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実里くんはまた新しい事を知りました。

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 当日、待ち合わせは一番美術館に近い優希の家の前である。
 優希は羨ましいことに、県立図書館、美術館と市立図書館が、地図上で二等辺三角形の斜め、つまりほぼその線から45度で交わる辺りに住んでいる。

 中学校の近くの主李(かずい)に、その向こうの実里(みのり)は周囲が田畑とビルが交互に建っている地域だが、優希の家は大きな道路が縦横に走り、かなり中心部に出るのが容易い。

「この辺だったのか……良いなぁ。図書館近い」

 実里は羨ましそうに漏らす。

「知らなかったのか?」
「それはそうだろ? ストーカーじゃあるまいし、読書仲間の家に行ったりするか?」
「それはそうかも……」
「でも、お前は何で知ってるんだ?」

 実里の指摘に、ポリポリと頬をかく。

「いや、先輩と、後輩……だな」
「は?」

 言っていると、扉が開き、ひょろっとした人間が出てきた。
 15才になるとはいえ、まだ成長途中。
 頭ひとつ高い人物は、ボサボサとした髪と、くたびれたと言うか一応ヴィンテージといえばましな格好をしている。
 出てくると、

「あ、守谷もりや。おはよう」
「あ、おはようございます。先輩!」
「あぁ、優希、上。何なら入ってれば?」

示す。

「ぬいぐるみと本と裁縫道具で埋まってるぞ」
「いえ、外で待ってる約束なので……」
「そっかぁ?」

 長めの前髪を鬱陶しそうにかきあげたのを見て、

「あ、曽我部先輩?」
「おぉ? あぁ、お前だったのか? 菊池。優希の彼氏」
「はぁ? 違いますよ! こっちです! 俺は、かずと曽我部の友人です!」

 必死に訴える実里。

「……と言うか、先輩、曽我部の兄さんだったんですか?」
「あぁ」

 実里は去年まで委員会などで縁のあった先輩こと、#曽我部誠一郎#__そがべせいいちろう__#を見上げる。
 サッカー部に所属し、学級委員、生徒会長……文句なしの人間である。
 ついでに言えば難関の県立高校に通っている。

「にーちゃぁぁぁん! 靴がない~!」

 後ろから猛ダッシュで突撃するのは、最近では珍しい坊主頭のクリクリ少年。
 ひょいっと避けた誠一郎に、あっけにとられた実里は直撃を受ける。

「うわぁぁ!」
「危ない!」

 主李に支えられ、何とか倒れずにすんだが、実里は、

「な、何だったんだ?」
「あ、にーちゃんじゃないの? にーちゃん! 靴がない~!」
「自分で探せ」
「だからないんだもん!」

 ぶぅぅっと頬を膨らませ、地団太を踏む。

「やっくん! ここにあるでしょ? 良く見て」
「あ、本当だ! あった~! 姉ちゃん、ありがとう!」
「それにお兄ちゃん? 靴が片方ずつ違うわよ」
「ん? あ、父さんのだった」

 下を見て呟いた誠一郎は、主李や実里の前でも気にすることなく戻っていく。
 そして、出てきたのは、

「……4人?」
「そう。先輩と優希と、妹の竜樹たつきちゃん、年子なんだよ。そして一つ空いて弟の康広やすひろ。6年生だな」
「な、何か……兄弟並ぶと……兄弟ですね」

 微妙な顔になる。
 実里も珍しい名字だなと思うが、去年まで3人年子で通っているとは思わなかった。
 どう見ても、誠一郎と妹の竜樹は柔和で美形顔、弟の康広はやんちゃ坊主でお目目クリクリの可愛い系。
 そして、優希はその中に埋もれて、中途半端感が強い。
 弟に似ているようで影が薄く、顔立ちは整っているようで4人の中では平凡。
 しかも、妹と身長が同じ、体型も似ていてその分益々平凡感がます。
 その上、

「え? 曽我部、その格好?」
「あ、はい」

 妹は可愛いピンク系の可愛いワンピースに、小物も凝っている。
 髪飾りもつけているのに、その横で、どう見ても兄のお古の男物のカーディガンとデニムのパンツ姿である。

「そ、それ……」
「あ、動きやすい格好をと思って。それに、たっちゃんといつも服の貸し借りが多いんです」
「お姉ちゃん……やっぱりやめる」
「ちょっと待って!」

 がしっと掴み、二人を見る。

「ごめんなさい! あの、妹も見たいって言っていたので、一緒に連れていって良いですか?」
「ん? あぁ、良いよ」
「迷惑だと思うよ? お姉ちゃん。先輩たちに悪いでしょ?」

 兄に良く似ているが、無表情の少女が姉を見る。

「だから、ここにいても仕方ないでしょ。行こうね?」
「えぇぇ~?」
「わがまま言わないの。本当に……ごめんね」

 一瞬きゅっと顔を歪めた優希に、竜樹は、

「何で? お姉ちゃんが謝るの? 先輩たちが苛めるのは先輩たちが悪いんでしょ?」
「はぁ!」

 主李や実里は声をあげる。

「も、もしかして……」
「ん? 俺んち、俺以外、苛められてんだわ」

 あっさり告白する誠一郎に、

「何でですか! 何とかしようとか?」

 食って掛かった主李に、ガリガリと頭をかく。

「仕方ないだろ。俺が口挟んだら、話は大きくなるんだよ。だから、優希は一年も二年も、散々苛められてたんだ。何とか裏で手を回しはしたし、一年の……今の担任にはよくよくお願いしておいた。二年が最低だったから余計にな」
「あぁ……」

 訳知り顔で二人は呟く。
 二年の時の担任の話は、学校でも有名である。
 優希を苛める生徒を庇い、

「苛めはうちのクラスにはありません! 苛められる人間が悪いんです! この子達のどこが悪いんですか?」

と言い放ったと言う。

「で、竜樹も苛められてて、元々口数少ないんだけど、益々な。で、康広は、うんていにぶら下がっていたら引っ張られて肘の骨折るわ、ランドセル破られて、帽子や教科書も捨てられて、上履きもないとか……」
「鉛筆、全部折られたよ~!」
「威張るな! 全く……」

 スッパーンと弟の頭を叩き、ため息をつく。

「優希と竜樹が同じ部活なのも気にくわないらしい。と言うか、竜樹、人見知り激しいし、それに、康広も優希に姉ちゃん! って感じでなぁ……」
「兄ちゃんだって、外ではかっこ良くしてても、普段はめんどくさそうな顔して、姉ちゃんにあれこれやって貰ってるくせに」
「良いんだよ。取り繕うのめんどい」

 見た目は何処の野暮ったい兄ちゃんにしか見えない……しかし、顔は美形に、

「じゃぁ、悪いが妹たち頼むな~? おい、康広行くぞ?」
「うん! 兄ちゃん! やったぁ~! 公園! 公園! 滑り台~! サッカー!」

 さっさと歩いていく兄を追いかけてちょこまかと、ボールを抱えて走るクリクリ少年を見送った実里は、

「まぁ、じゃぁ、行こうか? あ、そうだ。後輩の曽我部……竜樹ちゃんで言いかな?」
「は、はい、先輩。えっと……お名前は?」
「菊池実里」
「ハッ! 菊池の『ち』は『池』ですか? 『地』ですか?」
「……池」



 さすがは姉妹だと思った実里だった。
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