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Home is always sweet to an exile ~故郷は忘れ難し

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「しずく! どんなだ?」

 長老が声をかけるとしずくはハッと我に返って後ろに下がって正座をして頭を下げた。
 
「あの……大変……わたくしには信じられないのですが……結果を申し上げてもよろしいか、どうか……正直迷っております……」

 彼女はそう言って、困惑した表情を浮かべている。

「構いません、言いんさい」

 当主がそう声をかけると、しずくは顔を上げて、おずおずと何かが奥歯に挟まったような様子で応えた。

「はい……御当主様……」

 本当に困ったという表情のまま、長老たちを見回すと彼女はぽつりと話し始めた。

「まず……大滝様の血統ですが……間違いなく一〇〇パーセントの本家の血筋でございます……」

 それはわかっていた事なので、リュウセイ自身も長老たちその場の人たちの間にも納得するような空気が流れた。

 しずくの能力は噛んだ相手の血の血統などがわかる能力だった。
 確認の為にリュウセイの血統を調べようという事なのだろう。

「次に、属性ですが……こちらは一〇〇パーセントの猫でございます」

 すると長老達から、どよめきが起こる。
 血族で一〇〇パーセントの猫の男は生まれにくいのだと、ユキナも言っていた事だ。
 それについてはわかっていたリュウセイとユキナ以外が驚くのも無理はないだろう。

「最後に格付けですが……」

 そこでなぜか、しずくさんは言葉を詰まらせた。

「お言いんさい」

 当主が少し厳しい口調で声をかける。

「は、はい……師範代級、準マスタークラスで……ございます……」

 またまた長老達がどよめく。
 準マスタークラスというのは、ただ一人のマスタークラスである当主の格の次に位置する格である。
 それはその場の皆に大いなる驚きを持って迎えられた。

「……ユキナと同じですかいな」

 当主がゆっくりと何やら安心したように口にする。

「は、はい……」

 しずくさんが困った顔のまま恐縮しながら頭を下げた。
 
 ユキナと同じ格……それはつまりとてつもなく能力が高い事を表している。
 ふとリュウセイが見るとユキナもさすがに呆然とした顔をしていた。
 ……彼女にしてみても予想外の高さだったのだろう。

 当主はしずくを見つめて、ゆっくりと聞いた。
 
「で、しずく。 あんたの判断はどうかいな?」

 しずくはおずおずと頭をあげて、ゆっくりと言った。
 
「……現在の猫の血族の男性の中では恐らく最強の方に相違ありません。 ユキナ様のお相手としてこれ以上の方はわたくしには思い浮かびません……」

 それを聞いた瞬間、ユキナの顔がぱあ、と明るくなった。

「……そうでしょうな」

 当主も頷きながら、そう言った。

「長老の皆さん……そしてあんたらぁも……リュウセイの血筋に関しては納得いただけましただかいな?」

 当主はこの場にいる全員の顔を見回して言った。
 長老と、若い男女たちはまだ少し驚いた顔をしていたが、それぞれはい、と言って頷いた。

「リュウセイ」
「……はい」

 急に当主に名を呼ばれてリュウセイは内心飛び上がりそうなほど驚きながら彼女の顔を見つめた。

「……あんたの両親……大滝貴生おおたき・たかおさんと私の姪、まゆはなぁ」」
「は……はい……私の両親がなにか?」

 リュウセイが何の話かと少し動揺しながら訊ねると、当主はにっこりと笑った。

「繭は私が可愛がってた子でなぁ……」
「はい……」

 リュウセイはまた何か胸が詰まったような気持ちになった。

「あの二人が事故で亡くなったって聞いた時になぁ……私はあんたの事をほんに一生懸命探し回ったんだわ……でも見つけられんでなぁ……」

 そう言って、あの化け物のような威圧感を持った当主が、なんとリュウセイに頭を下げた。

「私はあんたの大叔母にあたるけん……なんとか見つけて引き取ってやろうと思うとっただけど……結局今まで見つけられんかった……力の足りん大叔母を許してくれるかいな?」
「……もったいないお言葉です……。 大叔母様……」

 リュウセイはいつしか涙を零しながら、頭を下げた。
 もうこの世界に自分の親族などはいないと思っていたのに実はこうして自分を案じて探してくれていた人がいた事そのものがとても嬉しく、ありがたかった。
 リュウセイの胸はいっぱいになってただ、涙があふれた。

「あんたの顔を見た瞬間にわかったわ……。 貴生さんにそっくりだったけぇね……」
「俺……嬉しいです……。 まさか……自分にまだ血の繋がった親族がいたなんて……と、とっくに諦めてましたから……。 ホントに……嬉しいです……」

 リュウセイはそう口にするとそれまでの緊張も何もかも忘れてしまったように、ただ畳にひれ伏して声を上げて泣いた。
 ただただ、どうしようもなく涙が止まらなかった。
 
 ふと気が付くと、ユキナが彼の背中をさすってくれていた。
 リュウセイが顔を上げて振り向くとユキナもぼろぼろとその目から大粒の涙を零して泣いている。

「ユキナ……ありがとう……ユキナのお陰で……俺……俺、ホントに人生やり直せそうだよ……失くしたモノを取り戻せそうだよ……」

 リュウセイはなんとかそれだけを口にして、ユキナの手を握った。
 彼女も声を出せずにただぽろぽろ涙をこぼしながら頷くだけだった。

「ユキナ……私からもお礼を言うけん。 ほんに……リュウセイをよう連れて来てくれよりましたなぁ……」

 当主……いや、リュウセイの大叔母もいつしかぽろぽろと涙をこぼしながらユキナに言った。
 
 俺リュウセイは涙ながらにユキナと顔を見合わせた。
 そして二人は頷きあって、大叔母様に向き直った。

「大叔母様!」
「お祖母様!」
「俺達の結婚をお許し下さい!」
「私達の結婚をお許し下さい!」

 二人は見事なユニゾンで同時に言った。 
 すると大叔母は、優しげに微笑んだ。

「あんたらぁ二人とも、私にとっちゃ可愛い孫みたぁなもんだしな……。 そもそも私はあんたとユキナを結婚させようと思って探していましたけん。 そんなん反対する理由なんかなんもありゃせんわ!」

 リュウセイはユキナとまた顔を見合わせた。
 
「で、では……」

 大叔母はゆっくり頷いた。

「結婚は許します」
「あ、ありがとうございます!」

 リュウセイとユキナは礼を言って頭を下げた。

「長老の皆さんもそれについちゃ文句はありませんな?」

 大叔母様が凜とした声で言うと、長老達も並んで正座して頭を下げた。
 
「御当主様の御意のままに……」

 口々に恭しくそう言った。

「ゆ、ユキナ!」
「リュウセイ!」

 二人はお互いに手を握りあった、また自然と涙が出てきた。
 
「私も……まさか、一番下の孫娘が長らく行方のわからんかった大甥のあんたを連れてきて、私が言った通り素直に結婚するなんてぇ言い出したもんだけえ、それは大層びっくりしただけどな」

 大叔母は嬉しげに微笑んで言った。

「あんたが見つかったって聞いた時に、ほんに驚いてなぁ。 とりあえず会ってみるまでは本人かどうか正直疑っとったわ」

 感慨深げにそう言って、俺とユキナの肩に手をかけた。

 リュウセイは彼女に恐怖はもうあまり感じなかった。
 ただただ優しさとあたたかさを感じた。
 
「ああ、そうそう。 あんたの猫さん、かわいそうだけぇ……呼んであげんさい」
「は、はい……」

 リュウセイは奥の襖まで行くと開けて、シュレを呼んだ。
 そして抱き上げて部屋の中央へと戻った。 
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