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第一章

人生というのは虚飾と偽りにまみれ、後悔と嘘がバレることに怯える。

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 ベンヤミーンの母は貴族ではなかったらしい。
 お手つきになった時にはまだ16歳頃で、その後ベンヤミーンを生み、産後の肥立ちが悪く亡くなったらしい。
 王族の墓の中には、ベンヤミーンの実母の墓もない。
 下民の子、そう父の妃たちに聞いているのだから真実なのだろう。

 そして、のちに正妃として迎えるオフェリアとは乳兄妹。
 女の子だけ四人の騎士団長のもとで、ベンヤミーンは長男として育った。

 物心ついた時には、義父に徹底的に騎士となるべく鍛え上げられ、騎士団の参謀や同行することの多かった魔法使い長から戦術に魔法を初歩から学び、そして元々王族の出だった乳母から帝王学と礼儀作法、学問、ダンスと夜以外ずっと叩き込まれた。
 その為、口は悪いが、出来た息子と騎士団長の長男は周囲に知られるようになった。
 義父はそれは努力したからだとベンヤミーンを自慢に思っていた。
 努力はいいことだと、そう言っていた。
 心配していたのは、ベンヤミーンの乳母……。
 できることを周囲に自慢するのではなく、もっと謙虚にと言い聞かせた。

 その言葉の意味を理解できたのは、もっと遅かったのだが……。

 ベンヤミーンが10歳になった日に王宮に呼ばれた。
 その場で三度殺されかけたのだ。
 一度は飲み物に毒、次には庭を歩いていたら矢を射掛けられ、最後は暗殺者に直接狙われた。

 毒は一口口にしただけで、すぐに吐き出し大事に至らず、矢はベンヤミーン曰く、ヘロヘロだったのですぐ避けた。
 しかし、最後に回廊を歩いていたら、数人の暗殺者に襲われた。
 ベンヤミーンを庇い、乳母が斬られたのである。

 泣き崩れるオフェリア姉妹に、王妃、側室たちは目に愉悦の表情を浮かべ、偽りの労りの言葉を投げる。
 傀儡の国王と王太子は青ざめ震えるだけで、ベンヤミーンの眼差しから逃れようと目を逸らす。

「……母上……」
「まぁ、お前の母はお前を生んで死んでしまったのに、乳母を母と呼ぶなんて亡くなった母が可哀想ではなくて?」
「お前はまた母を殺すのですね」
「あぁ、酷いこと」

 ギラギラと派手な扇を広げ笑う女たちに、ベンヤミーンは拳を握りしめるが、かすれた声が聞こえて来る。

「……ベンヤミーン……」
「母さん!」

 夫と娘たちに囲まれていた乳母は、ベンヤミーンの名を繰り返す。

「貴方が、悪い訳じゃないの。貴方は私の自慢の息子。悪いのは……」

『この国』

 言葉に出さず、口を動かす。

「人々と生きる意味を探しなさい。貴方は私の子であり、エミーリアの息子。この国を変えなさい。悲しむ人が減るように。理不尽な、世の中を……正しい道に直しなさい」
「母さん!」
「スティーファ!」

 微笑むと、夫と子供たちの顔を見て、目を閉じた。

 号泣する妹たちを抱きしめ、ベンヤミーンは誓う。

「あの女たちを赦さない……」



 乳兄妹の様子に心配していたオフェリアは、父譲りの剣の腕で成人し、ベンヤミーンの護衛となった。
 人嫌いだが、人に愛されるベンヤミーンの側で、戦い続け、そのままなし崩し的に妃になるのだが、

「母上は父上のこと嫌いなの?」

ダリミルは、まだ幼い妹を抱っこしたオフェリアに問いかける。

「……そうねぇ……お母さまは、お父様を呆れてはいるけれど嫌いではないのよ?」
「嫌いじゃないのに、どうして父上は、『嫌われた~』って言うの?」
「……どうしてでしょうね。本当に情が移ると甘やかしてしまうのよ」

と苦笑する顔を思い出す。
 母が生きていたら、もっと上手く立ち回れただろうか……そう思う。



「父上! お願いです!」
「許す訳ないだろう? 私の次はお前が王なんだ。国を捨てる気か?」
「スティファーリアを、ティファを追い詰めた奴を愛することはできない!」
「些末なことを……お前は全く理解していないらしい」

 父親を睨み付ける。

「私事で、政務を滞らせるブレイハ公爵も愚かだが、まだ長男をよろしく頼むと……仕事を預ける余裕があった。だがお前は、唯一の王太子であり、代理も用意できない。成人していながら結婚もしていない」

 息子の眼差しなど怯えることはない。
 鼻で笑い、続ける。

「ティファと結婚する!」
「スティファーリアはもう17。婚約をしていてもおかしくないだろう? その話題すら出していない点でお前は遅れているし、婚約者として手回ししていれば、こちらから王子妃のために正式な護衛にメイド、侍女、侍従をつけられた。分かるか? お前が悪いんだよ」
「……っ!」
「口先だけで、何もできない者ほどよく吠えるな。それこそ役立たずではないか? 大人しくここで反省していろ」

 そういいおくと、唇を噛み項垂れる息子を放置し、階段を降りていった。
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