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諸葛家の兄弟関係はいつもこんな感じです。
琉璃は過去、毒見役として食事をとっていたようです。
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翌日、衣装を整えた上に髪を結い上げて貰った琉璃は、夫になった青年に手を繋いで貰って、にこにこと姿を見せる。
結い上げた形は、結婚した既婚の女性の髪型ではなく、普通のほぼ同年代の少女と同じである。
しかし、昔からそういった髪型をしたことがない上に、最近まで怪我をしていただけでなく、色々と忙しく、後ろで束ねただけだった少女は、今日は器用な孔明が手早く整えて、髪飾りも差してあげている。
育ちは育ちだが可愛いものは当然大好きで、いつも綺麗に着飾った女装中の月英や均が羨ましかった琉璃である。
「にいしゃま、にゃーう?」
と、手を引いて問いかける様に、孔明はニコニコと、
「良く似合うよ、可愛いね。お姫様みたいだよ」
「ほんとー? 琉璃かーいい?」
「とっても、可愛いよ。良く似合ってる」
と話しながら歩いて席に着こうとすると、
「うっわー。なんだその、甘ったるい空気は」
皮肉げな声に振り返った孔明は嫌そうに顔をしかめ、琉璃はぎゅうっと孔明にしがみつく。
「戻って来てたんですか? 来なくていいのに」
「良いご挨拶だな。孔明。折角お祝いに戻ってきてやったのに」
「いらないよ、すぐ出ていって。折角の新婚の雰囲気を壊して欲しくないね」
悪友にそっけない態度をとり、ふーふーと子猫のように警戒し、士元の横にいる少年を睨んでいる琉璃を抱き寄せて、
「大丈夫だよ。私がいるよ」
「うっわー、粘着系。気持ちわりぃ。孔明がきもい」
士元は、うすら寒そうに両腕をごしごしこする。
「失礼な。士元こそどうしたんです? 季常を連れて」
「ん? 一応、この馬鹿が放浪の旅なのに金を散財して、手持ちが無くなったんだよな。働こうと思ったら、こいつはボンボンで仕事出来ないってほざくし、こいつ一人にしておいたら何しでかすか解らなくて……で、戻ったんだよ。全く困るぜ」
季常の頭を叩く。
「ぼかすか殴らないで戴けませんか?」
「頭が良くなるぞ?」
「そんな訳ありますか!」
季常と士元は言い合いを始める。
「どうしたのー?」
眠たげに目を擦りながら現れるのは、子瑜と月英である。
「あ、兄上、月英もおはようございます」
「お早う、亮に琉璃。特に琉璃は昨日疲れたね、大丈夫だったかな? 平気? 辛かったら、亮か私達に言うんだよ?」
子瑜の優しい言葉に、琉璃は顔を覗かせて、慌ててちょこちょこと出てくると、
「おにいしゃま、おはようごじゃいましゅ。昨日は、おはじゅかしいとこりょをおみせしてしまい、もうしわけありましぇん」
と丁寧に、何度も練習して覚えた拝礼をする。
「ありがとう。突然の乱入でゴメンね? 自己紹介が遅くなってしまったね。私は、諸葛家の長子の名前は瑾、字は子瑜、亮の7才上の兄だよ。琉璃のように可愛い妹が出来て嬉しいよ」
膝をつき、両手を握り微笑む。
「え~と、兄上。何時もと違うような……」
「ん? 私は、この悪ガキと違って、可愛い妹なら大歓迎。特に、見て御覧よ~! 髪の色は黄金色。瞳は海色。こんな綺麗な女の子滅多にいないよ。亮も隅に置けないね!」
「兄上がまともな発言している……! 今日からしばらく嵐だ……」
茫然と呟く孔明に、
「失礼な! 亮。人を何だと思っているんだい?」
「暴走系文官。そして、変態ではないけど、世界観や価値観が他の人とは変わっている人、という意味での変人の兄上」
「変人は認める」
真顔で頷く子瑜に、
「認めるんですか?」
「そりゃ私は、諸葛家の長子で、普通じゃなくていいもん。それに、お前の義弟って言う、その変態と同列嫌だもんね。私の思考はまだ柔軟だし、可愛い子猿系とか子犬系お気に入りだよ」
「子猿って誰ですか? 子犬系は?」
「子猿はうちのあーるーじー。子犬系は亮の嫁。可愛いからどちらも。そっちのは可愛くない詐欺師」
孔明は慌てて、
「兄上、士元は可愛くないですが、詐欺師じゃないですよ。見た目は胡散臭いですけど!」
「何言ってるの? 亮。士元は何回か会ってるよ。公瑾殿と、良く悪巧みしてるもんね?」
「……えっそうなの? 士元」
「ん? 何回か会った。が、あんまり似てねぇし、文官のわりに黒い策略するしで本気で兄弟か? って思ったぜ」
士元は孔明を見る。
「じゃぁ、兄上が言ってるのは……」
「腹黒」
と示されたのは季常である。
「士元もアホだねぇ、この根性悪に振り回されたんだよ。こいつ、わざと馬鹿なボンボンの振りをしてるんだよ。で、どうしてわざわざ今日帰ってきたのか……」
指はゆっくりと動き、季常の傍、席の台の上の器を示す。
「はーい、これ、君さっきから触ってたね。何してたのかなぁっと言うことで?」
「も、もしかして?」
士元は蒼白になる。
一応、親族の婚礼の祝いの翌日に、災いを持ち込んだのか! と……。
「そう。調べて御覧よ~」
スッと、琉璃が取ろうとしたのを、孔明は慌てて取り上げる。
「何してるのっ? 琉璃!」
「にょくみ。は……琉璃、にょくみれきうにょ、しゅりゅにょ」
「にょ……毒見? な、何を言ってるの? 駄目だよ! 琉璃はそんなことをしなくて構いません! 即座に処分……ナイナイさせます!」
「れも、またにょくもりゃれたら、こまゆにょ。琉璃がにょくみして、かくにんしゅゆの」
琉璃は、ピョンピョンと跳び跳ねながら、孔明が上に上げた毒入りの白湯の入った器を取ろうとする。
「しなくて構いません! それよりも、琉璃がするべき事ではありません! 命に関わるようなことだよ! それに、もしかしたら死んじゃうかもしれない。そんなことになったらどうするの? 私や家族、皆泣くよ? 月英も承彦お父さんも泣くよ? 大事な琉璃がいなくなったら……皆悲しくて泣いてしまうよ?」
「にゃく? ……かにゃしい? 琉璃いにゃいと、かにゃしい?」
首を傾げる琉璃に何度も孔明と子瑜、月英は頷く。
「当たり前でしょう! だからね? お願いだから、毒見をしたり、何か解らないものを簡単に口にしないんだよ? 約束してね?」
「あ、あい。にょくみしましぇん。そえと、わかりゃないもにょを、口にしましぇん」
「偉い。琉璃は、お利口! ……はぁぁ……良かった」
近くにいた兄に器を渡し、琉璃を抱き締めたのだった。
結い上げた形は、結婚した既婚の女性の髪型ではなく、普通のほぼ同年代の少女と同じである。
しかし、昔からそういった髪型をしたことがない上に、最近まで怪我をしていただけでなく、色々と忙しく、後ろで束ねただけだった少女は、今日は器用な孔明が手早く整えて、髪飾りも差してあげている。
育ちは育ちだが可愛いものは当然大好きで、いつも綺麗に着飾った女装中の月英や均が羨ましかった琉璃である。
「にいしゃま、にゃーう?」
と、手を引いて問いかける様に、孔明はニコニコと、
「良く似合うよ、可愛いね。お姫様みたいだよ」
「ほんとー? 琉璃かーいい?」
「とっても、可愛いよ。良く似合ってる」
と話しながら歩いて席に着こうとすると、
「うっわー。なんだその、甘ったるい空気は」
皮肉げな声に振り返った孔明は嫌そうに顔をしかめ、琉璃はぎゅうっと孔明にしがみつく。
「戻って来てたんですか? 来なくていいのに」
「良いご挨拶だな。孔明。折角お祝いに戻ってきてやったのに」
「いらないよ、すぐ出ていって。折角の新婚の雰囲気を壊して欲しくないね」
悪友にそっけない態度をとり、ふーふーと子猫のように警戒し、士元の横にいる少年を睨んでいる琉璃を抱き寄せて、
「大丈夫だよ。私がいるよ」
「うっわー、粘着系。気持ちわりぃ。孔明がきもい」
士元は、うすら寒そうに両腕をごしごしこする。
「失礼な。士元こそどうしたんです? 季常を連れて」
「ん? 一応、この馬鹿が放浪の旅なのに金を散財して、手持ちが無くなったんだよな。働こうと思ったら、こいつはボンボンで仕事出来ないってほざくし、こいつ一人にしておいたら何しでかすか解らなくて……で、戻ったんだよ。全く困るぜ」
季常の頭を叩く。
「ぼかすか殴らないで戴けませんか?」
「頭が良くなるぞ?」
「そんな訳ありますか!」
季常と士元は言い合いを始める。
「どうしたのー?」
眠たげに目を擦りながら現れるのは、子瑜と月英である。
「あ、兄上、月英もおはようございます」
「お早う、亮に琉璃。特に琉璃は昨日疲れたね、大丈夫だったかな? 平気? 辛かったら、亮か私達に言うんだよ?」
子瑜の優しい言葉に、琉璃は顔を覗かせて、慌ててちょこちょこと出てくると、
「おにいしゃま、おはようごじゃいましゅ。昨日は、おはじゅかしいとこりょをおみせしてしまい、もうしわけありましぇん」
と丁寧に、何度も練習して覚えた拝礼をする。
「ありがとう。突然の乱入でゴメンね? 自己紹介が遅くなってしまったね。私は、諸葛家の長子の名前は瑾、字は子瑜、亮の7才上の兄だよ。琉璃のように可愛い妹が出来て嬉しいよ」
膝をつき、両手を握り微笑む。
「え~と、兄上。何時もと違うような……」
「ん? 私は、この悪ガキと違って、可愛い妹なら大歓迎。特に、見て御覧よ~! 髪の色は黄金色。瞳は海色。こんな綺麗な女の子滅多にいないよ。亮も隅に置けないね!」
「兄上がまともな発言している……! 今日からしばらく嵐だ……」
茫然と呟く孔明に、
「失礼な! 亮。人を何だと思っているんだい?」
「暴走系文官。そして、変態ではないけど、世界観や価値観が他の人とは変わっている人、という意味での変人の兄上」
「変人は認める」
真顔で頷く子瑜に、
「認めるんですか?」
「そりゃ私は、諸葛家の長子で、普通じゃなくていいもん。それに、お前の義弟って言う、その変態と同列嫌だもんね。私の思考はまだ柔軟だし、可愛い子猿系とか子犬系お気に入りだよ」
「子猿って誰ですか? 子犬系は?」
「子猿はうちのあーるーじー。子犬系は亮の嫁。可愛いからどちらも。そっちのは可愛くない詐欺師」
孔明は慌てて、
「兄上、士元は可愛くないですが、詐欺師じゃないですよ。見た目は胡散臭いですけど!」
「何言ってるの? 亮。士元は何回か会ってるよ。公瑾殿と、良く悪巧みしてるもんね?」
「……えっそうなの? 士元」
「ん? 何回か会った。が、あんまり似てねぇし、文官のわりに黒い策略するしで本気で兄弟か? って思ったぜ」
士元は孔明を見る。
「じゃぁ、兄上が言ってるのは……」
「腹黒」
と示されたのは季常である。
「士元もアホだねぇ、この根性悪に振り回されたんだよ。こいつ、わざと馬鹿なボンボンの振りをしてるんだよ。で、どうしてわざわざ今日帰ってきたのか……」
指はゆっくりと動き、季常の傍、席の台の上の器を示す。
「はーい、これ、君さっきから触ってたね。何してたのかなぁっと言うことで?」
「も、もしかして?」
士元は蒼白になる。
一応、親族の婚礼の祝いの翌日に、災いを持ち込んだのか! と……。
「そう。調べて御覧よ~」
スッと、琉璃が取ろうとしたのを、孔明は慌てて取り上げる。
「何してるのっ? 琉璃!」
「にょくみ。は……琉璃、にょくみれきうにょ、しゅりゅにょ」
「にょ……毒見? な、何を言ってるの? 駄目だよ! 琉璃はそんなことをしなくて構いません! 即座に処分……ナイナイさせます!」
「れも、またにょくもりゃれたら、こまゆにょ。琉璃がにょくみして、かくにんしゅゆの」
琉璃は、ピョンピョンと跳び跳ねながら、孔明が上に上げた毒入りの白湯の入った器を取ろうとする。
「しなくて構いません! それよりも、琉璃がするべき事ではありません! 命に関わるようなことだよ! それに、もしかしたら死んじゃうかもしれない。そんなことになったらどうするの? 私や家族、皆泣くよ? 月英も承彦お父さんも泣くよ? 大事な琉璃がいなくなったら……皆悲しくて泣いてしまうよ?」
「にゃく? ……かにゃしい? 琉璃いにゃいと、かにゃしい?」
首を傾げる琉璃に何度も孔明と子瑜、月英は頷く。
「当たり前でしょう! だからね? お願いだから、毒見をしたり、何か解らないものを簡単に口にしないんだよ? 約束してね?」
「あ、あい。にょくみしましぇん。そえと、わかりゃないもにょを、口にしましぇん」
「偉い。琉璃は、お利口! ……はぁぁ……良かった」
近くにいた兄に器を渡し、琉璃を抱き締めたのだった。
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