破鏡の世に……(アルファポリス版)

刹那玻璃

文字の大きさ
上 下
34 / 100
諸葛家の兄弟関係はいつもこんな感じです。

孔明さんの嫁取りは、後々笑い話になるでしょう。

しおりを挟む
 琉璃りゅうり孔明こうめいの式は日取りを決め、行われることになった。

 きんの為に準備していたお金を一旦使い、結婚の準備である六礼りくれいを行おうとした孔明だが、紅瑩こうえいの嫁ぎ先の馬家や、晶瑩しょうえい龐家ほうけが率先して動き回り、孔明はあれよあれよというまに花婿として、実家の代わりに龐家から黄家に琉璃を迎えに行ったのだが……。

「ふあぁぁぁん、にいしゃま、どこぉ……?」

と走り回る花嫁と、追いかける義兄月英げつえいと、義父黄承彦こうしょうげん

「な、何をされて……」
「にいしゃまぁぁぁ……いたぁーの」

 泣きじゃくりながら孔明にしがみつく琉璃に、ゼイゼイと荒い息をした親子は、

「やっぱり、も、もう……こいつはお前に任せた、孔明」
「た、頼み、ましたぞ。婿殿!」
「な、にかありましたか?」

恐る恐る訊ねる孔明に、月英と黄承彦は交互に、

「あったも何も、お前が龐家から、眠ってる琉璃を連れておいて帰っただろう?」
「先程、目を覚ましてからは、この状態での……」
「『あにしゃまがいにゃい~、あにしゃまぁぁぁ、あにしゃま、どこぉ』って、ビービー泣き通し。それで、一応オレがもうすぐ来るからって言ったら、『自分で行く!』ってこのざまだ! 折角の準備は水の泡! 実家で逃げ回る花嫁なんて前代未聞だぞ?」

怒ると言うよりも、呆れ返る月英の横で、黄承彦は腹を抱えて笑い始める。

「ははははっ」 
「親父、大丈夫か? おかしくなってねぇな?」
「当たり前だ!」

 ポカッと息子の頭を平手で軽く叩いた黄承彦は再び笑いながら、孔明を見る。

「こんな、馬鹿げた騒がしい式など、聞いた試しもなく、きっと他にありますまい。……婿殿。まだ幼く、ものの道理もここでの常識も、全く解らぬ娘ですが、よろしくお願いします。まぁ、これで良いと言われたのは婿殿ですからの。安心してお任せ致します」
「は、はい。お嬢さんを大事に、大切に致します」

 孔明は隣に琉璃を座らせ、子供として親に対する拝礼はいれいをする。
 そして、腰に手を当てニッと照れ臭そうに笑っている月英にも、弟としての拝礼をする。

「そして、義兄上。これからもよろしくお願いします」
「……あ、兄貴の前に、親友だからな! 当然だ!」

 その後、孔明は琉璃と共に、何とか滞りなく儀式を済ませ、龐家に戻った。



 車の中、居心地悪そうにもぞもぞしているらしい琉璃に、孔明は声をかける。

「琉璃? 」
「ご、ごめんにゃしゃい、なの……にいしゃま。めがしゃめたりゃ、にいしゃま、いなくて……しやない、おねーしゃんがいっぱいいたにょ。こ、こわかったの。で、も……お、おとーしゃまとおにーしゃまに、わゆいことしたにょ。ごめんにゃしゃいするの」

 たどたどしい言葉。
 琉璃の言葉は、北方の俗語のその又、なまり。
 一度それとなく訊ねると、北方の戦を転々とする一団に物心着いた頃からいたらしい。
 一団はただの兵士達のだけではなく、その家族や親族、途中で出会った仲間や、戦場となった故郷を捨てて流離さすらう女子供もいた。
 しかし、琉璃は髪と瞳の色の為に、ほとんどの者に忌避され、苛められたり食事を与えられなかったりと、悲惨な目に遭っていたらしい。
 だが、その中には仲良くしてくれた一つ上の女の子もいて、蔑まれ吐き捨てられた言葉を意味も解らず繰り返すしか出来なかった琉璃に、言葉を教えてくれたらしい。
 そしてようやく覚え始めた頃には、一団の中でも戦に出る部隊に否応なく押し込まれ、裸馬の光華こうかと共に戦場を駆け巡ることになったのだという。

「おこってうかにゃ……おにーしゃま、おとーしゃま。琉璃きあいってゆうかにゃ……?」
「それはないよ。琉璃」

 孔明は、優しく告げる。

「琉璃のお父さんもお兄さんも、怒ってなかったよ。それよりも、嬉しがってたね。こんな式は前代未聞だって笑ってたでしょう?」
「わらうにょ?」
「そう。家の娘はこれだけお転婆でも、婿が来た。良い婿を貰ったって自慢するらしいよ? 私が良い婿か良く解らないけれどね? それと、大袈裟に話を流すんだろうね。家の娘の琉璃は可愛いって」
「かわいー?」

 孔明の言葉を繰り返す。

「そう、可愛いって。義父上は、大人しすぎる娘よりも、琉璃みたいなお転婆で可愛い娘が大好きだよ。同じく月英も」
「なのー?」
「そう。だから、心配しないこと。でも、やっぱり心配だったら、明日。義父上と月英に会いに行こう。お父さん、お兄さん、遊びに来ましたって。喜ぶよ?」

 孔明の言葉に、見る間に目を輝かせる。

「は、はいにゃの、いくにょ!」
「じゃぁ、約束。行こうね? 明日が楽しみだね」

 話しながら歩いていると、龐家の門が見えてきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

飛翔英雄伝《三國志異聞奇譚》〜蒼天に誓う絆〜

銀星 慧
歴史・時代
約1800年前に描かれた、皆さんご存知『三國志』 新たな設定と創作キャラクターたちによって紡ぎ出す、全く新しい『三國志』が今始まります! 《あらすじ》 曹家の次女、麗蘭(れいらん)は、幼い頃から活発で勇敢な性格だった。 同じ年頃の少年、奉先(ほうせん)は、そんな麗蘭の従者であり護衛として育ち、麗蘭の右腕としていつも付き従っていた。 成長した二人は、近くの邑で大蛇が邑人を襲い、若い娘がその生贄として捧げられると言う話を知り、娘を助ける為に一計を謀るが… 『三國志』最大の悪役であり、裏切り者の呂布奉先。彼はなぜ「裏切り者」人生を歩む事になったのか?! その謎が、遂に明かされる…! ※こちらの作品は、「小説家になろう」で公開していた作品内容を、新たに編集して掲載しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...