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【番外編】ヴァーロの家族2
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「男の子? わかるの?」
「ここの喉の鱗の形の違いだね。ヴァーロと一緒だったから。でも……うーん、ちょっとヴァーロと違うかなぁ……」
一応小さい頃は大きく見える鱗が喉にはある。
琴葉が言っていたのは、琴葉の世界にいた龍という存在。
確か81枚の鱗に覆われたボクとは全く姿の違う生き物は、喉元に一枚、生え方の違う鱗があり、それが急所にもなっているらしい。
そして『逆鱗』と呼ばれているそうだ。
自分達は、親に実際聞いたわけじゃないけれど、番いである恋人にプロポーズの時に剥がして渡すことが恋人にとって最高の敬意だったり好意だったりする。
でも……うちの奥さん、目の前で初めてした時ショック受けてたなぁ……。
「えっ? どこが?」
「うーん……何と言えばいいのか……オーラの違い? えっと、アレクシアとセリカの違いってわかるかな?」
「男女!」
「それはわかるだろ!」
アルスが突っ込む。
がっくりと肩を落とすミュリエル。
昔から、ヴァーロの飄々としたところにツッコミを入れるアルス。
少しはひねくれ度は減ったが、からかい度は増えた。
「……アレクシアは元気だったが、ヴィルナが早産だったからかなり小さかった。逆にセリカは臨月までヴィルナのお腹で育ったが、病弱だった。ヴァーロは人間で言うと、大体2ヶ月ほど前に生まれた小さい子だったが、かなり元気だったはず。でも、この子なんか呼吸がおかしいんだよねぇ……あんまり泣かないし」
「えっ? 泣きましたよね?」
「あの程度で泣くって言うんじゃないよ。赤ん坊って相当泣くもんだよ。アルスは結構神経質で、ヴィルナはともかく、父さんの気配がするだけでぎゃぁぁぁ! って泣き叫んでひきつけ起こして、何度もマルムスティーンのじいさまに薬を処方してもらったくらいだ。それに、私はどうしても父さんに手を貸してもらわなければならない仕事もあったし、それ以外にも仕事が溜まっていたし、でも、アルスの命に関わるからとティールに預けたんだから……」
「……そうでしたか……」
ティールというのは父さんの幼馴染で従兄弟。
親友であり、武技に秀でた彼を信頼していたし、背を預けても良いと常々言っていた。
そしてティールとミュリエルの母方の祖父がマルムスティーン侯爵家の魔術師。
マルムスティーン家の人間は長命でかなりの高齢だったのだが……かくしゃくとしていて、結構長く生きた。
暴れん坊だったヴァーロを、マルムスティーンの曽祖父やラインの父が文字通りビシバシと鍛えてくれたのだが……。
「そうだったんです。なのに、可愛い弟が連れて行かれたってギャン泣きした毛玉が、暴れてティールに噛みつき、突進し、それを止めようとしたじいがギックリ腰になり、手に負えないと言って、ちょうどお酒をのんで豹変し、ブチ切れたクリスが術をぶっ放し……気絶した毛玉を檻に閉じ込めて、『あ、この損害賠償はボクは全く非がありません! 逆に、父の慰謝料もらいますね! この野良ドラをきちんと調教しとけやぁぁ~コノボケェェ!』とドカンドカン岩のような氷をぶち込み始めたから、『毛玉を進呈するよ。気の済むまで調教しといて。煮るなり焼くなり遊ぶなりどうぞ!』と父さんが機嫌良く送り出してくれたらしいよ」
「父さん……毛玉ってボクのこと?」
ヴァーロが不満げに漏らす。
「『基本、ドラゴンって賢いんですよ? 知性と能力、腕力に技術がバランス良くないと……でも、これはダメ! 成長したらバカになる! 今のうちに何とかしとかないと、いいんですか? ただの能無しで体だけデカいバカに育っても! 義姉上は破壊神でおバカですが、見た目とあのぽやんな性格だからいいんです! ヴァーロは見た目だけ! 力がある、体が私たちより大きくなるということで、人間は非力で自分よりも下位で、そして気に入らなかったら攻撃するようなただの乱暴者になったら! 剣術だけさせて勉強もさせず暴走させておく気ですか!』ってね! 『私がとことん教育してみせます! そして、もし落ち度のない非力な人間に手を出そうとしたら、ボッコボコのギタンギタンにして、次したら、死ぬより恐ろしいもの見せたらぁ! と教え込ませます!』ってワクワクしながら連れて帰ったらしいです」
「……クリス叔父さん……」
「……あの人化け物だよ。化け物だったよ!」
思い出したらしい過去の地獄の日々にガクブルのヴァーロである。
「……無害そうな人間を怒らせちゃいけないって、あの時骨の髄まで叩き込まれたよ……マルムスティーン家を敵に回しちゃダメって思ったもん……」
「そうだよね? 時々ヤバイのが生まれるからね」
「……父さんもマルムスティーンの血引いてるよな?」
ツッコミを入れつつ、アルスは小さい毛玉の甥を預かり、確認のために、
「人の姿って基本とれないんだっけ?」
「大丈夫じゃない? で、アルスは何がしたいの?」
「ん? 毛玉だと聴診器当てにくいし、赤ん坊なら楽だし、服も着せられるだろ? 体温調節しやすくなる」
「そっか……」
ボクの補助で人の姿になった赤ん坊。
頭部をわずかに覆うのはふわふわの淡い銀色の髪。
抜けるように白い肌をしていて……。
「奥さんに似てる……めちゃくちゃ可愛い……」
と呟いたのだった。
「ここの喉の鱗の形の違いだね。ヴァーロと一緒だったから。でも……うーん、ちょっとヴァーロと違うかなぁ……」
一応小さい頃は大きく見える鱗が喉にはある。
琴葉が言っていたのは、琴葉の世界にいた龍という存在。
確か81枚の鱗に覆われたボクとは全く姿の違う生き物は、喉元に一枚、生え方の違う鱗があり、それが急所にもなっているらしい。
そして『逆鱗』と呼ばれているそうだ。
自分達は、親に実際聞いたわけじゃないけれど、番いである恋人にプロポーズの時に剥がして渡すことが恋人にとって最高の敬意だったり好意だったりする。
でも……うちの奥さん、目の前で初めてした時ショック受けてたなぁ……。
「えっ? どこが?」
「うーん……何と言えばいいのか……オーラの違い? えっと、アレクシアとセリカの違いってわかるかな?」
「男女!」
「それはわかるだろ!」
アルスが突っ込む。
がっくりと肩を落とすミュリエル。
昔から、ヴァーロの飄々としたところにツッコミを入れるアルス。
少しはひねくれ度は減ったが、からかい度は増えた。
「……アレクシアは元気だったが、ヴィルナが早産だったからかなり小さかった。逆にセリカは臨月までヴィルナのお腹で育ったが、病弱だった。ヴァーロは人間で言うと、大体2ヶ月ほど前に生まれた小さい子だったが、かなり元気だったはず。でも、この子なんか呼吸がおかしいんだよねぇ……あんまり泣かないし」
「えっ? 泣きましたよね?」
「あの程度で泣くって言うんじゃないよ。赤ん坊って相当泣くもんだよ。アルスは結構神経質で、ヴィルナはともかく、父さんの気配がするだけでぎゃぁぁぁ! って泣き叫んでひきつけ起こして、何度もマルムスティーンのじいさまに薬を処方してもらったくらいだ。それに、私はどうしても父さんに手を貸してもらわなければならない仕事もあったし、それ以外にも仕事が溜まっていたし、でも、アルスの命に関わるからとティールに預けたんだから……」
「……そうでしたか……」
ティールというのは父さんの幼馴染で従兄弟。
親友であり、武技に秀でた彼を信頼していたし、背を預けても良いと常々言っていた。
そしてティールとミュリエルの母方の祖父がマルムスティーン侯爵家の魔術師。
マルムスティーン家の人間は長命でかなりの高齢だったのだが……かくしゃくとしていて、結構長く生きた。
暴れん坊だったヴァーロを、マルムスティーンの曽祖父やラインの父が文字通りビシバシと鍛えてくれたのだが……。
「そうだったんです。なのに、可愛い弟が連れて行かれたってギャン泣きした毛玉が、暴れてティールに噛みつき、突進し、それを止めようとしたじいがギックリ腰になり、手に負えないと言って、ちょうどお酒をのんで豹変し、ブチ切れたクリスが術をぶっ放し……気絶した毛玉を檻に閉じ込めて、『あ、この損害賠償はボクは全く非がありません! 逆に、父の慰謝料もらいますね! この野良ドラをきちんと調教しとけやぁぁ~コノボケェェ!』とドカンドカン岩のような氷をぶち込み始めたから、『毛玉を進呈するよ。気の済むまで調教しといて。煮るなり焼くなり遊ぶなりどうぞ!』と父さんが機嫌良く送り出してくれたらしいよ」
「父さん……毛玉ってボクのこと?」
ヴァーロが不満げに漏らす。
「『基本、ドラゴンって賢いんですよ? 知性と能力、腕力に技術がバランス良くないと……でも、これはダメ! 成長したらバカになる! 今のうちに何とかしとかないと、いいんですか? ただの能無しで体だけデカいバカに育っても! 義姉上は破壊神でおバカですが、見た目とあのぽやんな性格だからいいんです! ヴァーロは見た目だけ! 力がある、体が私たちより大きくなるということで、人間は非力で自分よりも下位で、そして気に入らなかったら攻撃するようなただの乱暴者になったら! 剣術だけさせて勉強もさせず暴走させておく気ですか!』ってね! 『私がとことん教育してみせます! そして、もし落ち度のない非力な人間に手を出そうとしたら、ボッコボコのギタンギタンにして、次したら、死ぬより恐ろしいもの見せたらぁ! と教え込ませます!』ってワクワクしながら連れて帰ったらしいです」
「……クリス叔父さん……」
「……あの人化け物だよ。化け物だったよ!」
思い出したらしい過去の地獄の日々にガクブルのヴァーロである。
「……無害そうな人間を怒らせちゃいけないって、あの時骨の髄まで叩き込まれたよ……マルムスティーン家を敵に回しちゃダメって思ったもん……」
「そうだよね? 時々ヤバイのが生まれるからね」
「……父さんもマルムスティーンの血引いてるよな?」
ツッコミを入れつつ、アルスは小さい毛玉の甥を預かり、確認のために、
「人の姿って基本とれないんだっけ?」
「大丈夫じゃない? で、アルスは何がしたいの?」
「ん? 毛玉だと聴診器当てにくいし、赤ん坊なら楽だし、服も着せられるだろ? 体温調節しやすくなる」
「そっか……」
ボクの補助で人の姿になった赤ん坊。
頭部をわずかに覆うのはふわふわの淡い銀色の髪。
抜けるように白い肌をしていて……。
「奥さんに似てる……めちゃくちゃ可愛い……」
と呟いたのだった。
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