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始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。
結構昔も今もあるんだろうなぁと思います。
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やってしまった……!
と思った。
自分でも自覚がある。
しかし、溜まりに溜まった鬱憤は、言葉の矢となって降り注いでしまったのだ。
「ほほぉ……では君は。この人殺しと、机を並べても気にしないと?」
「はぁ? 人殺しですか?」
孔明は、自分より背は低いがひ弱な印象はなく、がっしりとした中肉中背の青年を見る。
姓は徐、字は元直と言うらしい。
当然、諱は解らない。
孔明よりも2才程年上らしいが腰が低く物静かで、所作は丁寧で洗練されている青年である。
しかし腰が低すぎるせいか、塾の殆どの学生に馬鹿にされたり、無視や、酷い時には持ち物を壊したり、捨てられたりされている。
彼よりもこういうことをする卑怯者……目の前のがさつな者達の立ち居振舞いの方が、余程たちが悪いと思うのは自分だけだろうか?
その上、どこのガキだ、一体幾つだとすら思う。
それに、この塾は派閥と言うか、やたらと変な勧誘がある。
自分はどこの官吏の息子……とか、何とか地方に勢力を持つ家の息子だから、仲良くしておいて損はないぞと言うあれである。
まぁそれ位なら、あぁ、地元で馬鹿をやったか、やる前に遊学させて箔をつけておこうという、ボンボンの親の思惑が見え隠れしているのが解る。
しかし、孔明には全く理解しがたい、呆れてものも言いたくないのは、聞いたことのない、初期漢王朝の皇帝の何十番目の皇子の末裔と結婚した姉がいる誰それとか、とある地方豪族の嫁の甥の従兄弟の何とかとか、漢王朝の初期の文官の末裔だなどと言い張る存在。
孔明も過去、祖先が漢王朝に仕えていた忠臣の末裔だからと、さも当然のように、仲間に入れてやろうという、センパイのアホさ加減にである。
「人殺し……ですか? 北の曹孟徳は、徐州で大量虐殺しましたよね? それは、陶州牧の部下が金に目が眩んで曹孟徳の父親を殺害し、州牧は謝罪しましたが、怒り狂い侵攻し民を次々と殺し回りましたよね。その事でしょうか?」
穏やかに淡々と問いかける。
「違う! こいつだ! こいつは昔、人を殺したんだ! 知人を殺され、返り討ちにしたらしい」
「へぇ……そうですか。何と男気に溢れた……一対一だったのですか?」
好奇心旺盛と言った様子で問い掛ける孔明に、青年も目を開く。
「……向こうが三で、こちらが一だった……」
孔明が聞いたこともない、ぞくぞくする程の少しかすれた色気のある声が、唇から零れる。
「それは、自分も死にたくないでしょうから、本気になりますよね。それで? どうしてそちらは、この方を人殺しと言うのでしょう? それなら曹孟徳や、今は居ないものの黄巾賊の方が規模が違いますよ。この方を罵るなら、まず曹孟徳の面前で言いましょう。生きてますよ? 今すぐどうぞ」
孔明は唇を歪める。
「それに、解っていますか? ここでは政治・経済、雑多に学んでいます。しかし、塾を出てどんな役職につけるんです? 貴方方の浅知恵のように、金さえあれば何とかなる世界じゃないんですよ、外は。文官として赴任したとしても、何か起これば剣を握り戦い、もしくは、参謀として小部隊を率いることだってあるんです。自分が手を染めなくても、兵士が人を斬り殺す。これが今の世なんですよ。彼のように覚悟を決めて、それ位の気概があって、ここに学びに来ているのならまだしも、甘ったれた考えで生と死、勉学を語らないで戴けませんか? はっきり言ってウザイです! それに、私も人殺しなので彼と一緒ですね」
孔明の発言に周囲はしんっとなる。
「私は曹孟徳の徐州での大量虐殺から、逃げてきた人間なので。姉二人と弟を守る為に色々と……してきたんですよ。この手で何十人もの兵を殺し回りましたし、参謀として難民を指揮して戦いました」
次第に青ざめ後退り始める学友を見回し、噛んで含めるようにゆっくりと告げる。
「たらたらと過去の先祖がどうとかこうとか……自慢する前に、荊州をどうすべきか、国がどうなればいいとか考えろ! 考えられないなら引っ込んでろ。お前達にこの国の平和や、戦の終結を語る資格はない!」
孔明の激しい口調に、後ろの方でパンパンと手を叩く男が一人。
「語るねぇ……流石は『伏龍』ってことか。おいお前ら、こいつに手ぇ出すなよ。家の財産だからな。勝手に手ぇ出すと……伯父貴にチクるぞ?」
だらしない格好はしているものの、上等の衣を纏った青年。
中々端正なのだが、残念なことに顔を真横に突っ切る傷痕がある。
「ま、元直。季常が気に入ったおもちゃだけはあるだろう? 仲良くしてくれ」
ヒラヒラと手を振る男の元に近付き、孔明は食って掛かる。
「誰がそちらの家の財産、おもちゃですか? それに貴方は……」
「ん? オレはぁ、士元(しげん)。てめえの姉貴の旦那の従兄弟。よろしくな~孔明」
にやにや笑う士元に孔明は、
「馬家、龐家どちらでしょう? 」
「どっちだろうなぁ? 」
のらりくらりする士元に近付いた元直が、頭を殴り淡々と孔明に告げる。
「これはこれでも、龐家の御曹司だ。馬鹿のふりをしているが切れ者だ。注意しろ。孔明殿」
「殿は必要ありません。孔明とお呼び下さい。元直兄と、お呼びします」
孔明は礼儀を正し、深々と頭を下げる。
「だが……」
「周囲が何と言おうと、元直兄は元直兄です。よろしくお願いします」
「じゃぁ、オレの事は……」
士元の声に、冷たく、
「貴方からは厄介事しかこないような気がします。近づいて来ないで下さい」
「何だと!? 」
「言葉通りです。私は厄介事や面倒事は避けたいので、近寄らないで戴けませんか?」
孔明のしっしっと追い払う仕草に、ムッとする士元の顔を見て、笑いを堪える元直。
この日、孔明は長年のライバルの一人と敬愛する存在を得た……のだった。
と思った。
自分でも自覚がある。
しかし、溜まりに溜まった鬱憤は、言葉の矢となって降り注いでしまったのだ。
「ほほぉ……では君は。この人殺しと、机を並べても気にしないと?」
「はぁ? 人殺しですか?」
孔明は、自分より背は低いがひ弱な印象はなく、がっしりとした中肉中背の青年を見る。
姓は徐、字は元直と言うらしい。
当然、諱は解らない。
孔明よりも2才程年上らしいが腰が低く物静かで、所作は丁寧で洗練されている青年である。
しかし腰が低すぎるせいか、塾の殆どの学生に馬鹿にされたり、無視や、酷い時には持ち物を壊したり、捨てられたりされている。
彼よりもこういうことをする卑怯者……目の前のがさつな者達の立ち居振舞いの方が、余程たちが悪いと思うのは自分だけだろうか?
その上、どこのガキだ、一体幾つだとすら思う。
それに、この塾は派閥と言うか、やたらと変な勧誘がある。
自分はどこの官吏の息子……とか、何とか地方に勢力を持つ家の息子だから、仲良くしておいて損はないぞと言うあれである。
まぁそれ位なら、あぁ、地元で馬鹿をやったか、やる前に遊学させて箔をつけておこうという、ボンボンの親の思惑が見え隠れしているのが解る。
しかし、孔明には全く理解しがたい、呆れてものも言いたくないのは、聞いたことのない、初期漢王朝の皇帝の何十番目の皇子の末裔と結婚した姉がいる誰それとか、とある地方豪族の嫁の甥の従兄弟の何とかとか、漢王朝の初期の文官の末裔だなどと言い張る存在。
孔明も過去、祖先が漢王朝に仕えていた忠臣の末裔だからと、さも当然のように、仲間に入れてやろうという、センパイのアホさ加減にである。
「人殺し……ですか? 北の曹孟徳は、徐州で大量虐殺しましたよね? それは、陶州牧の部下が金に目が眩んで曹孟徳の父親を殺害し、州牧は謝罪しましたが、怒り狂い侵攻し民を次々と殺し回りましたよね。その事でしょうか?」
穏やかに淡々と問いかける。
「違う! こいつだ! こいつは昔、人を殺したんだ! 知人を殺され、返り討ちにしたらしい」
「へぇ……そうですか。何と男気に溢れた……一対一だったのですか?」
好奇心旺盛と言った様子で問い掛ける孔明に、青年も目を開く。
「……向こうが三で、こちらが一だった……」
孔明が聞いたこともない、ぞくぞくする程の少しかすれた色気のある声が、唇から零れる。
「それは、自分も死にたくないでしょうから、本気になりますよね。それで? どうしてそちらは、この方を人殺しと言うのでしょう? それなら曹孟徳や、今は居ないものの黄巾賊の方が規模が違いますよ。この方を罵るなら、まず曹孟徳の面前で言いましょう。生きてますよ? 今すぐどうぞ」
孔明は唇を歪める。
「それに、解っていますか? ここでは政治・経済、雑多に学んでいます。しかし、塾を出てどんな役職につけるんです? 貴方方の浅知恵のように、金さえあれば何とかなる世界じゃないんですよ、外は。文官として赴任したとしても、何か起これば剣を握り戦い、もしくは、参謀として小部隊を率いることだってあるんです。自分が手を染めなくても、兵士が人を斬り殺す。これが今の世なんですよ。彼のように覚悟を決めて、それ位の気概があって、ここに学びに来ているのならまだしも、甘ったれた考えで生と死、勉学を語らないで戴けませんか? はっきり言ってウザイです! それに、私も人殺しなので彼と一緒ですね」
孔明の発言に周囲はしんっとなる。
「私は曹孟徳の徐州での大量虐殺から、逃げてきた人間なので。姉二人と弟を守る為に色々と……してきたんですよ。この手で何十人もの兵を殺し回りましたし、参謀として難民を指揮して戦いました」
次第に青ざめ後退り始める学友を見回し、噛んで含めるようにゆっくりと告げる。
「たらたらと過去の先祖がどうとかこうとか……自慢する前に、荊州をどうすべきか、国がどうなればいいとか考えろ! 考えられないなら引っ込んでろ。お前達にこの国の平和や、戦の終結を語る資格はない!」
孔明の激しい口調に、後ろの方でパンパンと手を叩く男が一人。
「語るねぇ……流石は『伏龍』ってことか。おいお前ら、こいつに手ぇ出すなよ。家の財産だからな。勝手に手ぇ出すと……伯父貴にチクるぞ?」
だらしない格好はしているものの、上等の衣を纏った青年。
中々端正なのだが、残念なことに顔を真横に突っ切る傷痕がある。
「ま、元直。季常が気に入ったおもちゃだけはあるだろう? 仲良くしてくれ」
ヒラヒラと手を振る男の元に近付き、孔明は食って掛かる。
「誰がそちらの家の財産、おもちゃですか? それに貴方は……」
「ん? オレはぁ、士元(しげん)。てめえの姉貴の旦那の従兄弟。よろしくな~孔明」
にやにや笑う士元に孔明は、
「馬家、龐家どちらでしょう? 」
「どっちだろうなぁ? 」
のらりくらりする士元に近付いた元直が、頭を殴り淡々と孔明に告げる。
「これはこれでも、龐家の御曹司だ。馬鹿のふりをしているが切れ者だ。注意しろ。孔明殿」
「殿は必要ありません。孔明とお呼び下さい。元直兄と、お呼びします」
孔明は礼儀を正し、深々と頭を下げる。
「だが……」
「周囲が何と言おうと、元直兄は元直兄です。よろしくお願いします」
「じゃぁ、オレの事は……」
士元の声に、冷たく、
「貴方からは厄介事しかこないような気がします。近づいて来ないで下さい」
「何だと!? 」
「言葉通りです。私は厄介事や面倒事は避けたいので、近寄らないで戴けませんか?」
孔明のしっしっと追い払う仕草に、ムッとする士元の顔を見て、笑いを堪える元直。
この日、孔明は長年のライバルの一人と敬愛する存在を得た……のだった。
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