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主李くんの萌えは、初々しいです。

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 主李かずい実里みのりは、再び赤信号そっちのけで突撃しようとした優希と竜樹たつき姉妹を、これはダメだと目で合図してバラバラにする。

 つまり、

「先輩、大丈夫ですか? 迷惑だったら帰ります……」
「迷惑? 言ってないけど?」

 実里はあっさり答える。

「それよりも、教えてよ。そ……お姉さんは結構何でも読むみたいだけど、竜樹は集中して熟読?」
「あ、はい! 日本史は得意です! 数学とか化学は苦手です」
「そうなの?」
「お姉ちゃんは、簡単な暗算とか得意なんです。でも、感想文が苦手です」

 竜樹の一言に、

「は? 君が?」
「いいえ、お姉ちゃん。本は読んでも深読みができないので、感情表現が変なんです。感想文が論文になってるからやり直しなさいって。絵日記もそうです」
「絵日記……」
「はい。小学校の夏休みの絵日記、朝顔の事を書いてたら、『7月○日、今日はつぼみの数は7つ。明日は咲く、多分。昼は暑い。夕立が降った。晴れているのに降ったのできつねの嫁入り』って小学校の低学年で書いていたので、先生が『大丈夫ですか? お嬢さんは?』って言われたそうです」

 実里は(  ̄- ̄)をする。

 どうして、小学生が『きつねの嫁入り』を知っている?
 それよりも可愛い表現方法はないのか?

「他は……『8月×日今日はお寺に行った。お寺の入り口にある阿吽あうん仁王におう像がとても迫力。仏像は菩薩ぼさつさまと如来にょらいさま。菩薩はまだまだ修行中。如来の方が格が上なのだと仏像の本にあった。そう言えば、菩薩さまはかたわらにはべっている。今日は綺麗な仏像が見られてうれしい』でした」
「……すごいね」
「そうなんです! お姉ちゃんすごいんです! 私、お姉ちゃんに一杯、色々教えて貰ったんです! 私、一生懸命文字を書いても、解らないって! そうしたら、お姉ちゃんが読んでくれて!」
「読めない文字?」

 実里は問いかける。

「『鏡文字』だって言っていました。レオナルド・ダ・ヴィンチもそうだったって、おかしくないよって、一緒に文字を書いて、書けるようになったんです」
「『鏡文字』……あぁ、あれね」

 実里は呟く。

 『鏡文字』と言うのは、文字通り鏡に写して読む文字であり、左利きの人が最初文字を覚えるときに陥りやすい。
 いや、正確にいうと、右利きの子供と文字を覚えようとすると、左利きの子供は机を並べて書くので同じように書こうとして、動きを真似ようとする。
 そうすると、反対に書いてしまうのである。
 注意されても、本人は皆と同じように書いていると思っているので、理解できない。
 その為悪循環に陥るのだ。

 特に昔の日本では、左利きの子供は右利きに直されることが多かった。
 それに、『鏡文字』を正確に理解しようとしていなかったのである。

 しかし、もっと古い時代は文字の識字率が低く、その『鏡文字』を利用し、暗号に使われたりもあったのだと言う。

「じゃぁ、竜樹は左利き?」
「両利きです。あ、えっと、お箸は右で、他は両方使えます。だから、お箸をもってご飯食べて、スプーンでプリン食べてってしていたら、器用だねぇって誉められました」
「誰に?」
「お姉ちゃんです。でも、器用なのも美点だけど、両方でさぁって、他の人がビックリするでしょ? それに、デザートは後で。楽しみがなくなるでしょって」

 マナーはどこだ!

 実里は頭を抱えたくなる。
 竜樹は首を傾げ、

「あ、後で、マナー違反って言われました。でも、怒られるより、分かりやすくてお姉ちゃん大好きです」
「あぁ、そう言う事か……お姉さん優しいね」

 叱って畏縮させるよりも、誉めつつ直す。
 姉としては、最上級の教育法だが……。

「年子なんだよね?」

 確認の為に聞き直す。

「はい。二年生です。えっと、見えませんか?」
「いや、大丈夫。別々に会ったら姉妹とは思えないけど、性格的に似てるし、と言うか……お姉さんっ子?」
「お父さんは仕事で忙しいし、お兄ちゃんはあの性格だし、弟はうるさいし、お姉ちゃんと喋っている方が面白いです!」

 目がキラキラ、拳も握って言い放った~!
 実里はめまいがする。
 姉も姉、妹も妹だぁぁ~!



 後で二人を見ていた主李と優希は、

「仲良いな?」
「良いなぁ……」
「な、何が? 実里と話したかった?」

 主李は慌てる。
 最近、部活と学級委員の仕事に追われている。
 告白止まりも気になるのだ。

「ううん。たっちゃん。嬉しそう。最近はみどりちゃん位しか、あんなに嬉しそうにお話しはしないのに……」
「……」

 その意味に、主李は気づく。
 優希もだが、竜樹も苛められっ子である。
 学校では無表情で口数も少ない。
 でも、今は明るい顔をして、楽しそうである。

 ちなみに『翠ちゃん』は、同級生の柳沢翡翠やなぎさわひすい
 吹奏楽部の部長で、颯爽としたしかも、主李たちよりも長身で170センチを優に越えた女子である。
 顔立ちも中性的で、主李ですら、

「柳沢は、本当に女性なのか?」

と思ってしまう程、男前な性格でもある。
 それは、優希を好きだった事もあり、いつも暗い表情をしていた優希が、翡翠の前ではにこにことしていて羨ましかったのもある。

 ハッとして、優希は照れ笑う。

「ごめんなさい。ちょっとだけ羨ましいです。でも、主李くんとお喋りできるのも、とっても嬉しいです」
「……」

 どうしよう……。

 主李は思った。
 この一言だけで舞い上がれる自分もかなりだが、

『……笑顔、めちゃくちゃ可愛い……』



 これだけでも、実里と竜樹に感謝である。
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