もう行き詰まったので、逃亡したい私〜異世界でこの中途半端な趣味を活かしてお金を稼ぎたいと思います〜

刹那玻璃

文字の大きさ
上 下
91 / 102

【番外編】ヴァーロの家族2

しおりを挟む
「男の子? わかるの?」
「ここの喉の鱗の形の違いだね。ヴァーロと一緒だったから。でも……うーん、ちょっとヴァーロと違うかなぁ……」

 一応小さい頃は大きく見える鱗が喉にはある。
 琴葉が言っていたのは、琴葉の世界にいた龍という存在。
 確か81枚の鱗に覆われたボクとは全く姿の違う生き物は、喉元に一枚、生え方の違う鱗があり、それが急所にもなっているらしい。
 そして『逆鱗imperial wrath』と呼ばれているそうだ。
 自分達は、親に実際聞いたわけじゃないけれど、番いである恋人にプロポーズの時に剥がして渡すことが恋人にとって最高の敬意だったり好意だったりする。
 でも……うちの奥さん、目の前で初めてした時ショック受けてたなぁ……。

「えっ? どこが?」
「うーん……何と言えばいいのか……オーラの違い? えっと、アレクシアとセリカの違いってわかるかな?」
「男女!」
「それはわかるだろ!」

 アルスが突っ込む。
 がっくりと肩を落とすミュリエル。
 昔から、ヴァーロの飄々としたところにツッコミを入れるアルス。
 少しはひねくれ度は減ったが、からかい度は増えた。

「……アレクシアは元気だったが、ヴィルナが早産だったからかなり小さかった。逆にセリカは臨月までヴィルナのお腹で育ったが、病弱だった。ヴァーロは人間で言うと、大体2ヶ月ほど前に生まれた小さい子だったが、かなり元気だったはず。でも、この子なんか呼吸がおかしいんだよねぇ……あんまり泣かないし」
「えっ? 泣きましたよね?」
「あの程度で泣くって言うんじゃないよ。赤ん坊って相当泣くもんだよ。アルスは結構神経質で、ヴィルナはともかく、父さんの気配がするだけでぎゃぁぁぁ! って泣き叫んでひきつけ起こして、何度もマルムスティーンのじいさまに薬を処方してもらったくらいだ。それに、私はどうしても父さんに手を貸してもらわなければならない仕事もあったし、それ以外にも仕事が溜まっていたし、でも、アルスの命に関わるからとティールに預けたんだから……」
「……そうでしたか……」

 ティールというのは父さんの幼馴染で従兄弟。
 親友であり、武技に秀でた彼を信頼していたし、背を預けても良いと常々言っていた。
 そしてティールとミュリエルの母方の祖父がマルムスティーン侯爵家の魔術師。
 マルムスティーン家の人間は長命でかなりの高齢だったのだが……かくしゃくとしていて、結構長く生きた。
 暴れん坊だったヴァーロを、マルムスティーンの曽祖父やラインの父が文字通りビシバシと鍛えてくれたのだが……。

「そうだったんです。なのに、可愛い弟が連れて行かれたってギャン泣きした毛玉が、暴れてティールに噛みつき、突進し、それを止めようとしたじいがギックリ腰になり、手に負えないと言って、ちょうどお酒をのんで豹変し、ブチ切れたクリスが術をぶっ放し……気絶した毛玉を檻に閉じ込めて、『あ、この損害賠償はボクは全く非がありません! 逆に、父の慰謝料もらいますね! この野良ドラをきちんと調教しとけやぁぁ~コノボケェェ!』とドカンドカン岩のような氷をぶち込み始めたから、『毛玉を進呈するよ。気の済むまで調教しといて。煮るなり焼くなり遊ぶなりどうぞ!』と父さんが機嫌良く送り出してくれたらしいよ」
「父さん……毛玉ってボクのこと?」

 ヴァーロが不満げに漏らす。

「『基本、ドラゴンって賢いんですよ? 知性と能力、腕力に技術がバランス良くないと……でも、これはダメ! 成長したらバカになる! 今のうちに何とかしとかないと、いいんですか? ただの能無しで体だけデカいバカに育っても! 義姉上は破壊神でおバカですが、見た目とあのぽやんな性格だからいいんです! ヴァーロは見た目だけ! 力がある、体が私たちより大きくなるということで、人間は非力で自分よりも下位で、そして気に入らなかったら攻撃するようなただの乱暴者になったら! 剣術だけさせて勉強もさせず暴走させておく気ですか!』ってね! 『私がとことん教育してみせます! そして、もし落ち度のない非力な人間に手を出そうとしたら、ボッコボコのギタンギタンにして、次したら、死ぬより恐ろしいもの見せたらぁ! と教え込ませます!』ってワクワクしながら連れて帰ったらしいです」
「……クリス叔父さん……」
「……あの人化け物だよ。化け物だったよ!」

 思い出したらしい過去の地獄の日々にガクブルのヴァーロである。

「……無害そうな人間を怒らせちゃいけないって、あの時骨の髄まで叩き込まれたよ……マルムスティーン家を敵に回しちゃダメって思ったもん……」
「そうだよね? 時々ヤバイのが生まれるからね」
「……父さんもマルムスティーンの血引いてるよな?」

 ツッコミを入れつつ、アルスは小さい毛玉の甥を預かり、確認のために、

「人の姿って基本とれないんだっけ?」
「大丈夫じゃない? で、アルスは何がしたいの?」
「ん? 毛玉だと聴診器当てにくいし、赤ん坊なら楽だし、服も着せられるだろ? 体温調節しやすくなる」
「そっか……」

ボクの補助で人の姿になった赤ん坊。
 頭部をわずかに覆うのはふわふわの淡い銀色の髪。
 抜けるように白い肌をしていて……。

「奥さんに似てる……めちゃくちゃ可愛い……」

と呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

処理中です...