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第2章
『また君に恋してる』
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つわりが始まり、朝が弱い遼にとって辛い時期である。
夏の暑さは外では汗をかき、買い物に行くとそのショッピングセンターはガンガンと冷房が効いている。
汗が一気に冷えて、濡れた服が肌に貼りつく。
それでも、余り冷房に当たりすぎてもと風鈴を買い、蚊取り線香を焚き、うちわで扇いで涼を取る姿に、
「遼? スイカでも食べるかい?」
「あ、えぇ。ありがとう。準備しますね」
「私がするよ」
スイカを切り、扇風機を持って行く。
「あ、涼しいですね」
「冷房の風は体を冷やすけど、扇風機は空気を循環させてくれるから、良いんだよ」
「それに、スイカの切り方、大きさがまちまちです」
CDをかけながら、彰一が答える。
「テレビでやっていたんだよ。スイカを縦に切るより、横に切って見える繊維に沿って切ると、タネがすぐ取れるんだって」
「あ、本当。表面のタネを取ったら、食べてもタネがない。彰一さん凄いですね」
冷えたスイカに嬉しそうな顔の妻に、彰一も頰を綻ばせる。
「まぁ、私もテレビで見ただけだけどね。それに、スイカの水分は多いので、脱水症状とか喉の渇きにいいんだよ」
「お塩をちょっと振りますね」
「取りすぎたらダメだよ」
「はーい」
彰一にも遼にも初めての子供である。
一から雑誌を読んだり、市内でのイベントに参加できる時は参加するようにしている。
年の若い夫婦の中で、彰一達は浮いていた。
いや、悪い意味ではなくいい意味で。
「粟飯原さんのご夫婦、素敵ですね」
「旦那さん、絶対一緒じゃないですか、羨ましい」
同じママ友に言われ、頰を染めることも多い。
「彰一さんは、暑いの大丈夫ですか?」
「そうですねぇ。昔はこんなに暑くなかったですよね。私の実家は周囲が山に囲まれてのどかな風景でしたよ。小さい頃は山を駆け回ってカブトムシをとったり、川で泳いだり……夕立が降りだしたら、慌ててバシャバシャと家まで帰るのが日課でした」
「そうですねぇ。私の家では打ち水してました。父が1日2回。そうしたら虹が見えてキャァキャァ喜んでました」
「水を撒くと、2度程温度が下がるそうですからね」
「涼しいんですよね」
にっこり笑う妻の頭を撫でる。
「いい歳したおばさんなんです~」
と真顔で言うが、年齢に見えない童顔で、今は辛い時期で動けないが普段はちょこまかと動き回る。
結婚と共に引っ越したこの家も、遼が彰一のことを考え居心地のいいものにしてくれていた。
「今度は、夕方にお祭りにでも行こうか? 余り長い間は疲れてしまうから、少しだけ」
「お祭りですか?」
「近くの商店街の傍に小さいお社があるんだよ。そのお祭り」
「知りませんでした」
「じゃぁ、行こうか」
「あっ! そうでした」
すると、遼が立ち上がり奥に行くと、何かを抱え戻ってくる。
「それは?」
「あ、浴衣です。彰一さんに似合うかなって……生地を選んで」
風呂敷を開けると、青海波の紋様の浴衣である。
「余り、上手く縫えてないかもしれませんが……」
「……ありがとう。本当に嬉しいよ」
「手を繋いで行きましょうね。えっと、私は方向音痴なので……」
「そうだね」
その日は、アルバムを坂本冬美さんに選んだ。
今日は奥でスヤスヤと眠っている妻にタオルケットをかけて、エアコンを直接当たらないようにしてある。
客として来た宣子と雄洋は、いつになく笑顔のマスターに、
「どうしたの?マスター」
「あぁ、顔に出てましたか……いけませんね」
少し照れくさそうに呟く。
「いえ、先日から、遼と公共のパパママ教室に行くようになったのです。周囲は皆さん、雄洋さん位のお父さんに、宣子さん位のお母さんが多くて、でもとても親切でしたよ」
「まぁ。マスターも行っているのね」
「そうなんです。遼一人で行かせられないでしょう?」
「そうね。でも、見て見たかったわ。マスターがその中にいるの」
ふふっ。
楽しそうに笑う宣子に、
「これからも通える時は通うつもりです。あぁ、曲が変わりましたね。今日は遼には飲んで貰えないので、お二人に贈らせてくれませんか?」
差し出したカクテル。
「ギムレット?」
「いえ、中に入っているものは同じものですが、『ジン・ライム』です」
「ジン・ライム?」
「えぇ……。カクテル言葉が『色あせぬ恋』と言うのです。この曲にぴったりだと思いませんか?」
宣子は、流れてくる曲に微笑む。
「マスターが惚気ているわ。でも、素敵ね」
流れている曲に聞きいったのだった。
ちなみに、夜市の日には、浴衣姿のマスターと手を繋いで歩く遼の姿があったのだった。
夏の暑さは外では汗をかき、買い物に行くとそのショッピングセンターはガンガンと冷房が効いている。
汗が一気に冷えて、濡れた服が肌に貼りつく。
それでも、余り冷房に当たりすぎてもと風鈴を買い、蚊取り線香を焚き、うちわで扇いで涼を取る姿に、
「遼? スイカでも食べるかい?」
「あ、えぇ。ありがとう。準備しますね」
「私がするよ」
スイカを切り、扇風機を持って行く。
「あ、涼しいですね」
「冷房の風は体を冷やすけど、扇風機は空気を循環させてくれるから、良いんだよ」
「それに、スイカの切り方、大きさがまちまちです」
CDをかけながら、彰一が答える。
「テレビでやっていたんだよ。スイカを縦に切るより、横に切って見える繊維に沿って切ると、タネがすぐ取れるんだって」
「あ、本当。表面のタネを取ったら、食べてもタネがない。彰一さん凄いですね」
冷えたスイカに嬉しそうな顔の妻に、彰一も頰を綻ばせる。
「まぁ、私もテレビで見ただけだけどね。それに、スイカの水分は多いので、脱水症状とか喉の渇きにいいんだよ」
「お塩をちょっと振りますね」
「取りすぎたらダメだよ」
「はーい」
彰一にも遼にも初めての子供である。
一から雑誌を読んだり、市内でのイベントに参加できる時は参加するようにしている。
年の若い夫婦の中で、彰一達は浮いていた。
いや、悪い意味ではなくいい意味で。
「粟飯原さんのご夫婦、素敵ですね」
「旦那さん、絶対一緒じゃないですか、羨ましい」
同じママ友に言われ、頰を染めることも多い。
「彰一さんは、暑いの大丈夫ですか?」
「そうですねぇ。昔はこんなに暑くなかったですよね。私の実家は周囲が山に囲まれてのどかな風景でしたよ。小さい頃は山を駆け回ってカブトムシをとったり、川で泳いだり……夕立が降りだしたら、慌ててバシャバシャと家まで帰るのが日課でした」
「そうですねぇ。私の家では打ち水してました。父が1日2回。そうしたら虹が見えてキャァキャァ喜んでました」
「水を撒くと、2度程温度が下がるそうですからね」
「涼しいんですよね」
にっこり笑う妻の頭を撫でる。
「いい歳したおばさんなんです~」
と真顔で言うが、年齢に見えない童顔で、今は辛い時期で動けないが普段はちょこまかと動き回る。
結婚と共に引っ越したこの家も、遼が彰一のことを考え居心地のいいものにしてくれていた。
「今度は、夕方にお祭りにでも行こうか? 余り長い間は疲れてしまうから、少しだけ」
「お祭りですか?」
「近くの商店街の傍に小さいお社があるんだよ。そのお祭り」
「知りませんでした」
「じゃぁ、行こうか」
「あっ! そうでした」
すると、遼が立ち上がり奥に行くと、何かを抱え戻ってくる。
「それは?」
「あ、浴衣です。彰一さんに似合うかなって……生地を選んで」
風呂敷を開けると、青海波の紋様の浴衣である。
「余り、上手く縫えてないかもしれませんが……」
「……ありがとう。本当に嬉しいよ」
「手を繋いで行きましょうね。えっと、私は方向音痴なので……」
「そうだね」
その日は、アルバムを坂本冬美さんに選んだ。
今日は奥でスヤスヤと眠っている妻にタオルケットをかけて、エアコンを直接当たらないようにしてある。
客として来た宣子と雄洋は、いつになく笑顔のマスターに、
「どうしたの?マスター」
「あぁ、顔に出てましたか……いけませんね」
少し照れくさそうに呟く。
「いえ、先日から、遼と公共のパパママ教室に行くようになったのです。周囲は皆さん、雄洋さん位のお父さんに、宣子さん位のお母さんが多くて、でもとても親切でしたよ」
「まぁ。マスターも行っているのね」
「そうなんです。遼一人で行かせられないでしょう?」
「そうね。でも、見て見たかったわ。マスターがその中にいるの」
ふふっ。
楽しそうに笑う宣子に、
「これからも通える時は通うつもりです。あぁ、曲が変わりましたね。今日は遼には飲んで貰えないので、お二人に贈らせてくれませんか?」
差し出したカクテル。
「ギムレット?」
「いえ、中に入っているものは同じものですが、『ジン・ライム』です」
「ジン・ライム?」
「えぇ……。カクテル言葉が『色あせぬ恋』と言うのです。この曲にぴったりだと思いませんか?」
宣子は、流れてくる曲に微笑む。
「マスターが惚気ているわ。でも、素敵ね」
流れている曲に聞きいったのだった。
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