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始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。
一応次男坊は世話焼き気質です。恋愛体質ではありません。
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完全に倒壊した母屋は、瓦礫は薪等に、中から持ち出し何とか利用できるものは孔明が普段寝起きをしていた、古く大きいだけの離れに移し、生活を再開した。
一応畑を全ておこしならした孔明は、残っていた大根の種を植え、水を撒き一息つく。
しばらくは山菜と薬草を採って、街で売る事になる。
肉はこの間保存食にしておいたのでいいが、河で釣りをして魚料理も良いかもしれない。
自分は勝手にひょろひょろ伸びたので気にしないし、多分これ位で止まるだろうが、姉弟達の貧弱な体を食べさせていないと思われるのもシャクである。
美味しいものを食べさせて弟の背を伸ばしてやりたいし、姉達にはほんの少し、ささやかでも良いのでまろやかな体躯になって欲しい……。
そう思いながらのんびりと鍬を肩に乗せ、釣り道具を取りに戻ろうとした孔明は、畑の隅に均が植えている花を熱心に見ている人間に気が付く。
細身の少女である。
しかし、一応女性と思われるのは女物の衣と長い髪。
だが、残念なことに髪は手入れを怠っているのか、絡まりバサバサで色褪せており、着ているものも一般の農民と自負する孔明には羨ましい程の上質の絹だというのに、埃や墨に汚れ、しかもすりきれている。
そして、花を観察している瞳は明るい茶色。
興味深いのか輝いたそれは、キョロキョロと動き回っている。
その様子に孔明は、
「珍しいですか?」
と問いかける。
「うん♪ 珍しい。そっくりなのは私の植物園にもあるけど、この花びら……あぁっ! この葉の形! 噂に聞いた泰山の妙薬?」
「いえ、そんな言い伝えはありますが、ごく普通の雑草です」
孔明はあっさり答える。
「えぇぇーっ! そうなの? つまんない、つまんな~い!」
くるっと、孔明を振り返った人物は唇を尖らせる。
「そう言うのはね、大袈裟な位に言わないと~! 君、あの諸葛家の大男でしょ?」
「大男……と言うのは……」
初対面で、そんな風に言われたことの無い孔明は顔をひきつらせて良いか、怒れば良いかも解らず呟く。
「大男じゃない。ちなみに私は赤いのだよ!」
「あ、赤いのって……」
「ん?私は母さんが、胡人で西から来た舞姫ね。で、父に見初められて私が出来たの。でも父の正妻のいびりに耐えられなかったのと~、故郷が恋しかったらしくて、私を置いて帰っちゃった。この髪の色は母譲りね。良い色でしょ?」
にっこり笑うものの、その笑みは複雑な何かを孕む。
「そうですね。でもちゃんと櫛で梳くなり、揃えるか縛るかしてはどうですか? 大事な母上譲りの髪でしょう。大切にしては?」
「……っ」
表情が強張る、目の前の人物の瞳を孔明は、静かに見つめる。
「認められない、認めたくない。そう思っても、真実は真実です。貴方の母上は父上の後添いの家によって命を奪われました。父上は、権力者に近づく彼らを敵に回したくなかった。だから口を閉ざし、貴方を守る為にその姿……女装をさせたのでしょうね。黄月英殿ですね? 初めてお目にかかります。諸葛孔明と申します」
「……男だって誰に聞いた?」
高めの声だった月英の声が低くなる。
「私の弟も女装をさせているので。と言うより、弟は女装が趣味です。貴方程ではないものの一応なりきります。それに、一応性別上女性の姉が二人いますから、その成長期特有の不自然な骨格とその喉仏、指は細いですけど節くれだっています。解りますよ」
「そ、そこまで見てるのか……」
「まぁ、人間観察ですか?」
苦笑する。
「小さい頃からの癖ですよ。癖」
「そうなのか? お前は切れ者だぞ。話に聞いてたのと違うな」
「話?」
「あぁ」
わしゃわしゃと髪をかいた月英は、孔明を見上げる。
「馬家の季常が来た。アイツにオレは色々と発明品を見せるんだが、アイツには使いこなせないものが多い。アイツには野心がある。その為にオレを利用してる。オレはオレで金のかかる発明品を作る小遣いや、アイツの欲しがるものを作るのを楽しんできたが、アイツは危険だと最近気づいた」
「……発明品……ですか?」
あえて季常の事は避け、興味を覚えた言葉を問いかける。
「ん? 発明品。昔の書物にあるだろう? 方向を示す車、指南車とかって。それに、オレは星を読めない。だから星を読む道具を作りたいんだ。そうすれば、戦や飢饉、災害を完全とは言い切れないまでも、避ける事ができると思って。それとか、馬の買えない人が荷物を簡単に運ぶ道具とかな。オレは色々とそう言うのを作りたいんだ。でもなぁ……」
月英は花を見つめ、苦しげに呟く。
「季常はそんなものはいらないって、言うんだよな。今は乱世で戦乱の世だ。今、必要なのは武器であり、城を攻める雲梯などの補助道具だとさ。雲悌は場所をとるし、組み立てる間に敵に燃やされては困る。小さくてすぐに使えるものを作ってくれとか、他にも昔の歴史書の中の武器とか道具を……そう言うのをアイツは作れと言う。でもオレは……」
「作れば良いじゃないですか。雲悌なんて武骨なものより運搬車を」
「だが、金を貰ってるしな……」
唸る月英に、孔明は、
「嫌ならやめたら良いんです。それに、嫌々してても出来ませんよ。今も煮詰まっているんでしょう? やる気がでないんですよね」
「……うぅ……」
「それより運搬車は? 他にはどういうのを作りたいんです?」
問いかける孔明に、月英は目を輝かせ話し始める。
その楽しげな声を、ウンウンと頷きながら聞いていたのだった。
一応畑を全ておこしならした孔明は、残っていた大根の種を植え、水を撒き一息つく。
しばらくは山菜と薬草を採って、街で売る事になる。
肉はこの間保存食にしておいたのでいいが、河で釣りをして魚料理も良いかもしれない。
自分は勝手にひょろひょろ伸びたので気にしないし、多分これ位で止まるだろうが、姉弟達の貧弱な体を食べさせていないと思われるのもシャクである。
美味しいものを食べさせて弟の背を伸ばしてやりたいし、姉達にはほんの少し、ささやかでも良いのでまろやかな体躯になって欲しい……。
そう思いながらのんびりと鍬を肩に乗せ、釣り道具を取りに戻ろうとした孔明は、畑の隅に均が植えている花を熱心に見ている人間に気が付く。
細身の少女である。
しかし、一応女性と思われるのは女物の衣と長い髪。
だが、残念なことに髪は手入れを怠っているのか、絡まりバサバサで色褪せており、着ているものも一般の農民と自負する孔明には羨ましい程の上質の絹だというのに、埃や墨に汚れ、しかもすりきれている。
そして、花を観察している瞳は明るい茶色。
興味深いのか輝いたそれは、キョロキョロと動き回っている。
その様子に孔明は、
「珍しいですか?」
と問いかける。
「うん♪ 珍しい。そっくりなのは私の植物園にもあるけど、この花びら……あぁっ! この葉の形! 噂に聞いた泰山の妙薬?」
「いえ、そんな言い伝えはありますが、ごく普通の雑草です」
孔明はあっさり答える。
「えぇぇーっ! そうなの? つまんない、つまんな~い!」
くるっと、孔明を振り返った人物は唇を尖らせる。
「そう言うのはね、大袈裟な位に言わないと~! 君、あの諸葛家の大男でしょ?」
「大男……と言うのは……」
初対面で、そんな風に言われたことの無い孔明は顔をひきつらせて良いか、怒れば良いかも解らず呟く。
「大男じゃない。ちなみに私は赤いのだよ!」
「あ、赤いのって……」
「ん?私は母さんが、胡人で西から来た舞姫ね。で、父に見初められて私が出来たの。でも父の正妻のいびりに耐えられなかったのと~、故郷が恋しかったらしくて、私を置いて帰っちゃった。この髪の色は母譲りね。良い色でしょ?」
にっこり笑うものの、その笑みは複雑な何かを孕む。
「そうですね。でもちゃんと櫛で梳くなり、揃えるか縛るかしてはどうですか? 大事な母上譲りの髪でしょう。大切にしては?」
「……っ」
表情が強張る、目の前の人物の瞳を孔明は、静かに見つめる。
「認められない、認めたくない。そう思っても、真実は真実です。貴方の母上は父上の後添いの家によって命を奪われました。父上は、権力者に近づく彼らを敵に回したくなかった。だから口を閉ざし、貴方を守る為にその姿……女装をさせたのでしょうね。黄月英殿ですね? 初めてお目にかかります。諸葛孔明と申します」
「……男だって誰に聞いた?」
高めの声だった月英の声が低くなる。
「私の弟も女装をさせているので。と言うより、弟は女装が趣味です。貴方程ではないものの一応なりきります。それに、一応性別上女性の姉が二人いますから、その成長期特有の不自然な骨格とその喉仏、指は細いですけど節くれだっています。解りますよ」
「そ、そこまで見てるのか……」
「まぁ、人間観察ですか?」
苦笑する。
「小さい頃からの癖ですよ。癖」
「そうなのか? お前は切れ者だぞ。話に聞いてたのと違うな」
「話?」
「あぁ」
わしゃわしゃと髪をかいた月英は、孔明を見上げる。
「馬家の季常が来た。アイツにオレは色々と発明品を見せるんだが、アイツには使いこなせないものが多い。アイツには野心がある。その為にオレを利用してる。オレはオレで金のかかる発明品を作る小遣いや、アイツの欲しがるものを作るのを楽しんできたが、アイツは危険だと最近気づいた」
「……発明品……ですか?」
あえて季常の事は避け、興味を覚えた言葉を問いかける。
「ん? 発明品。昔の書物にあるだろう? 方向を示す車、指南車とかって。それに、オレは星を読めない。だから星を読む道具を作りたいんだ。そうすれば、戦や飢饉、災害を完全とは言い切れないまでも、避ける事ができると思って。それとか、馬の買えない人が荷物を簡単に運ぶ道具とかな。オレは色々とそう言うのを作りたいんだ。でもなぁ……」
月英は花を見つめ、苦しげに呟く。
「季常はそんなものはいらないって、言うんだよな。今は乱世で戦乱の世だ。今、必要なのは武器であり、城を攻める雲梯などの補助道具だとさ。雲悌は場所をとるし、組み立てる間に敵に燃やされては困る。小さくてすぐに使えるものを作ってくれとか、他にも昔の歴史書の中の武器とか道具を……そう言うのをアイツは作れと言う。でもオレは……」
「作れば良いじゃないですか。雲悌なんて武骨なものより運搬車を」
「だが、金を貰ってるしな……」
唸る月英に、孔明は、
「嫌ならやめたら良いんです。それに、嫌々してても出来ませんよ。今も煮詰まっているんでしょう? やる気がでないんですよね」
「……うぅ……」
「それより運搬車は? 他にはどういうのを作りたいんです?」
問いかける孔明に、月英は目を輝かせ話し始める。
その楽しげな声を、ウンウンと頷きながら聞いていたのだった。
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