破鏡の世に……(アルファポリス版)

刹那玻璃

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始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。

色々裏があって、うわぁ嫌だと逃げ出そうと考えたりしています。

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 月英げつえいの猛特訓は、罵詈雑言ばりぞうごんが飛び交う中、何とか順調に進んでいた。
 その間、孔明こうめいは月英が言う畑仕事だけでなく、二人の姉の嫁入り道具を揃えようと走り回っていた。
 しかし、月英の父、黄承彦こうしょうげんが先回りをしており、店に顔を出すと、

「黄家の旦那様が、お買い上げになられているよ」

と声をかけられ、荷物が家に届く……という日々が続いていた。
 月英に相談しても、

「あぁ、あの狸親父なら気にするな。あの亡きハハウエ殿との間に子供はいないし、今でも妾も作らせて貰えないし。跡取りと言ってもこのオレだ。今更男でした~なんてバラせるか? それで腐っているところに、お前の姉達だろ? しかも、蔡家さいけとの繋がり以外に欲しがってた縁を、季常きじょうが持っていったらしい。ホクホクしてるだろうよ」

と言い、姉の立ち居振舞いにビシバシ注意をする。

「えっ、馬家に二人共嫁ぐのでは……」
「はぁ?」

 月英は呆れ返った顔で、孔明を見上げる。

「こんな狂暴なのと破壊魔。一家に一人で充分だ。紅瑩こうえいの方が馬家の次男の仲常ちゅうじょう殿に嫁いで、晶瑩しょうえいの方は、龐家ほうけの当主、徳公とくこう叔父の息子の山民さんみんに嫁ぐんだよ」
「龐……徳公様」

 孔明は目を見開く。

『龐徳公』

 この荊州でも、名の知られた資産家。
 蔡家、馬家、黄家と並ぶ名家の当主である。
 特に水軍を指揮する蔡家や、商家の黄家、軍師を多く排出する馬家に比べ影は薄そうだが、徳公は友人の司馬徳操しばとくそうこと『水鏡すいきょう』の私塾に出資し、軍略、政略、政務と言った才能を持つ人材を育成し、見出すことで知られていた。

「えっ、あ、あの晶瑩姉上を、徳公様の息子の嫁~! 無、無理です! 月英に徹底的にされても無理です! 絶対無理です!」
「もう、狸親父と叔父で日取り決めてて無理。お前も見たんだろ? 星。どうだった?」

 その言葉に黙りこむ。
 月英の言う通り孔明は星を見て、姉達の将来を僅かだが読んだ。
 遠いか近いか解らない未来には、ある程度苦労はあるが、平均的に平穏な暮らしを送れると読めた。
 二人ともほぼ同じだったので、同じ家に嫁ぐと思っていたのだが……。

「ん? 不満だったか? なら、オレのハハウエの姉の旦那のめかけが良いか? 恐ろしいぞ? あのオバサンも」
「えと、オバサンとは……?」
「ん? だからオバサンは劉景升りゅうけいしょう様の後妻の蔡氏。つまり、劉景升の妾……」
「却下ー! そのままでお願いします!」

 孔明は必死に頭を下げる。

「だろう? そっちはいけないだろう? だから季常が、狸親父に持ちかけたんだ。感謝しろ」
「し、します。でも……利用されてる感じですが、季常殿に」

 苦笑う。

「ん?まぁなぁ……今のところはアイツの勝ちだ。ちびのわりに大人顔負けの完璧さで動かしてる。でもなぁ、あぁ言う性格だからこそ、計画、策略にずれが生じてみろ。どうなるかが見ものだ……」

 月英は利用されている自覚もあってか、唇を歪める。

「いざという時に崩れてみろよ? アイツの性格から言うと一貫の終わりだ。もし、孔明がアイツを使うなら考えて利用しろよ? 共倒れだけは止せよな」
「恐ろしい事を言わないで下さい。私は参謀にはなりませんよ。なるのなら内政の官吏に。農地を開拓したり、物資輸送を考えますね。それより一介の農民になります。晴れの日には畑を耕し、雨の日は読書や大事な道具の手入れ。のんびりと貴方の作った発明品を眺めながら、もっと良いものになるかどうか口出ししてあげますよ」

 にこにこと孔明は笑う。
 月英は4才上の20才だが、孔明は遥かに背が高く、この間持ってきたばかりの月英の実家から持ってきた衣の裾が短く、くるぶしが見えている。

「……お前……」
「はい、なんでしょう? 月英」

 まだあどけない顔に少々ムカつき、ゴーンと額を殴る。

「い、いったぁ~! 何するんですか、急に」
「折角持ってきてやった衣がつんつるてんだ。食も細いし、余り寝ないってのに、お前の身体はどーなってるんだ? えっ? オレにも身長分けやがれ!」
「そ、そんなこと言っても、父も兄もそんなに長身じゃなかったですし、分かりませんよ。それに分けてあげたいですけど、粘土じゃないので……」

 真顔で必死に訴える孔明の頭をもう一度殴り、ほんの少しではあるものの溜飲りゅういんを下げたのだった。
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