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三世紀だよ。全員集合?
孔明お母さんの子育ては、誉めて伸ばしていくようです。
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孔明により琉璃と名付けられた少女は、一進一退を繰り返しながらも次第に元気になっていった。
最初は全く喉を通らなかった粥が少しずつ食べられるようになり、特に重かった背中の傷も、跡が残るかもしれないが癒えてきている。
そして元気を取り戻してくると、付ききりだった大人達は平常時の仕事に戻っていき、一人取り残された子供は……。
「こらっ! 何してる」
普段、女装の月英と均が入り浸っている、元の母屋にある作業部屋に隠れている琉璃に、月英は絶句する。
しかも怪我人、病人だと言うのに、自分が材料や道具を置いている棚の上に登り丸くなっている。
「危ないだろ! 今すぐ降りろ! 琉璃」
「やーにゃーの」
「やーなーの。じゃないぞ。そういってる間に……あぁ来た」
扉が開き、長身の孔明が顔を覗かせる。
「月英。琉璃見ませんでしたか?」
「そこだ。あの棚の上。降りろって言ってたところだ」
月英に示された棚の上にうずくまる琉璃に、孔明は目を丸くして近付くと手を伸ばしひょいっと抱き下ろす。
「何してたの? 琉璃。月英のお手伝いしに来たの? まだ早いと思うけれどね? それよりも、こんな高い所によく昇れたね? 凄いね~。どうやって昇ったの? 昇り方教えて欲しいなぁ?」
と、琉璃を叱りもせず笑って話しかけている孔明に、月英が顔をしかめる。
「こら、孔明。危ないことをしたのに、叱らないのか?」
「怒っても、やる時には子供はやるんですよ。叱るよりお話しする方が解ってくるから大丈夫。それに琉璃は身が軽いから、壊れたりしないですよ、その棚。丈夫に頑丈に作りましたから」
「棚じゃないっての。琉璃が危ないことをって……」
月英は言うが、孔明は目を丸くして琉璃を見、振り返る。
「危ないこと? これ位で?」
「これ位って危ないだろ?」
「棚ですよ? ちゃんと書簡や、月英の作業道具を載せても、びくともしないんですよ? そんなところに昇った位で叱っては、何やっても叱ることになりますよ。月英」
淡々と答える。
「それに、申し訳ないですが、この程度の事、家では日常茶飯事だったんです。そんな事に一々目くじら立てていては持ちませんよ。子育ては余裕を持たないと……姉上達との生活なんてもっとぶっ飛んでましたよ。弓箭が飛んできたり、豚や猪が部屋中走り回ったりが当たり前だったので、これ位動じませんよ。それに、ピリピリしないで下さい。前にちゃんと言い聞かせたから、鍬とか、そこらの武器になるような道具を持たなくなったでしょう? これ以上言うと、それは上から押さえ付ける呪縛、命令になります」
孔明の眼差しに一瞬、月英は息を飲む。
それは、月英の知らない生き方をしてきた……琉璃が、初め見せていた荒んだ、何かに飢えた別の生き物……。
同じ気配を察したのか、身を縮めた少女に気がつきはっとしたのか、殺気を解いた孔明は茶化すように、
「琉璃が怯えるか泣きますよ? ほら、だから震えてる」
と告げる。
月英は笑いかける。
「……お前……本当に苦労したんだな……」
しみじみとした心底不憫そうな言葉に、孔明は苦笑する。
「当たり前でしたからね。7才上の兄上は賢い上に遊学していましたし、父は忙しくて、母は均が生まれて余り日を置かずに亡くなって、義母が均の面倒を見て下さって……でも、姉上二人の面倒までは見きれなかったらしくて……」
「年下のお前が? 二人を?」
「あ、少しして、義母が妹を生んだので、最終的には均も見てましたよ。……あぁ、ごめんね? 琉璃はつまらないね? 琉璃はいい子だから、月英のしていることじっと見ていたんだ~? 月英の邪魔しないんだから偉い偉い。でも、動き回って疲れたよね、少しお休みしようね?」
琉璃を抱き直し、月英を見る。
「じゃ、月英。又後で。琉璃、後でねってバイバイしようね?」
手を取り、ヒラヒラと振ると二人は出ていく。
「父親ってより、母親か……あいつ」
月英は呟いたのだった。
最初は全く喉を通らなかった粥が少しずつ食べられるようになり、特に重かった背中の傷も、跡が残るかもしれないが癒えてきている。
そして元気を取り戻してくると、付ききりだった大人達は平常時の仕事に戻っていき、一人取り残された子供は……。
「こらっ! 何してる」
普段、女装の月英と均が入り浸っている、元の母屋にある作業部屋に隠れている琉璃に、月英は絶句する。
しかも怪我人、病人だと言うのに、自分が材料や道具を置いている棚の上に登り丸くなっている。
「危ないだろ! 今すぐ降りろ! 琉璃」
「やーにゃーの」
「やーなーの。じゃないぞ。そういってる間に……あぁ来た」
扉が開き、長身の孔明が顔を覗かせる。
「月英。琉璃見ませんでしたか?」
「そこだ。あの棚の上。降りろって言ってたところだ」
月英に示された棚の上にうずくまる琉璃に、孔明は目を丸くして近付くと手を伸ばしひょいっと抱き下ろす。
「何してたの? 琉璃。月英のお手伝いしに来たの? まだ早いと思うけれどね? それよりも、こんな高い所によく昇れたね? 凄いね~。どうやって昇ったの? 昇り方教えて欲しいなぁ?」
と、琉璃を叱りもせず笑って話しかけている孔明に、月英が顔をしかめる。
「こら、孔明。危ないことをしたのに、叱らないのか?」
「怒っても、やる時には子供はやるんですよ。叱るよりお話しする方が解ってくるから大丈夫。それに琉璃は身が軽いから、壊れたりしないですよ、その棚。丈夫に頑丈に作りましたから」
「棚じゃないっての。琉璃が危ないことをって……」
月英は言うが、孔明は目を丸くして琉璃を見、振り返る。
「危ないこと? これ位で?」
「これ位って危ないだろ?」
「棚ですよ? ちゃんと書簡や、月英の作業道具を載せても、びくともしないんですよ? そんなところに昇った位で叱っては、何やっても叱ることになりますよ。月英」
淡々と答える。
「それに、申し訳ないですが、この程度の事、家では日常茶飯事だったんです。そんな事に一々目くじら立てていては持ちませんよ。子育ては余裕を持たないと……姉上達との生活なんてもっとぶっ飛んでましたよ。弓箭が飛んできたり、豚や猪が部屋中走り回ったりが当たり前だったので、これ位動じませんよ。それに、ピリピリしないで下さい。前にちゃんと言い聞かせたから、鍬とか、そこらの武器になるような道具を持たなくなったでしょう? これ以上言うと、それは上から押さえ付ける呪縛、命令になります」
孔明の眼差しに一瞬、月英は息を飲む。
それは、月英の知らない生き方をしてきた……琉璃が、初め見せていた荒んだ、何かに飢えた別の生き物……。
同じ気配を察したのか、身を縮めた少女に気がつきはっとしたのか、殺気を解いた孔明は茶化すように、
「琉璃が怯えるか泣きますよ? ほら、だから震えてる」
と告げる。
月英は笑いかける。
「……お前……本当に苦労したんだな……」
しみじみとした心底不憫そうな言葉に、孔明は苦笑する。
「当たり前でしたからね。7才上の兄上は賢い上に遊学していましたし、父は忙しくて、母は均が生まれて余り日を置かずに亡くなって、義母が均の面倒を見て下さって……でも、姉上二人の面倒までは見きれなかったらしくて……」
「年下のお前が? 二人を?」
「あ、少しして、義母が妹を生んだので、最終的には均も見てましたよ。……あぁ、ごめんね? 琉璃はつまらないね? 琉璃はいい子だから、月英のしていることじっと見ていたんだ~? 月英の邪魔しないんだから偉い偉い。でも、動き回って疲れたよね、少しお休みしようね?」
琉璃を抱き直し、月英を見る。
「じゃ、月英。又後で。琉璃、後でねってバイバイしようね?」
手を取り、ヒラヒラと振ると二人は出ていく。
「父親ってより、母親か……あいつ」
月英は呟いたのだった。
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