あるバーのマスターの話

刹那玻璃

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第2章

『ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜』

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 今日は、彰一しょういちの長男の理央りおうと、その妻である祐実ゆみの結婚式である。



 理央は父と同じ人前式もいいなと思っていたのだが、彰一が、

「祐実さんの親族に安心してもらえるように、ちゃんとした式にしてあげなさい。理央は自慢の息子で、向こうのご両親は分かって下さっているけれどね? だけど、祐実さんが辛い事件に巻き込まれて、苦しまれたのは事実だからね? ご親族を考えなさい」
「そうね。それに、祐実さんが可愛いのは知っているけれど、理央さんがかっこいいのは本当だから、お母さんも素敵なお式がいいと思うの」

 はるかは、遼一りょういちを抱っこしながら微笑む。

「遼さん……僕とそんなに年違いませんけど……お母さんで良いんですか? お姉さんの方が近いと思います」
「えぇぇぇ? お母さんじゃ駄目かしら……」
「いえ、嫌いじゃなくて、えっと、お母さんが大好きですから!」

 理央は必死に答える。
 すると、

「嬉しい! りょうちゃん、お兄ちゃんが大好きって……あぁ、りょうちゃんも早く言ってくれないかしら……」
「いや、遼? 遼一はまだ喋らないよ」

彰一は口を挟む。

「だからね、理央? お金のことは気にしなくて良い。理央は私達の息子だからね? 父母として、できる限りしてあげたいんだ。祐実さんに幸せだって思ってもらえるように……」
「……ありがとうございます。お父さん、お母さん……」

 頬を赤くする理央。
 先日から貸し衣裳ではなく、ウェディングドレスやタキシードなど一式を仕立て屋に頼む父に焦っていた理央だが、本当に嬉しく感じる。

「でもね? 理央さん」

 遼は真剣に告げる。

「結婚式は、ウェディングドレスとイブニングドレスだけにしましょうね。本当は白無垢や色打掛も素敵だけど、祐実さんの身体に負担になると思うの。それに、私の夢なの! ウェディングベアとウェイトベア! 二人の為に作りますからね!」
「……えっとね? 遼……お母さんが言いたいのは、祐実さんは小柄だし、白無垢は似合うけれど、着て歩くのは大変だと言いたいんだ。だからね? ウェディングドレスとカクテルドレスの式はどうかな? という事。ともえ? どう思う?」

 巴は、小さい頃から着物を着て色々なお稽古事をしてきたので頷く。

「お兄さん。着物なんですけど、男性もお腹にタオルを巻いて袴を履きます。女性は、祐実さんのようにほっそりとした人だと、ハンドタオル5枚、バスタオル2枚を体に巻いて、上を重ねて帯を巻きます。その上に打掛を羽織るのでかなり重いです。頭の日本髪もかつらですが、ずっしりします。折角のお式です。お姉さんが疲れてしまうものではなく、あぁ良かったと笑ってくれるお式がいいと思うのです」
「えっ! そんなに!」
「はい、訪問着とかはある程度減らしますが、それでも、見栄えがするようにタオルを巻いておくのです」
「見栄え……」
「そうねぇ……この前のりょうちゃんのお宮参り。私でも巻いたのよ。しかもね? 胸をぐいぐいって圧迫よ~。胸があるのも駄目なんですって」

 遼は母乳で子育て中であり、厳しかったらしい。

「だから、可愛いドレスがいいと思うの! 巴ちゃんも可愛いから、お母さん楽しみなの」
「落ち着きなさい。遼」

 次第にテンションが上がる妻を止める彰一は、末っ子を抱くと溜息をつく。

「遼は、理央と巴が大好きだからね……でも、あれこれ口出しするのは駄目だよ?」
「えっ。お父さん、お母さん。二人だけだと、本当に困ります! 僕たち、向こうとこっち行き来しなくちゃいけないし……巴ちゃん! 忙しいのは分かるけど、お願い出来ないかな?」
「あ、良いですよ。えっと、お兄さん!」
「えっ! う、嬉しいなぁ」

 二人が照れ笑う。
 兄妹仲は本当に良いらしい。



 そう言ったやりとりと、祐実やその家族との話し合いが続き、結婚式の当日……。
 祐実は、父と腕を組みながらゆっくり歩く。
 途中で理央が待つ……。

 その場所に到着すると、沢山傷つき苦しみ抜いた娘の手を優しく撫で、そっと外すと、

「理央くん……よろしく頼むよ」
「はい、お義父さん。祐実さんを大事にします」

祐実の手を取り、歩き出した。
 その後の式で、二人は誓いを口にし、夫婦となった。



 披露宴会場では、何故か最初のお酒が、新郎の父である彰一が……入場の曲は新郎の母、遼が選んでいた。
 曲は、森口博子さんの『ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~』である。
 昔のアニメの曲だが、根強いファンが多い。

 そして、乾杯のお酒が配られる。
 ビールやワインが多いのだが、今回配られたのは、

「初めまして。私は、新郎の粟飯原理央あいばらりおうくんの親友で、谷本大輔です。このカクテルは、理央くんのお父さんから、皆さん……特に、新婦の祐実さんに贈るカクテルです」

 式の司会進行を担当する人は別にいるものの、このカクテルだけは大輔は説明したかった。

「カクテルの名前は『ゴッドマザー』。アルコール度数が少し高いので、ご注意ください。乾杯用のものです。そして、このカクテルを理央くんのお父さんが何故用意したかったか……カクテルにはそれぞれ花言葉のように、カクテル言葉があります。この『ゴッドマザー』は、『無償の愛』『他人の考え方を受け入れられる優美な人』と言います。理央くんは私が学生時代から迷惑をかけ通しの、本当に優しく強く、そして祐実さんには、愛情と幸せな日常を共に過ごせる最高のパートナーだと思います」

 目を丸くして大輔を見る理央に、

「そして、祐実さんは理央くんにはもったいない程、とても知的な美人です。それでいて個人で動くのではなく、周囲の仕事を確認しながらサポートし、人の意見を調整するサポート役として祐実さんの会社の方だけでなく、私たちの会社でも有能な人材として知られています。新郎の父、彰一さんが2人の為に選んだカクテルです。乾杯をお願い致します」

それぞれがグラスを手にし、そして、

「理央くん、祐実さんの今後を祝して!」
「おめでとう!」

祐実が頬を赤くして理央に、

「……幸せって、理央さんの側にあるんですね」

と囁き、理央も、

「これからも二人で……ううん、お互いの家族と幸せになろうね」

と微笑んだのだった。
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