒じゃなく、意見が食い違ったりするのも楽しいでしょう? 成長していく、花なら双葉を見つけて、葉が広がり、茎が延びて、つぼみが出来て美しい花が咲く。それを見ていられるなんて、それが可愛い嫁だと思うと、手塩にかけて育てたいと思いません?」
「うーん……いやぁ、オレそこまで気が長い方じゃないし、それに、お前それ絶対琉璃は、オレのもの宣言。してるだろう? 自分好みに育ててウハウハ……」
「だって、私の嫁ですから。他人が何と言おうが、私好みの嫁に育てますよ!」
孔明は宣言する。
「誰にも文句は言わせませんよ! 琉璃は私の嫁なんです。私が何をしようと構わないと思いません?」
「琉璃の年を考えて、倫理上……」
「ハイハイ、解ってます。じゃぁ、月英。お休みなさい。寝ないと良くなりませんよ」
孔明は手を振り、部屋を出ていった。
「婿殿。見られたか? あの面を! 久々に楽しい物を見せて貰った!」
「私はドキドキでしたけど……」
孔明は苦笑する。
実は、黄承彦の体を支えていたのは孔明である。
義父の怪我を心配しているのだ。
「そうですのぉ、婿殿はもっと迫力のある……」
「いえいえ、先程の衣装は着ませんから」
「それは残念。でも婿殿は派手な色よりも、落ち着いた色の方が似合うからの」
ふむふむと、何度も頷く。
「おっ?宮城に帰ろうとしておる。ふふふっ。この後の宮城が楽しみですなぁ。見てみたい気も……」
「止めて下さいよ。義父上。かなり乱暴にはねのけられて、したたかに肩を打っているではないですか。今日は湿布をしてお休み下さい」
「うん? 可愛い琉璃や月英に比べれば大丈夫、いだだだだ!」
うめき声を漏らす。
「だから、言っているのです。休んで下さいね? 月英もひどい捻挫ですよ。琉璃と3人、怪我人親子ですよ」
「おや、それは嬉しいねぇ。仲良し親子っぽくて」
「ひどい怪我人が、喜んでどうしますか。早くお休みしましょう」
孔明は使用人が先導する道をついていき、黄承彦の部屋の前で待っていた付き人に預け、月英の棟に移動する。
孔明と琉璃が黄家で滞在する際は、義兄月英の棟に用意された部屋を利用するのである。
まずは、琉璃を迎えにいく為に月英の部屋にいく。
そっと扉を開け、中を覗くと寝息が聞こえる。
二人とも眠っているらしい。
起こすのも悪いと、琉璃の体を抱き上げると熱い。
痛み止めの薬を飲ませているが、熱が出たのか、うつらうつらしている。
これは……!
出ていこうとした孔明の背に、呼び掛ける声。
「大丈夫だ。さっきここに置いていたのを飲ませている。ようやく寝付いた。薬は多すぎると毒だと、お前が言ったんだろう? まずは落ち着け。どうだった?」
振り返り近づくと、
「劉景升の次男とその母親が、謝りにきてやったと言ってたね。母親は横柄、高慢だったし、次男の琮は酒を飲んでた。義父上が謝罪は受け取らない、と追い返したよ。でも、打ち付けた肩が辛そうだった。しばらく固めておいた方が良いと思う。月英もだよ」
「まぁなぁ……」
包帯の巻かれた両手を持ち上げ、自嘲する。
「大事な職人の腕に、何てことしやがる……それに悔しいな……あんな奴に馬鹿にされて」
「月英……」
よしよしと頭を撫でる。
「こら、オレはお前より4才年上だぞ。それに、頭も痛いんだ。あんまり乱暴に触るなよ」
包帯の巻かれた頭を示す。
「軽く撫でたでしょ、兄弟なんですから良いんです。それよりも月英。あんな奴らに負けなくて良かったね」
「……まぁな」
枕の上に流れる髪を見て、呟く。
「この髪は、母上と同じ色だ。瞳も母上は琉璃と同じ青だった。親父は、母上の愛らしさ、優しさ、美しさが好きだと言った。オレは母上の息子なんだから、それを誇りにしろと。でも、昔は恨んだ。親父を」
「……」
「母上は、後から入ってきた親父の本妻で、あの女とその瓜二つの妹にいびられ、虐げられ、蔑まれ、最後に自殺に見せかけられて殺された。オレと親父が遠い地での交渉事をしている間にだった。何時もだったら、親父は母上も連れていっていた。母上は身ごもってたそうだ」
苦笑する。
「贖罪かもな……親父にとっても、オレにとっても」
「良いんじゃないんですか? 母上の生んだ妹で……琉璃は月英の妹でしょう?」
孔明は笑いかける。
「月英もそろそろ、可愛いお嫁さん見つけたらいいと思うけど? 良い年なんだし」
「義弟、しかも形式婚しかしてない奴に、言われたくないね!!」
「私はこの結婚楽しいですし、満足してますけど?」
真顔で返す孔明。
「嘘だろ? 正気か! 形式婚だぞ?」
「嘘じゃないですよ。毎日楽しいし嬉しいですよ。満足です。今のところ」
孔明は首を傾げ微笑む。
「それに、良いじゃないですか。可愛い嫁を自分好みに育ててるんですよ。最高でしょう? 私の好きなものを好きになって、私と同じ価値観、でも当然、全て一緒じゃなく、意見が食い違ったりするのも楽しいでしょう? 成長していく、花なら双葉を見つけて、葉が広がり、茎が延びて、つぼみが出来て美しい花が咲く。それを見ていられるなんて、それが可愛い嫁だと思うと、手塩にかけて育てたいと思いません?」
「うーん……いやぁ、オレそこまで気が長い方じゃないし、それに、お前それ絶対琉璃は、オレのもの宣言。してるだろう? 自分好みに育ててウハウハ……」
「だって、私の嫁ですから。他人が何と言おうが、私好みの嫁に育てますよ!」
孔明は宣言する。
「誰にも文句は言わせませんよ! 琉璃は私の嫁なんです。私が何をしようと構わないと思いません?」
「琉璃の年を考えて、倫理上……」
「ハイハイ、解ってます。じゃぁ、月英。お休みなさい。寝ないと良くなりませんよ」
孔明は手を振り、部屋を出ていった。
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