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偏食家と一家のママ
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「こら! ヴァーロくん! サラダ食べなさい」
「だから、野菜苦手~苦いんだもん」
最初はさまづけだったものの、いたずらはほとんどしないものの、つまみ食いが多く、本人の言葉通り好き嫌いが多く、だんだんヤンチャな弟を叱る姉の口調になりつつある。
【何言ってんの。このトマトなんて、めちゃくちゃ甘いわよ。フルーツトマトだもの】
キュキュ!
ママとお姉ちゃんの言葉に、チャチャもミルクを飲むのをやめて、お兄ちゃんを見る。
チャチャは、ペースト状にしたトマトは大好物である。
「うぅぅ~」
半泣きのヴァーロに、仕方ないなと言いたげに奥に入った琴葉は、何かの瓶を持って戻る。
「じゃぁ、はい。これを食べたら許してあげます~チャチャの離乳食に、はいっているものです」
クラッカーの上に赤い何かを乗せ手渡す。
匂いを嗅ぎ、恐る恐る食べる……。
「美味しい! これ、ジャム?」
最初の一口は躊躇いがちだったものの、次は一気に口に放り込む。
食べ終わったのを確認すると、瓶のラベルを見せつつ答えを教える。
「はい、これは、トマト……野菜のジャムです。私たちの国のトマトって糖度が高いの。タネや中の柔らかい部分が嫌いとかいう人もいるから、薄皮とタネとかは取っているのだけど、それでも結構甘いでしょ?」
「えぇぇ! 野菜?」
「そうだよ。腐ったりしないように砂糖も足すけど、この赤い小さな実を使ったジャムだよ」
「本当?」
「本当、本当。なんならこの後、この野菜あるから、作ってみる?」
大きめのトマトもあることはあるのだが、木の実のようなミニトマトの方が嫌がらないかと思った琴葉である。
ヴァーロにエプロンをつけさせ、キッチンに並ぶ。
一応、琴葉が前に作ったレシピは、沸騰したお湯に皮の部分を傷つけたミニトマト(トマトも可)をくぐらせ、冷たい水に入れると、皮を剥く。
そして半分にしたら、タネをティースプーンで取り、別の器に移す。
トマトは、小さくサイコロ程度に刻むと後が楽なので刻む。
トマトは鍋に入れて、トマトの総量の20~40%の砂糖を入れ、レモン汁はトマト約200gごとに大さじ一杯入れる。
そして、しばらく……30分ほどそのままにしておく。
「で、このタネとグニグニってどうするの?」
「ん? この中には旨味が詰まってるから……ヴァーロくんのためにもタネを取り除いて、トマトに戻します」
汁を鍋に戻すとその間に、果物を次々にドライフルーツにするための準備をする。
イチゴ、キウィフルーツ、バナナ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、イチジク、ブルーベリー、クランベリー、ラズベリー、柿、洋梨、パイナップル……
一応トマト以外はこの国にあるもので、読み方はわからないものの、前世の果物とそっくりなのでそのまま呼んでいる。
桃やスイカ、ナシは水分が多いので向いてない。
それを薄く切ったり、小さいものはそのままで、キッチンペーパーの上に並べて乾燥させる。
すぐに食べたい場合は水分を切る……。
好奇心旺盛なヴァーロはすぐ食べたそうなので、
「適度に水分のある状態に水を抜いてくれる?」
「うん! いいよ~」
真剣な面持ちでオレンジとリンゴに向き合うヴァーロの横で、トマトのジャムを作る。
沸騰しすぎないようにしながらアクを取りつつ煮詰める。
くつくつ、プツプツという音がするのを楽しみつつ、チラチラとヴァーロを見る。
一回一回作って確認しつつ、うまくいったと思ったものをテーブルで待つチャチャと桜智に持っていく。
「出来たよ~!」
【美味しいのちょうだいね~】
キュキュ~!
「チャチャは、ヴァーロくんを真似て食べ過ぎないのよ~」
と声をかけつつ、保存用の乾燥野菜に、カボチャやイモを使ったチップスを作る。
こちらは、洗濯物を干す屋上に籠を置いて自然乾燥と、オーブンなどで乾燥させるつもりである。
ジャムは空いた瓶に詰めて、タグを貼る。
日付を書き、ちゃんとヴァーロ用、チャチャ用と判るように色を変えておく。
たくさん作ったのでそれぞれ二つづつ、琴葉と桜智用に二個出来た。
「はい、ヴァーロくん用、チャチャ用だよ。残ったのはヨーグルトに入れるからね」
「ボクの?」
「そう。中身は一緒だよ。でも、この青い絵の瓶はヴァーロくん用、こっちのピンクはチャチャ用ね?」
「わーい! ボクの!」
キュア~!
ご機嫌のヴァーロは、自分のバッグに大事そうに仕舞い込む。
チャチャも自分の前に置かれた瓶を見て、横のヴァーロの上着を引っ張ると、
キュキュ!
と訴える。
「えっ? ボクのバッグに仕舞ってっていうの?」
うんうんと頷くチャチャに、
「わかった。食べたい時に言ってね? チャチャ」
と仕舞いながらニコニコ笑う。
仲の良い兄妹のようである。
「はい。ヨーグルトだよ。上に今作ったジャムと、前に作った乾燥させた果物です。ヴァーロくんのヨーグルトには乗せてないよ。小皿の小さい粒のはドライザクロで、私は時々ヨーグルトに入れて食べてます」
【ドライザクロって料理に入れたりするわよね】
「そうなんです。酸味があるのですが、私は好きですね」
最初躊躇っていたものの、口に入れたジャムは甘くホッとした味で、ヴァーロはガツガツと食べている。
ザクロは酸味が苦手らしく、一粒だけ食べてあとは琴葉の方に小皿を寄せた。
チャチャ用はトマトジャムとヨーグルトである。
「お、美味しい!」
「では、お試しを数種類。カボチャとお芋のチップスです」
「チップス?」
「お菓子よ? 私は油で揚げているのを昔食べていたけど、これは乾燥させたの。そのかわり、ちょっとお塩を振ってるわ」
えぇぇ~と言いたげなヴァーロは、恐る恐る口に入れ、
「美味しい? 甘い? なんで?」
「野菜にも砂糖と同じ糖分……甘いものが含まれているの。でも、普通に食べるとそんなに感じないのね。火を通したりすることで、美味しさをギュッてまとめる感じなの」
「すごい~ボクでも食べられる」
ごっそり食べ尽くしたヴァーロは、顔をあげ恐る恐る問いかける。
「ねぇ、コトハ。また作ってくれる?」
「もちろん!」
片付けを手伝ってくれるヴァーロに頷きながら、次は別のお菓子を考えようと思ったのだった。
「だから、野菜苦手~苦いんだもん」
最初はさまづけだったものの、いたずらはほとんどしないものの、つまみ食いが多く、本人の言葉通り好き嫌いが多く、だんだんヤンチャな弟を叱る姉の口調になりつつある。
【何言ってんの。このトマトなんて、めちゃくちゃ甘いわよ。フルーツトマトだもの】
キュキュ!
ママとお姉ちゃんの言葉に、チャチャもミルクを飲むのをやめて、お兄ちゃんを見る。
チャチャは、ペースト状にしたトマトは大好物である。
「うぅぅ~」
半泣きのヴァーロに、仕方ないなと言いたげに奥に入った琴葉は、何かの瓶を持って戻る。
「じゃぁ、はい。これを食べたら許してあげます~チャチャの離乳食に、はいっているものです」
クラッカーの上に赤い何かを乗せ手渡す。
匂いを嗅ぎ、恐る恐る食べる……。
「美味しい! これ、ジャム?」
最初の一口は躊躇いがちだったものの、次は一気に口に放り込む。
食べ終わったのを確認すると、瓶のラベルを見せつつ答えを教える。
「はい、これは、トマト……野菜のジャムです。私たちの国のトマトって糖度が高いの。タネや中の柔らかい部分が嫌いとかいう人もいるから、薄皮とタネとかは取っているのだけど、それでも結構甘いでしょ?」
「えぇぇ! 野菜?」
「そうだよ。腐ったりしないように砂糖も足すけど、この赤い小さな実を使ったジャムだよ」
「本当?」
「本当、本当。なんならこの後、この野菜あるから、作ってみる?」
大きめのトマトもあることはあるのだが、木の実のようなミニトマトの方が嫌がらないかと思った琴葉である。
ヴァーロにエプロンをつけさせ、キッチンに並ぶ。
一応、琴葉が前に作ったレシピは、沸騰したお湯に皮の部分を傷つけたミニトマト(トマトも可)をくぐらせ、冷たい水に入れると、皮を剥く。
そして半分にしたら、タネをティースプーンで取り、別の器に移す。
トマトは、小さくサイコロ程度に刻むと後が楽なので刻む。
トマトは鍋に入れて、トマトの総量の20~40%の砂糖を入れ、レモン汁はトマト約200gごとに大さじ一杯入れる。
そして、しばらく……30分ほどそのままにしておく。
「で、このタネとグニグニってどうするの?」
「ん? この中には旨味が詰まってるから……ヴァーロくんのためにもタネを取り除いて、トマトに戻します」
汁を鍋に戻すとその間に、果物を次々にドライフルーツにするための準備をする。
イチゴ、キウィフルーツ、バナナ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、イチジク、ブルーベリー、クランベリー、ラズベリー、柿、洋梨、パイナップル……
一応トマト以外はこの国にあるもので、読み方はわからないものの、前世の果物とそっくりなのでそのまま呼んでいる。
桃やスイカ、ナシは水分が多いので向いてない。
それを薄く切ったり、小さいものはそのままで、キッチンペーパーの上に並べて乾燥させる。
すぐに食べたい場合は水分を切る……。
好奇心旺盛なヴァーロはすぐ食べたそうなので、
「適度に水分のある状態に水を抜いてくれる?」
「うん! いいよ~」
真剣な面持ちでオレンジとリンゴに向き合うヴァーロの横で、トマトのジャムを作る。
沸騰しすぎないようにしながらアクを取りつつ煮詰める。
くつくつ、プツプツという音がするのを楽しみつつ、チラチラとヴァーロを見る。
一回一回作って確認しつつ、うまくいったと思ったものをテーブルで待つチャチャと桜智に持っていく。
「出来たよ~!」
【美味しいのちょうだいね~】
キュキュ~!
「チャチャは、ヴァーロくんを真似て食べ過ぎないのよ~」
と声をかけつつ、保存用の乾燥野菜に、カボチャやイモを使ったチップスを作る。
こちらは、洗濯物を干す屋上に籠を置いて自然乾燥と、オーブンなどで乾燥させるつもりである。
ジャムは空いた瓶に詰めて、タグを貼る。
日付を書き、ちゃんとヴァーロ用、チャチャ用と判るように色を変えておく。
たくさん作ったのでそれぞれ二つづつ、琴葉と桜智用に二個出来た。
「はい、ヴァーロくん用、チャチャ用だよ。残ったのはヨーグルトに入れるからね」
「ボクの?」
「そう。中身は一緒だよ。でも、この青い絵の瓶はヴァーロくん用、こっちのピンクはチャチャ用ね?」
「わーい! ボクの!」
キュア~!
ご機嫌のヴァーロは、自分のバッグに大事そうに仕舞い込む。
チャチャも自分の前に置かれた瓶を見て、横のヴァーロの上着を引っ張ると、
キュキュ!
と訴える。
「えっ? ボクのバッグに仕舞ってっていうの?」
うんうんと頷くチャチャに、
「わかった。食べたい時に言ってね? チャチャ」
と仕舞いながらニコニコ笑う。
仲の良い兄妹のようである。
「はい。ヨーグルトだよ。上に今作ったジャムと、前に作った乾燥させた果物です。ヴァーロくんのヨーグルトには乗せてないよ。小皿の小さい粒のはドライザクロで、私は時々ヨーグルトに入れて食べてます」
【ドライザクロって料理に入れたりするわよね】
「そうなんです。酸味があるのですが、私は好きですね」
最初躊躇っていたものの、口に入れたジャムは甘くホッとした味で、ヴァーロはガツガツと食べている。
ザクロは酸味が苦手らしく、一粒だけ食べてあとは琴葉の方に小皿を寄せた。
チャチャ用はトマトジャムとヨーグルトである。
「お、美味しい!」
「では、お試しを数種類。カボチャとお芋のチップスです」
「チップス?」
「お菓子よ? 私は油で揚げているのを昔食べていたけど、これは乾燥させたの。そのかわり、ちょっとお塩を振ってるわ」
えぇぇ~と言いたげなヴァーロは、恐る恐る口に入れ、
「美味しい? 甘い? なんで?」
「野菜にも砂糖と同じ糖分……甘いものが含まれているの。でも、普通に食べるとそんなに感じないのね。火を通したりすることで、美味しさをギュッてまとめる感じなの」
「すごい~ボクでも食べられる」
ごっそり食べ尽くしたヴァーロは、顔をあげ恐る恐る問いかける。
「ねぇ、コトハ。また作ってくれる?」
「もちろん!」
片付けを手伝ってくれるヴァーロに頷きながら、次は別のお菓子を考えようと思ったのだった。
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