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ジャンヌの想い。
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あぁ、ただ、貴方に言って欲しかった。
「一緒に逃げよう……」
そう、それだけで幸せだったと思うの。
神の言葉を信じ、私は戦い続けた。
ただ単純だったのね?
私が戦い続けることで、私の生まれた村や、国に平和が訪れ、春には花が咲き、畑を耕して、そして家畜を育て……豊かになると……。
でも、私には神の言葉を信じるしかなかった。
ただの小さな貧しい村娘……政治なんて知らない。
戦いが終われば、あなたと共に戦場を去って、身分が違うから一緒にいられなくても、近くにいられるかもしれないと、夢を見てしまった……。
ねぇ?
あなたといられて幸せだったと、本当に思っていたのよ?
あなたもそう思っていると思っていた。
最後に会えなくても……同じ思いを持っていてくれていると……信じていた。
あなたと一目だけでも、視線だけでも会いたかった。
たとえ火が私の命を奪っても……私の思いは奪われない。
あなたもそう思って欲しかった……。
神の身許で、祈りの日々を送る。
地上の人々、国のこと、家族のこと、そしてあなたのことも……。
ある日、天使さまに呼ばれた。
その場所に向かうと、水が張られた水盤があり、汚れやつれた見知らぬ人が、刑場に連れていかれるのが見えた。
「天使さま。この方は……」
「ジル・ド・モンモランシ=ラヴァル(Gilles de Montmorency-Laval)だ。そなたの近くにいたジル・ド・レと呼ばれていた男。レはRais……地名で、爵位は男爵」
「ど、どうしてですか? 彼は、何も……」
「そなたと別れてから、領地に戻り、錬金術だけではなく黒魔術と言うものにのめり込み、150~1000人以上の少年たちを性的に暴行したり虐殺……犠牲者が出た」
「何てこと……」
言葉を失った……。
1429年の9月に別れたときには、少しわがままで癇癪持ちだけど朗らかに笑っていたのに……。
水盤の向こうには落ち窪んだ瞳と、やつれて、手入れしていない髭の男がいた。
何かを探すようにキョロキョロとしているけれど、その瞳は濁っている。
そして、彼の周囲には涙を流す傷だらけの少年たちの霊が……。
「傷つけられし愛しき御霊よ、神の身許に……」
私は祈る。
その声に気がついたのか、少年たちは天を振り仰ぎ、彼の首を絞めたり、髪を引っ張ったりしていた手を離し、ゆっくりと天に召されていく。
本当に憎い相手だと思う……けれど、そのままでいれば、もっと苦しむことになる。
祈り続け、そして、ふと気がつく。
水盤の向こうから、血走った瞳が見開かれこちらを見ていることに……。
何かを呟いていた……。
唇が動くのが見えた。
『ジャンヌ……』
それ以上聞きたくはないと、私は後ろを向いた。
愛おしい思いと、神の言葉……私には守ろうと思っていた人々への愛を……幾ら、裏切られたとしても、守ろうとした人々を苦しめるあなたは、私の知っていた人ではなかった。
愛した人ではなかった……。
さようなら、ジル・ド・レ……。
あなたは天に召されることはないでしょう。
もう二度と、私たちの愛は叶うことのない砕け散った硝子のようなもの……。
犠牲者の少年たちのことを祈りつつ、私は一筋の涙を流した……。
「一緒に逃げよう……」
そう、それだけで幸せだったと思うの。
神の言葉を信じ、私は戦い続けた。
ただ単純だったのね?
私が戦い続けることで、私の生まれた村や、国に平和が訪れ、春には花が咲き、畑を耕して、そして家畜を育て……豊かになると……。
でも、私には神の言葉を信じるしかなかった。
ただの小さな貧しい村娘……政治なんて知らない。
戦いが終われば、あなたと共に戦場を去って、身分が違うから一緒にいられなくても、近くにいられるかもしれないと、夢を見てしまった……。
ねぇ?
あなたといられて幸せだったと、本当に思っていたのよ?
あなたもそう思っていると思っていた。
最後に会えなくても……同じ思いを持っていてくれていると……信じていた。
あなたと一目だけでも、視線だけでも会いたかった。
たとえ火が私の命を奪っても……私の思いは奪われない。
あなたもそう思って欲しかった……。
神の身許で、祈りの日々を送る。
地上の人々、国のこと、家族のこと、そしてあなたのことも……。
ある日、天使さまに呼ばれた。
その場所に向かうと、水が張られた水盤があり、汚れやつれた見知らぬ人が、刑場に連れていかれるのが見えた。
「天使さま。この方は……」
「ジル・ド・モンモランシ=ラヴァル(Gilles de Montmorency-Laval)だ。そなたの近くにいたジル・ド・レと呼ばれていた男。レはRais……地名で、爵位は男爵」
「ど、どうしてですか? 彼は、何も……」
「そなたと別れてから、領地に戻り、錬金術だけではなく黒魔術と言うものにのめり込み、150~1000人以上の少年たちを性的に暴行したり虐殺……犠牲者が出た」
「何てこと……」
言葉を失った……。
1429年の9月に別れたときには、少しわがままで癇癪持ちだけど朗らかに笑っていたのに……。
水盤の向こうには落ち窪んだ瞳と、やつれて、手入れしていない髭の男がいた。
何かを探すようにキョロキョロとしているけれど、その瞳は濁っている。
そして、彼の周囲には涙を流す傷だらけの少年たちの霊が……。
「傷つけられし愛しき御霊よ、神の身許に……」
私は祈る。
その声に気がついたのか、少年たちは天を振り仰ぎ、彼の首を絞めたり、髪を引っ張ったりしていた手を離し、ゆっくりと天に召されていく。
本当に憎い相手だと思う……けれど、そのままでいれば、もっと苦しむことになる。
祈り続け、そして、ふと気がつく。
水盤の向こうから、血走った瞳が見開かれこちらを見ていることに……。
何かを呟いていた……。
唇が動くのが見えた。
『ジャンヌ……』
それ以上聞きたくはないと、私は後ろを向いた。
愛おしい思いと、神の言葉……私には守ろうと思っていた人々への愛を……幾ら、裏切られたとしても、守ろうとした人々を苦しめるあなたは、私の知っていた人ではなかった。
愛した人ではなかった……。
さようなら、ジル・ド・レ……。
あなたは天に召されることはないでしょう。
もう二度と、私たちの愛は叶うことのない砕け散った硝子のようなもの……。
犠牲者の少年たちのことを祈りつつ、私は一筋の涙を流した……。
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