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諸葛家の兄弟関係はいつもこんな感じです。

かなりの破壊力を持つ、諸葛家の兄弟がほぼ出揃いました。

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 龐家に戻った孔明こうめい琉璃りゅうりは、後を追ってきていた黄承彦こうしょうげん月英げつえいと親族の前で、先祖の霊に拝礼はいれいをし、結婚を報告しそのまま宴会に雪崩なだれ込んだ。
 小さな体で重い婚礼衣装を纏い、実家で走り回った琉璃は疲れきっていたのだが、孔明がしょうに運ぼうとするものの嫌がり、孔明の膝の上ですやすや寝息をたてていた。
 孔明は自分に琉璃をもたれさせて、宴会の主役を勤めていた。

「孔明、お前結構飲めるんだな?」

 余り見たことのないしゃく(古代中国の杯。ちなみに、ここから爵位と言う名が生まれる。)に注がれた中身を、祝杯とはいえ平然と飲み干す彼を見つめていた月英の一言に、平然と、

「そうですね。飲める方だと思います。父が飲めなかった人だったんですが、母が酒豪だったらしいです」
「母親が?」
「えぇ。でも、酒に強い体質は私だけが受け継いだようですね。兄はすぐ酔って結構恐ろしかったんですけど……兄のようになったら……琉璃に離婚されかねない……」

顔色を変えてブルブル震えて見せる。

「そんなに怖いのか……兄は」
「に、二重人格者です。普段おっとり、ボケーっとした人なんですが、酒を飲むと柄が悪くなって、溜まりに溜まった怒りやイライラを盛大に放出するんです。身分の上下関係なく……突っかかり、相手が剣を持っていようが、父の上司や友人だろうが、お構いなしに舌戦ぜっせんを……何度かヒヤヒヤした事があって……父に飲むなと」
「ヒヤヒヤって、負けて斬られそうになったとか……?」
「いいえ。打ち負かしましたよ、全員。元々兄は『墨子ぼくし』の城攻略戦術研究家で、その上『孫子そんし』とかも……実践派なんです。7才下の私を生まれてすぐ家から連れ出し、近くの城壁で『墨子』の戦術を再現しようとして、やぐらが何度か崩れそうになって、寝ていた私に当たりかけて……探していた父に助けられたので死ななかったんですけど……」
「はぁ!? 7才で墨子?」

 月英は目を見張る。

「はい、『荀子じゅんし』に『論語ろんご』に、『春秋しゅんじゅう』やあれこれもさらってて神童と呼ばれてました。でも、戦略が大好きで、首が座りハイハイをし始めた私を背中に背負って、又『墨子』の……」
「戦術やったのか……兄貴」
「そうなんです……今度は母が悲鳴をあげて、櫓の最上部に置き去りにされ泣いている私を見つけ、助け出され……これで、もう終わりだと思っていたら、4才の時にきんが生まれて、私に危険が及ばないように見張っていた両親の目がそれた瞬間、今度は、大人が歩いても2日かかる廃墟の城に連れていかされ、自分の力で出てこいと城門を塞がれて……」

 顔を背ける孔明に、

「頑張れ、孔明。ここには兄貴いないから」
「いえ……来そうなので、怖いんです」
「は? お前の兄貴……えーと子瑜しゆ殿は、江東の孫仲謀そんちゅうぼう殿に仕えているって……」

月英は問い返す。

「い、一応、家長の兄上に連絡しないのもと、便りを送ったら……『周公瑾しゅうこうきん殿の弱味を握ってやってるので、すぐにそっちに行って、お前の婚儀をぶち壊しに行く。待ってろ』って、義母がいるので大丈夫かと思うのですが……?」

 騒々しい警備の声とそれをいなす声に、孔明は蒼白になり一瞬逃げ出そうと腰を浮かしたが、膝の上の花嫁に気づき抱きしめ座り直す。
 騒々しいそれは近づき、扉を蹴破るように飛び込んでくる。

りょう! 無事か!」

 その怒鳴り声に、顔をしかめるのは紅瑩こうえい晶瑩しょうえい

「げっ、二重人格者……折角の亮のお祝い事なのにっ」
「やだぁ……会いたくなかったのに~! 極端な根性悪兄上」

 その言葉に、長兄はにっこりと笑う。

「失礼だねぇ。実の妹が、兄をそこまでおとしめるなんて……今すぐ、あの世とやらを見せてやろうか? 馬鹿妹共。暴力ばかり磨きをかけて、頭と女性としての慎ましさを瑯琊ろうやに捨ててきたんだね?」
「兄上こそ、倫理観と妹への愛情はのどこかに捨てられたのね?」
「同じ血を分けたくなかったけど、分けちゃったのは仕方ないけれど、お会いしたくなかったわぁ」
「同意見だねぇ……」

 ふふふ……
 ははは……

と笑い合う兄姉に、

「綺麗な格好でお祝いするの」

と言い張り、女の子の衣を纏い、にこにこしていたきんが、

きん兄上、何しに来たの?」
「お、お前は……均? 結婚するときいているけれど、その姿でするつもりか! それとも、お前が亮の嫁か!」

周囲がシーンと静まり返る。

 その中で、均が冷たく言い放った。

「はっ? 馬っっ鹿だったんだ? 兄貴は? ほぉ……? やっぱり、あんたは脳内変態菌で汚染されてるね。一回あの世に行って、親父は兎も角、母様にだけは! 生まれてきて済みませんでしたって、額を地面に擦り付けて謝罪してこいよ! 馬鹿が!」

 いつもはにこにこと可愛らしい言葉を使っているのだが、孔明が不安に思っていた通り、爵を傾け干した弟は……兄と同じだった……。

 育て方を間違ったかと心底嘆きたくなる孔明の面前で、毒舌と体力魔神と悪酔いの罵り合い……孔明にとってはいつものことだったが、周囲に頭を下げたくなる程の険悪な空気と、

「な、何だとー! 兄に向かって女装男が何を……」
「はっ? 何が兄? 俺の兄様は、兄様だけ! あんたは……」

ほぼ身長差のない兄弟たちの睨み合いの中、

「にいしゃま……こあいー!」

スッと怯えたように、甘えるように小さな手でしがみつき、べそべそと訴える声が響く。

「均にーしゃと、紅瑩ねーしゃと晶瑩ねーしゃがけんかしてりゅぅぅ。けんか、めって、にいしゃまゆったのにぃぃ」
「大丈夫だよ、琉璃。あれは昔からの軽い口喧嘩。すぐにやめるから、大丈夫だよ」

 何時ものように……いや、表向きだけと周囲は思っているようだが、それよりも深く愛しい琉璃を抱き上げ立ち上がる。

 小柄な4人を、頭2つ上から見下ろすと、穏やかな口調で語りかける。

「兄上。こちらからは行けませんでしたが、わざわざ私の結婚の祝いの席に来て戴き、ありがとうございます。仕事を放棄して来られるとは、兄上らしくありませんね? 何か重要な事でもありましたか?」
「あるも何も、亮! お前が結婚すると聞いて、お前の事だ、又、紅瑩や晶瑩の暴走に巻き込まれたり、均の我が儘の言うことを聞いてどうにもならなくなったり……話に聞いてるぞ! 紅瑩の嫁ぎ先の義弟に利用されているんだと! 私がいればそんな馬鹿、一瞬に抹殺してやったのに!」
「即抹殺は止めて頂戴。するなら家の夫の居ないところで色々と策略してね。兄上」
「そうそう、抹殺なんて一瞬だもの、長く苦しむのが良いわよね?」
「それなら、私の恋人の玉音ぎょくおんに毒を選んで貰ったら~? 一応兄貴。玉音はまれに見る毒薬使いなんだから」

 4人の物騒な話と剣呑な空気に、眠気も最高潮の琉璃は、腕の中でえぐえぐとしゃくりあげ、

「にいしゃまぁぁっ! こあいよぉ……ふわぁぁぁん!」

と、本格的に泣き始める。

「大丈夫、大丈夫。私がいるからね。後で、お休みしようね? 今は抱っこで我慢して」

 琉璃を宥めるように揺すり、とんとんと背中を叩きながら、孔明は兄弟に満面の笑みを浮かべる。
 そして、声に出さず唇で、

「後で、久しぶりに膝付き合わせてお説教しましょうね? 4人共、最近会っていないので、言葉遣いや品位のない表現、琉璃が怯える程の罵詈雑言ばりぞうごんの数々……しっかりと直して、兄上はお仕事に、姉上方は馬家に龐家の嫁として、均は諸葛家の3男としての自覚を、それぞれしっかりと思い出して戴きますよ? 良いですね?」

みるみると4人は蒼白になり、長兄は、

「す、すまんっ。主の所用を忘れていた! すぐに戻る!」
「おや、周公瑾殿の弱味を握ったとかで、こちらにこられたのでしょう? 数日こちらに滞在されては? 8年ぶりの再会なのですから、じっくりとお話を聞いて戴けますよね? 兄上?」

琉璃にだけは怯えられないようにと、瞳だけで黙らせる姿に、月英達は恐ろしいと言うよりも、おや? という表情になったのも気づかず、

「そ、それはそうなんだが……」
「でしょう? それに、兄上にも私の妻を紹介したいですし……まぁ、今日は疲れてご機嫌斜めなんですよ……と言うことで、月英義兄上。申し訳ありませんが、琉璃をお願いしますね? 今日は疲れているので、朝まで目が覚めないと思います」
「了解! じゃぁ、また明日。孔明」

月英は抱き上げ、そそくさと退場する。

 孔明はかなり酒を飲んでいる。
 本人いわく飲める口だが、酒は結構本心を滑らすことが多い。
 多分、いや絶対、孔明は今まで溜まりに溜まった何かを言い放つに違いない。
 見れないのは残念だが、明日の4人の憔悴しきった顔を見て、楽しもう……と月英は心に誓ったのだった。
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