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お試しオープン
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お試しオープンは、招待客であるジョシュとバーバラ、その二人の子供たちのメリッサとナタリー、カズール家のフェリシアとその保護者であるアルファード。
ギルドからはミュリエルとヴィルナ、そして、先日のフェルディと男装の剣士……。
ちょっかいを出すフェルディに心底嫌そうに逃げ回っている。
「あれ? 師匠きたの~?」
「師匠?」
「うん、ボク達の祖母になるけど、ボクの剣の師匠だから。あの人、風の精霊のお気に入りの上に剣の最上級スキル持ち」
ヴィルナにそっくりではあるものの、垂れ目で大きな目のヴィルナに比べると、猫っぽい瞳に長い髪は乱暴にだがポニーテールにしている。
そして、細い身体は革鎧と膝と肘にサポーターとかなり軽めの装備付き……前世のファンタジー小説の冒険者装備をしていて、上に少し擦り切れているもののストールっぽいマントを肩に巻いている。
「少し寒そう?」
「あぁ、師匠はなるべく装備は軽い方がいいみたいでね? 腰のポケットっぽいポーチがマジックバッグみたい。あの中にはテントと厚手のマントと、あとはナイフに塩と乾パン? もうかちこちのパンだけ持って放浪するの。師匠料理とかできない人だから……」
首をすくめる。
「うっせぇぞ? ヴァーロ」
「師匠、お久しぶりでっす! 相変わらずお綺麗ですね!」
「うっせぇ!」
猫というより野生の大型ネコ科のような迫力に、ひきつつ、琴葉はスッと姿勢を正した。
今日は……自分ではちょっと恥ずかしいけれど、ヴァーロが選んだアリス風ワンピースにエプロンドレス、カチューシャと髪はおさげにしている。
「ん? 可愛い店主だね」
「ようこそお越しくださいました。お客様」
おへそのあたりに手を合わせた感じで軽く頭を下げ、頭を元の位置に戻すとにっこりと微笑む。
本当は45度より深く下げる方がお客を迎えるのにいいとは思うが、あまりしすぎても慇懃無礼となってしまう。
調整が必要……というかイメージはホテルでのスタッフ対応である。
「私は琴葉・シュピーゲルと申します。本日は【喫茶玉響】にようこそ」
ゆっくりとそしてこのお店の名の通り、言葉に心を込めて続ける。
「至らぬ部分もあると思いますが、お時間の許す限り、ゆっくりとお過ごしくださいませ」
もう一度ゆっくりと頭を下げると、ドアを開き招き入れる。
入ってすぐに受付があり、そちらでまず支払いとメニューと席を選んでいただくことになる。
伝票にはテーブル、椅子番号、お客の人数、メニューはお菓子とドリンクのAセットと、軽食とお菓子とドリンクのBセットが選べ、時間は2時間単位になっている。
Aセットが言われた通り席代合わせて3銅貨、Bセットが5銅貨となっている。
しかし、ジョシュ一家はBセットを選択し、4人で2銀貨を払ってくれた。
飲み物はジョシュは紅茶、バーバラはハーブティーを選んだ。
そして子供たちは、書かれていたジュースというものを選択。
桜智の荷物の中の贈答用の缶の果物ジュースを、グラスに注いで出すことにしている。
そしてお菓子は、沢山ある缶の中にお菓子を並べて飲み物と一緒にトレイに乗せて運んでもらうのである。
正式なオープンの時には、そのトレイには大きめの砂時計も置かれて、きっかり2時間計ってくれることになっている。
「お席はお一人ずつの席と、四人がお座りになれるテーブル席、ソファやクッションの多い奥のスペースがございます。おすすめは奥の席となっております。この席の周りは靴を脱いでいただけるようになっておりますので、お子様が遊びたい時などに最適です」
そう告げると、受付に置いてある簡単なお店の見取り図を示し、
「こちらは、庭からの光の入るスペースですし、お子さん連れの場合、周囲に気兼ねなくゆっくりされたいというご家族も多いと思います。手を洗うところやトイレにも向かいやすいです」
「……そ、そこまで考えてるの?」
「いえ、ジョシュさんとバーバラさんならそう思うかなと。確かナタリーちゃんは2歳でしたよね? 椅子でじっとというのはきっととても苦痛ではないかなぁと思いまして、ヴァーロくんに聞いて音を吸収する道具をこの一角には置いていますので、我慢してねというのも言わないであげてください。物もいつかは壊れるので、次遊ぶ人のために、喧嘩しないで仲良く使ってねと言ってあげてくださいね」
番号札を渡し、そして、何か名刺サイズのものを出してきた。
「こちらはこのお店のメンバーカードです。一回来店ごとにこんなスタンプを押します。10回来られるとお菓子をプレゼントです。ジョシュさん、バーバラさん、メリッサちゃんとナタリーちゃんの名前を書いてくださいね。そしてこちらはお友達紹介カードです。紹介したい方にこのチケットを渡してください。ここに、ジョシュさんやバーバラさんのお名前を書いて、渡してくださるだけで結構です。お友達がお越しくださった時に私が受け取り、その方にお菓子をプレゼントします。後日、カードの渡した方にもお礼にお菓子をプレゼントします。よろしくお願いします」
トレイに乗せたお菓子を運んでいく四人を見送り、今日はプレオープンなので自分一人で接客をこなしているものの、一人ギルドから紹介してもらって手伝ってもらうか、もしよければ某ファミレスのように飲み放題スペースを作り、お湯お水、ジュースを自由に自分で注ぐようにした方がいいのか、考えようと思う琴葉だった。
ギルドからはミュリエルとヴィルナ、そして、先日のフェルディと男装の剣士……。
ちょっかいを出すフェルディに心底嫌そうに逃げ回っている。
「あれ? 師匠きたの~?」
「師匠?」
「うん、ボク達の祖母になるけど、ボクの剣の師匠だから。あの人、風の精霊のお気に入りの上に剣の最上級スキル持ち」
ヴィルナにそっくりではあるものの、垂れ目で大きな目のヴィルナに比べると、猫っぽい瞳に長い髪は乱暴にだがポニーテールにしている。
そして、細い身体は革鎧と膝と肘にサポーターとかなり軽めの装備付き……前世のファンタジー小説の冒険者装備をしていて、上に少し擦り切れているもののストールっぽいマントを肩に巻いている。
「少し寒そう?」
「あぁ、師匠はなるべく装備は軽い方がいいみたいでね? 腰のポケットっぽいポーチがマジックバッグみたい。あの中にはテントと厚手のマントと、あとはナイフに塩と乾パン? もうかちこちのパンだけ持って放浪するの。師匠料理とかできない人だから……」
首をすくめる。
「うっせぇぞ? ヴァーロ」
「師匠、お久しぶりでっす! 相変わらずお綺麗ですね!」
「うっせぇ!」
猫というより野生の大型ネコ科のような迫力に、ひきつつ、琴葉はスッと姿勢を正した。
今日は……自分ではちょっと恥ずかしいけれど、ヴァーロが選んだアリス風ワンピースにエプロンドレス、カチューシャと髪はおさげにしている。
「ん? 可愛い店主だね」
「ようこそお越しくださいました。お客様」
おへそのあたりに手を合わせた感じで軽く頭を下げ、頭を元の位置に戻すとにっこりと微笑む。
本当は45度より深く下げる方がお客を迎えるのにいいとは思うが、あまりしすぎても慇懃無礼となってしまう。
調整が必要……というかイメージはホテルでのスタッフ対応である。
「私は琴葉・シュピーゲルと申します。本日は【喫茶玉響】にようこそ」
ゆっくりとそしてこのお店の名の通り、言葉に心を込めて続ける。
「至らぬ部分もあると思いますが、お時間の許す限り、ゆっくりとお過ごしくださいませ」
もう一度ゆっくりと頭を下げると、ドアを開き招き入れる。
入ってすぐに受付があり、そちらでまず支払いとメニューと席を選んでいただくことになる。
伝票にはテーブル、椅子番号、お客の人数、メニューはお菓子とドリンクのAセットと、軽食とお菓子とドリンクのBセットが選べ、時間は2時間単位になっている。
Aセットが言われた通り席代合わせて3銅貨、Bセットが5銅貨となっている。
しかし、ジョシュ一家はBセットを選択し、4人で2銀貨を払ってくれた。
飲み物はジョシュは紅茶、バーバラはハーブティーを選んだ。
そして子供たちは、書かれていたジュースというものを選択。
桜智の荷物の中の贈答用の缶の果物ジュースを、グラスに注いで出すことにしている。
そしてお菓子は、沢山ある缶の中にお菓子を並べて飲み物と一緒にトレイに乗せて運んでもらうのである。
正式なオープンの時には、そのトレイには大きめの砂時計も置かれて、きっかり2時間計ってくれることになっている。
「お席はお一人ずつの席と、四人がお座りになれるテーブル席、ソファやクッションの多い奥のスペースがございます。おすすめは奥の席となっております。この席の周りは靴を脱いでいただけるようになっておりますので、お子様が遊びたい時などに最適です」
そう告げると、受付に置いてある簡単なお店の見取り図を示し、
「こちらは、庭からの光の入るスペースですし、お子さん連れの場合、周囲に気兼ねなくゆっくりされたいというご家族も多いと思います。手を洗うところやトイレにも向かいやすいです」
「……そ、そこまで考えてるの?」
「いえ、ジョシュさんとバーバラさんならそう思うかなと。確かナタリーちゃんは2歳でしたよね? 椅子でじっとというのはきっととても苦痛ではないかなぁと思いまして、ヴァーロくんに聞いて音を吸収する道具をこの一角には置いていますので、我慢してねというのも言わないであげてください。物もいつかは壊れるので、次遊ぶ人のために、喧嘩しないで仲良く使ってねと言ってあげてくださいね」
番号札を渡し、そして、何か名刺サイズのものを出してきた。
「こちらはこのお店のメンバーカードです。一回来店ごとにこんなスタンプを押します。10回来られるとお菓子をプレゼントです。ジョシュさん、バーバラさん、メリッサちゃんとナタリーちゃんの名前を書いてくださいね。そしてこちらはお友達紹介カードです。紹介したい方にこのチケットを渡してください。ここに、ジョシュさんやバーバラさんのお名前を書いて、渡してくださるだけで結構です。お友達がお越しくださった時に私が受け取り、その方にお菓子をプレゼントします。後日、カードの渡した方にもお礼にお菓子をプレゼントします。よろしくお願いします」
トレイに乗せたお菓子を運んでいく四人を見送り、今日はプレオープンなので自分一人で接客をこなしているものの、一人ギルドから紹介してもらって手伝ってもらうか、もしよければ某ファミレスのように飲み放題スペースを作り、お湯お水、ジュースを自由に自分で注ぐようにした方がいいのか、考えようと思う琴葉だった。
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