27 / 100
次男坊はこういう方々から非常に愛されています。
腹黒への仕返しは、腹黒い策略で倍返しをしましょう。
しおりを挟む
「……という訳なのよ。本当に、やになっちゃうわ~」
弟達の住む臥竜崗から、夫に勧められしばらく滞在をさせて貰うことになった晶瑩の嫁ぎ先、龐家に向かう馬車の中で、紅瑩は穏和な口調ながらも、ギリギリと持っていた暗器を握りしめた。
姉妹と共の馬車に、女装で乗り込んでいた月英はえげつない、最低な、卑劣な行為に顔をしかめ、つい、素の口調で問いかける。
「それどう考えても、季常の策略じゃねぇ?昔のお前なら、おりゃぁぁって仕返し三昧だろ?」
何でしないんだと言いたげに、問いかける月英に、コロコロと笑う。
「決まっているでしょ、月英さん。私達の家の家訓は『お礼は二倍、やられたら100倍返し』よ。それにね?昔の亮なら季常さんの悪巧みは気にせず、聞き流していたでしょうけど、今は琉璃ちゃんに付きっきりでしょ? ……おほほ……あの、何度も亮に話しかけようとして全て流されたり、琉璃ちゃんの姿を見ただけで季常さん無視で駆けつけるでしょう? あの、季常さんの顔と見たら楽しくて堪らないわぁ」
おほほ……を通り越し、数年前のような馬鹿笑いをする紅瑩に、晶瑩は姉を見つめる。
「姉様。本当に何ともなかったの? 何か隠してない? 亮に心配かけたくないのは分かるけれど、私も均も、月英さんも気づいていてよ? 姉様の顔が浮かないこと」
「……っ」
息を飲んだ紅瑩だが唇を震わせ、見る間に顔が歪みボロボロと涙をこぼす。
「姉様!」
「おい、紅瑩?」
二人はぎょっとするが、泣きながら告げる紅瑩の言葉に息をのみ、一瞬にして怒りを露にする。
「……ふ、2人目を身ごもっていたの……私が口にしたその毒、子供を堕胎させる為の作用もある薬で……でも……」
旦那様が欲しがってた……女の子だったのよ。
わぁぁ……っと泣きじゃくる紅瑩を、晶瑩が抱き締める。
「お、落ち着くまではと、旦那様以外には……だ、黙って……亮に均に本当は、報告も兼ねてたの……な、なのに」
普段はお転婆でおおらかな紅瑩の弱々しい姿に、晶瑩共々花嫁になる為の英才教育を施した月英は、ブチキレる。
「……アイツぶん殴っても飽きたらねぇ……! あの馬鹿が策をもてあそんで、紅瑩を傷つけたんだな! 許せねぇ……一回ぶん殴ってやるか、もしくは……そうだ!」
顔を上げ、二人……特に晶瑩を見る。
「晶瑩。手を組まねぇか? あの馬鹿がいる邸になんて、紅瑩戻したくないだろ?」
「えぇっ! 当然だわ。私達の姪っ子を死なせてしまうなんて、義弟の風上にもおけない! ……でも、月英さん。亮は馬鹿のように心が広いし、一度受け入れたら、無理よ?」
「大丈夫だ! オ……私に限ってあり得ないわ。何年孔明と付き合っていると思ってらっしゃるの? 5年よ、もうすぐ5年! 解らない訳ないでしょう? あの季常と私を同じにして欲しくないわぁ」
久しぶりの月英の高笑いに、二人は顔を見合わせ、そして紅瑩は口を開く。
「あのね? 実は、泣き寝入りも黒幕が傍でうろちょろするのも、作り笑いされるのも嫌になっちゃったから、こちらに来る前に、旦那様宛に書簡を残しておいたのよ。あぁ多分、今馬で横を通りすぎているのは、家の早馬ね」
横を余りにも早い速度で、
「申し訳ありません! 緊急時の為ご挨拶も出来ませんが、通らせて頂きます!」
声を上げながら通り抜け、この丘に一軒しかない家を目指して走り去っていく。
「あら、いつもは優柔不断でのんきな旦那様なのに、こんなに急ぐなんて、私と月英さんのお友達書簡を、盗み読みするのに飽きたらず、その上に書きかけにしていた、薬に詳しい亮と月英さんに送ろうとしてやめたものを読んじゃったのかしら……あら、困ったわ。季常さんが、例の義理の姉上の侍女の方と関係があったこととか、書いてしまっていたわ」
頬に手を当て、口調とは裏腹ににやっと笑って見せる。
「それに、亮に聞こうと思っていたのよ。季常さんの薬草園の中に数種類、亮がけして触らないようにって言っていた、毒薬があったのを……書きかけた時に、馬車の準備が出来て、慌ててし舞い込んでしまったから……閉め忘れたんだわ。どうしましょう?」
若奥様らしく首をかしげ、女性としての立ち居振舞いを習った月英を見る。
「月英さん。私、最近はとても、頑張っているつもりだけど、ごめんなさいね? 最後の最後がこうなるとは、恥ずかしいわ」
「良いのよ、紅瑩は頑張っているわ。私だって閉め忘れ位あるもの……でも、相当焦った使いだったわね。どうしましょうか? あの季常の表情の変化を見に戻ろうかしら?」
その言葉に、首を振る。
その横で晶瑩が、
「見苦しい言い訳を聞くのも嫌だわ。それに、あのく……あら嫌だわ。クソガキなんて乱暴な言葉使うつもりはなかったのよ。そう、あの季常さんなら、亮をあっさりと言いくるめてしまいそうね……大丈夫かしら?」
「そうねぇ、でも亮には普段から月英さんと均に、最近になってだけれど琉璃ちゃんもいるから大丈夫ね」
「そうねぇ、ビックリしたわ、あの子。普通の流浪の孤児じゃないわよ。姉様が投げた石を瞬時に払いのけるんですもの。それに、一瞬にして季常さん敵認定してしまったものね」
目を丸くする2人。
「そうなのよ、あれには驚いたわ。私の腕が鈍ったのかと思ったもの。でも、ここで色々話しても仕方がないわ。それよりも、均から後で話を聞く方が、何倍も面白いと思うのよ。そう思わない? 晶瑩」
「そうねぇ……」
晶瑩は考え込むが、すぐに、
「後の方が良いわ。それに、私達が悋気を起こしたと思われるのも嫌だわ。それに季常さんよりも、私達の方が立場が上だと思い知らせたいわ、姉様?」
「そうよね! ねぇ、月英さん、どうかしら?」
二人の視線に月英は頷く。
「それは、良いと思うわ。それとね? 良い考えがあるのよ」
手招きをする月英に顔を寄せた2人は、こそこそと囁く月英の言葉にしばらく聞き入り、そして顔を見合わせ頷いた。
「それは素晴らしいわ!」
「良い策だわ。江東にいるあの変人兄は放っといて、義母様もお喜びになるわ! 月英さん、天才よ!」
2人は喜び、そして、月英は今までさんざん利用され続けた恨みを晴らしてくれようと、細かい策略を膝を付き合わせ話し始めるのだった。
弟達の住む臥竜崗から、夫に勧められしばらく滞在をさせて貰うことになった晶瑩の嫁ぎ先、龐家に向かう馬車の中で、紅瑩は穏和な口調ながらも、ギリギリと持っていた暗器を握りしめた。
姉妹と共の馬車に、女装で乗り込んでいた月英はえげつない、最低な、卑劣な行為に顔をしかめ、つい、素の口調で問いかける。
「それどう考えても、季常の策略じゃねぇ?昔のお前なら、おりゃぁぁって仕返し三昧だろ?」
何でしないんだと言いたげに、問いかける月英に、コロコロと笑う。
「決まっているでしょ、月英さん。私達の家の家訓は『お礼は二倍、やられたら100倍返し』よ。それにね?昔の亮なら季常さんの悪巧みは気にせず、聞き流していたでしょうけど、今は琉璃ちゃんに付きっきりでしょ? ……おほほ……あの、何度も亮に話しかけようとして全て流されたり、琉璃ちゃんの姿を見ただけで季常さん無視で駆けつけるでしょう? あの、季常さんの顔と見たら楽しくて堪らないわぁ」
おほほ……を通り越し、数年前のような馬鹿笑いをする紅瑩に、晶瑩は姉を見つめる。
「姉様。本当に何ともなかったの? 何か隠してない? 亮に心配かけたくないのは分かるけれど、私も均も、月英さんも気づいていてよ? 姉様の顔が浮かないこと」
「……っ」
息を飲んだ紅瑩だが唇を震わせ、見る間に顔が歪みボロボロと涙をこぼす。
「姉様!」
「おい、紅瑩?」
二人はぎょっとするが、泣きながら告げる紅瑩の言葉に息をのみ、一瞬にして怒りを露にする。
「……ふ、2人目を身ごもっていたの……私が口にしたその毒、子供を堕胎させる為の作用もある薬で……でも……」
旦那様が欲しがってた……女の子だったのよ。
わぁぁ……っと泣きじゃくる紅瑩を、晶瑩が抱き締める。
「お、落ち着くまではと、旦那様以外には……だ、黙って……亮に均に本当は、報告も兼ねてたの……な、なのに」
普段はお転婆でおおらかな紅瑩の弱々しい姿に、晶瑩共々花嫁になる為の英才教育を施した月英は、ブチキレる。
「……アイツぶん殴っても飽きたらねぇ……! あの馬鹿が策をもてあそんで、紅瑩を傷つけたんだな! 許せねぇ……一回ぶん殴ってやるか、もしくは……そうだ!」
顔を上げ、二人……特に晶瑩を見る。
「晶瑩。手を組まねぇか? あの馬鹿がいる邸になんて、紅瑩戻したくないだろ?」
「えぇっ! 当然だわ。私達の姪っ子を死なせてしまうなんて、義弟の風上にもおけない! ……でも、月英さん。亮は馬鹿のように心が広いし、一度受け入れたら、無理よ?」
「大丈夫だ! オ……私に限ってあり得ないわ。何年孔明と付き合っていると思ってらっしゃるの? 5年よ、もうすぐ5年! 解らない訳ないでしょう? あの季常と私を同じにして欲しくないわぁ」
久しぶりの月英の高笑いに、二人は顔を見合わせ、そして紅瑩は口を開く。
「あのね? 実は、泣き寝入りも黒幕が傍でうろちょろするのも、作り笑いされるのも嫌になっちゃったから、こちらに来る前に、旦那様宛に書簡を残しておいたのよ。あぁ多分、今馬で横を通りすぎているのは、家の早馬ね」
横を余りにも早い速度で、
「申し訳ありません! 緊急時の為ご挨拶も出来ませんが、通らせて頂きます!」
声を上げながら通り抜け、この丘に一軒しかない家を目指して走り去っていく。
「あら、いつもは優柔不断でのんきな旦那様なのに、こんなに急ぐなんて、私と月英さんのお友達書簡を、盗み読みするのに飽きたらず、その上に書きかけにしていた、薬に詳しい亮と月英さんに送ろうとしてやめたものを読んじゃったのかしら……あら、困ったわ。季常さんが、例の義理の姉上の侍女の方と関係があったこととか、書いてしまっていたわ」
頬に手を当て、口調とは裏腹ににやっと笑って見せる。
「それに、亮に聞こうと思っていたのよ。季常さんの薬草園の中に数種類、亮がけして触らないようにって言っていた、毒薬があったのを……書きかけた時に、馬車の準備が出来て、慌ててし舞い込んでしまったから……閉め忘れたんだわ。どうしましょう?」
若奥様らしく首をかしげ、女性としての立ち居振舞いを習った月英を見る。
「月英さん。私、最近はとても、頑張っているつもりだけど、ごめんなさいね? 最後の最後がこうなるとは、恥ずかしいわ」
「良いのよ、紅瑩は頑張っているわ。私だって閉め忘れ位あるもの……でも、相当焦った使いだったわね。どうしましょうか? あの季常の表情の変化を見に戻ろうかしら?」
その言葉に、首を振る。
その横で晶瑩が、
「見苦しい言い訳を聞くのも嫌だわ。それに、あのく……あら嫌だわ。クソガキなんて乱暴な言葉使うつもりはなかったのよ。そう、あの季常さんなら、亮をあっさりと言いくるめてしまいそうね……大丈夫かしら?」
「そうねぇ、でも亮には普段から月英さんと均に、最近になってだけれど琉璃ちゃんもいるから大丈夫ね」
「そうねぇ、ビックリしたわ、あの子。普通の流浪の孤児じゃないわよ。姉様が投げた石を瞬時に払いのけるんですもの。それに、一瞬にして季常さん敵認定してしまったものね」
目を丸くする2人。
「そうなのよ、あれには驚いたわ。私の腕が鈍ったのかと思ったもの。でも、ここで色々話しても仕方がないわ。それよりも、均から後で話を聞く方が、何倍も面白いと思うのよ。そう思わない? 晶瑩」
「そうねぇ……」
晶瑩は考え込むが、すぐに、
「後の方が良いわ。それに、私達が悋気を起こしたと思われるのも嫌だわ。それに季常さんよりも、私達の方が立場が上だと思い知らせたいわ、姉様?」
「そうよね! ねぇ、月英さん、どうかしら?」
二人の視線に月英は頷く。
「それは、良いと思うわ。それとね? 良い考えがあるのよ」
手招きをする月英に顔を寄せた2人は、こそこそと囁く月英の言葉にしばらく聞き入り、そして顔を見合わせ頷いた。
「それは素晴らしいわ!」
「良い策だわ。江東にいるあの変人兄は放っといて、義母様もお喜びになるわ! 月英さん、天才よ!」
2人は喜び、そして、月英は今までさんざん利用され続けた恨みを晴らしてくれようと、細かい策略を膝を付き合わせ話し始めるのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河
墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。
三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。
全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。
本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。
おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。
本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。
戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。
歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。
※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。
※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる