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始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。

諸葛家の子供達で一番まともなのは次男坊のみでしょう……

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 姉達に押し出されるようにして、孔明こうめいが家に向かって歩いていくと、朝あんなに片付けて出ていった筈の家が散々に荒れ果てていた。
 いや、荒れ果てたと言うより、廃墟はいきょ寸前である。

 二人の姉の事だから、言葉以上に壊しているだろうとは想像していたものの……これは、酷すぎではないか?
 何時もは壁を弓や石等の投擲とうてき武具の稽古に使われようが、玄関の扉や何かを拳や蹴りで破られようが、部屋の中央に置いている台の脚を折り振り回そうが、椅子の代わりに使っている箱が粉砕されていようが、何とか目をつぶり、亡き両親とこの世で一番恐ろしい長兄のあざなを心の中で数え切れない程唱えて、我慢してきた。

 しかし、母屋の柱が折れ、屋根が斜めに雪崩なだれ落ち、古いものの大事に飼っている鶏達の為の、修理したばかりの小屋を倒しかねない勢いである。
 これは、問い詰めずにはいられまい。

「あ、ね……」
 
 ギシギシと、音をたてるような仕草で振り返る。

「し、知らないわよ!」
「私ならここまで大袈裟にしないわ、ね、ねえ? 姉様」

 二人の姉の首がブンブンと大きく振られる。

「じゃぁ……」

 口を開きかけた孔明は、どすっと足許に突き刺さる包丁にぎょっとする。

紅瑩こうえい姉様っ、晶瑩しょうえい姉様っ。お帰りあそばされましたのね? 死ぬ覚悟をしてこられたのね? のうのうと、恥ずかしげもなく、良くお戻りになられましたわね。では!」

 甲高い声とともに、続いて何故か色褪せ汚れた髪飾りが飛んでくる。

「こ、こら! きん!」

 髪飾りを慌てて捉えると、声をかける。

「亡き母上の大事にしていた飾りを投げるなんて、何を考えているんだ! それに、そんな場所で何をしているんだ。出てきなさいっ!」

 先程からミシミシと嫌な音が聞こえている。

「話はちゃんと聞いてあげるから、均、ほら、早く!」
「嫌よ! 姉様たちが、私の大事にしていた衣を裂いたのよっ? それに育てていた大根だけじゃなくて、兄様に作って頂いたお花畑まで……わあぁぁん。私の、私の……」

 激しく泣き出した声に、嫌な音は大きくなる。
 孔明は荷物を下ろすと、急いで全壊寸前の家の中から小さな少女を抱え飛び出してくる。
 孔明が少女を庇うように覆い被さった瞬間、背後の家は崩壊する。

「……無事か?」
「……う、うわぁぁぁぁん! 兄様ぁぁん」

 孔明にしがみつき、わんわん泣きじゃくる。

「はいはい……」

 よしよしと頭を撫でながら、その間に鶏小屋に走って、4羽の鶏を捕まえてきた姉達を視界に捉え、ほっとしつつこれからどうしようと頭を抱えたくなる孔明がいたのだった。
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