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ヴァーロくん発見

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「遅いなぁ……」

 時計を確認してみる。
 さっき、確認とタオルの補充のために入ってからすでに1時間近く経っている。
 ちなみに時計は各部屋に二か所……壁掛けと家具の上に置いているものがほぼ常備してある。
 地下は壁に二か所である。
 不思議なことに時計は琴葉は1時間単位だが、ヴァーロやアルスたちはまた違ったように見えるらしい。
 その歪みは両者の間ではあまり問題ないらしい。

「のぼせちゃったのかな? 心配」

 気になった琴葉は、桜智に熟睡中のチャチャを頼み、浴室に向かう。
 途中でヴァーロの部屋を確認して戻っていないのを確認している。

「ヴァーロくん……大丈夫?」

 ノックをして声をかける。
 返事はない。

「ヴァーロくん、大丈夫? えっと……アルスさんに声をかけようかしら……のぼせて……」

 一人で入っていいか躊躇い、一度アルス夫妻の部屋の前に立ち、ノックをする。

「すみません、琴葉です……少しいいですか?」
「ちょっと待って」

 すぐに返事が返り扉が開く。
 パジャマの上に長めのカーディガンを着込んだアルスは不思議そうな顔になる。

「あの……ヴァーロくんがお風呂に入ってから一度、乾いていたタオルを入れに行った後、もう1時間近くかかっているのに、出た様子がないんです。部屋にも戻っていないので心配になって……」
「えっ? ……ちょっと……兄貴ってあまり長風呂しないはず……もしかして寝てるとか?」
「一回声をかけたんですけど、返事がないんです」
「心配だな、行ってみよう」

 アルスは早足で浴室に向かうと、ノックをする。
 やはり返事がない。

「兄貴。入るぞ?」

 そう声をかけたアルスが入ると、

「おい、兄貴? 兄貴!」

その声に顔を覗かせると、毛玉姿のヴァーロが脱衣所でぐったりしている。
 アルスは険しい顔で首筋などで脈を確認し、

「……脈は少し早いように思う。これからすぐ、ベッドに運ぶ」
「は、はい」

引き戸を大きく開け、アルスが大型犬サイズのヴァーロを抱えていくのを見送り、何か必要になるかと桶とサイズの違うタオルを数枚持って移動する。

 一度自室から鞄を持ってきたアルスは心拍数などを確認し、新しいカルテを書き込みつつ、

「うーん……」

と考え込む。

「あの、何かの病気ですか?」
「……うーん……熱はあるが、咳も鼻水もないし、喉も……腫れてないんだよなぁ」

 アーンと口を開けさせ、確認している。
 なんとなくペットと獣医師の関係のようだなと思いつつ、

「目もチェックしてるが、充血してたりもない。風邪と言うより……お子様の知恵熱っぽいんだよなぁ……」
「あぁ、自家中毒症とかアセトン血栓嘔吐症と言うものでしょうか……えっと子供さんが急に吐いたり、頭が痛い、お腹が痛いって言う症状です」
「あぁ、繊細で神経質な子供が起こす症状だな。でも、兄貴はそこまで繊細じゃないから大丈夫。吐き気もないようだ。それに吐き気するものは食べてないし、兄貴はどんなにゲテモノ食っても、お腹ひとつ壊したことないから大丈夫だ」

【どんだけタフなのよ】

バタバタするのに気づき、顔を覗かせた桜智が呆れた口調で呟く。

「兄貴は確か、約1000年生きてて怪我はあるけど、体調不良はなかったんだよな……だから兄貴の怪我以外のカルテってないんだよ……」

【健康優良児……】

「俺は怪我もあったし、ちょっと病弱だったし、病気もしょっちゅうだったが……うーん……様子を見て、ダメだったら書庫行くしかないよな……」

 琴葉はタオルを濡らし絞ったものを額に……と言うより、毛玉の頭の上らしき場所に置く。
 そして、

「あの……」
「あぁ、大丈夫だ。兄貴は見た目より頑丈だし、俺がついてるから琴葉はお風呂に入って休むといい。お手数だが、明日起きたら大食い兄貴のために消化のいいものを頼む」
「はい」

頷いた琴葉は、少し後ろ髪を引かれる様子だったが部屋を出ていった。

【で、書庫ってどこの? ギルドの?】

 腕を組んだ桜智が、ほら言えと言わんばかりに顎をしゃくるように動かす。
 昔に比べ軋みもない艶のある髪をかき上げたアルスはため息をつき、

「じいさまと父さんと俺が、あちこちの廃墟を調査させて掘り出した1000年以上前からの古書と、1000年未満に出版された冊子、書籍、新聞などが全部収められた王宮の地下一杯に広がる書庫だよ。ギルドに依頼して集めてもらったものも、他の大陸からのものも全部収めてる。世界の地図とか古文書なんかも、集められるだけ全部集めてもらった」

【……は? なんでそんなことアンタ達がするのよ】

「……歴史は繰り返すからだよ。いつか来る終焉の為にも情報が必要だ」

兄のタオルを取り、冷たい水につけ絞った後、先日読んだ本にあった、熱を出した子供の身体を冷やす時には……と言うのを思い出したアルスは、手を伸ばしヴァーロの体を触っていく。
 そしてすぐ首筋を見つけると、その場所にタオルを押しつけたのだった。
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