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Outlaw Of The Blood ~血の無法者

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 リュウセイとユキナがテントで食事をしていると、突然遠く離れた所から銃声が聞こえて、二人は目を見開いて顔を見合わせた。

「な、なぁ……今のって」

 リュウセイが恐々訊ねるとユキナは鋭い目になって頷いた。

「たぶん、銃声だね。 でも……おかしいな? 血族の人たちはこういう人里が近い所では基本銃器は持っていないはずなんだけど……」

 ユキナは首を捻りながら、残った缶詰と赤飯を慌てて口に入れると立ち上がった。
 もぐもぐと咀嚼して飲み込むとテントの入り口に立って振り返った。

「ちょっと様子を見てくるね」

 リュウセイも立ち上がった。

「俺も行こう」

 ユキナは僅かに笑みを浮かべながら二人は靴を履いてそのまま暗闇の森林の中へと踏み出した。
 周りの血族たちのテントには人の気配はなかった。

「誰もいないのかしら?」

 ユキナは周りを見回しながら暗闇へと目を凝らした。
 リュウセイも周囲に注意深く見回して気配を探る。
 けっこう離れた辺りに血族の者たちの気配を感じた。

 (なるほど……仲間の気配はわかるのか……)

 リュウセイは少し驚きながらもそちらへ歩き出した。
 ユキナも同じ方向へ、注意を払いながら進んでいく。

「でも……戦ってる気配はしないわね」

 ユキナはぽつりとそう呟いた。
 二人は注意深く森の奥へと進んでいく。
 仲間たちが集まっている所へとたどり着くとその真ん中辺り、地面にシュウトが片膝を突いて何かを調べているのが見えた。

「シュウトにい、何かあったの?」

 ユキナが訊くとシュウトは難しい顔をしながら彼女の方へ振り向いて、親指を立てると地面をそれで指さした。
 ユキナが不思議そうに覗き込むと、その顔色が変わった。
 リュウセイもそれを見て、眉間に皺を寄せる。

 そこに転がっていたのは見知らぬ男の死体だった。
 黒いボタンのない学生服のような服を着ていて、よく見ればその額に弾痕があり、一発で殺されたのがわかる。

「シュウト……こいつは?」

 リュウセイが嫌悪感を隠そうともせず、複雑な表情で訊くとシュウトは手を広げた。

「間違いねぇ。 こいつは教会の武装神父だ。 ……だが、妙なのは俺たちの中に銃を持っているヤツは一人もいねぇってこった」

 そしてなぜかシュウトは足元の石を拾って手に持つと、冷たい目をしてそれを無造作に暗闇の中へと思い切り投げつけた。
 ザザ、と音がして何かが木の影から慌てて転がり出てきた。

「チッ……見つかっちまったか。 へッ、腐ってもヴァンパイアだなぁ」

 男は手に古めかしいリボルバーの拳銃を携えて、ヒュウ、と口笛を吹いた。

「てめェ……ナニモンだ?」

 シュウトは鋭い目つきで問う。
 そして彼の右腕はバキバキと音を立てて、まるでネコ科の巨大肉食獣のような腕に変わっていった。

「なあに。 名乗るほどのもんじゃあねえよ……」

 男はそう嘯いて、リボルバーの拳銃のトリガーを離してそのリングに指をかけたままグリップを離して手を上げた。

「おっと。 こっちはこの通り、あんたらと戦り合うつもりはねえんだ。 ……こっちも主人マスターの命令で教会の奴らを追っていただけなんでね……」

 するとユキナが穿ったような目で男を睨み付けた。
 その瞳は暗闇でもはっきりわかるくらい紅く光り輝いている。

「……主人、と言ったわね? あなた……もしかしてヴァンパイアの眷属ね?」

 それを聞いて男はまた感心したような顔でヒュウ、と口笛を吹いて、ニヤリ、と笑った。
 見ればその無精ひげだらけの口元から乱杭歯が覗いている。
 そして目深に被ったテンガロンハットの下の男の目も紅く光っていた。

「よくわかったな。 さすが、と褒めておいてやるぜ、お嬢ちゃん」

 男はそう言って、拳銃をくるくると回すとそのままヒップホルスターへと収めた。

「さっきも言ったが、あんたら『猫の血族』と敵対するつもりはねえ。 まぁ、一応半分はお仲間ってこったしな」
「ハッ!! 俺たちの事もご存じだってか? ……もう一回訊くぜ? てめェはナニモンだ? ……いや、誰の手のモンだ?」

 シュウトが猫型に変えた手の爪を出して、そいつを睨み付けながら尋ねた。

「そこまで言う義理はねぇな……」

 男はそう嘯いて、テンガロンハットを目深に被った。
 ユキナが目を細めて男を睨む。

「……あなた、もしかして『真血』の眷属ね? 普通の眷属にしてはあまりにも吸血鬼じみてるわ」

 男はまた感心したように目を丸くして、小さく音が出ない程度に拍手をして見せた。

「ハハッ! そこの兄ちゃんより、嬢ちゃんの方がよっぽど賢いみてえだな? ……その通りだ、俺はさる真血のお方に血を分け与えられた眷属さ」

 ユキナはキッと男を睨んで、シュウト同様その手を猫のそれに変えて長く爪を伸ばした。
 それはまるでアメリカンショートヘアのような銀色の毛に覆われ、黒い縞模様があった。

「おっと! ちぃっと楽しくおしゃべりをしすぎちまったようだぜ。 ……今日の所は失礼させてもらうぜ」

 男はそう言って、テンガロンハットを脱ぐとそれを胸に当てて頭を下げた。

「ふざけんな! 逃がすかよ!」

 シュウトが飛び掛かると男はふわり、とまるで重力の法則を無視するように舞い上がり、そのまま木の上をジャンプして去っていった。

「最後に教えておいてやるぜ。 俺の名はジェシーだ。 ジェシー・ジェイムズ。 覚えときな!!」

 どこからかそう声が響いた。
 方向がわからない、ただ森の中にこだましているかのような声だった。

「チッ、逃がしたか」

 シュウトはバキバキと音を立てて手を元の人間のモノへと戻しながら、不機嫌そうに言った。

「さすが……『真血』の眷属ね。 一筋縄でいく相手じゃないわ」

 ユキナも手を戻しながら苦々し気に呟いた。

「『真血』ってのはなんだ? また別の勢力のヴァンパイアって事なのか?」

 それまで呆然と事の成り行きを見守っていたリュウセイが慌てたようにそう訊いた。
 ユキナは相変わらず苦々しい顔をしながら、やれやれ、とでもいうように手を広げて見せた。

「……違うわ。 あいつらは……本物、よ」
「本物?」

 リュウセイは要領を得ない顔で不思議そうにユキナを見た。

「そう。 本物。 あたし達みたいに人間と混血が進んだダムピールじゃないわ。 ……本物の吸血鬼。 あいつらは人間を襲って餌にするわ」
「ほ、本物ってそういう意味かよ!!」

 リュウセイが叫ぶとシュウトも怒ったような顔で頷いた。

「どうやら、厄介なのが現れちまったようだぜ」

 だが、ユキナはふと、ニヤリと笑った。

「でもさ……リュウセイ、知ってる?」
「なにを?」

 ユキナは美しいだけに凄惨にも見えるおぞましげな笑顔を浮かべた。

「最強のヴァンパイアハンターは……ダムピールなのよ」

 そこ言葉にシュウトも鬼気迫る笑顔を浮かべた。

 そして何やらリュウセイの心の中にもおかしな衝動のような激情のようなモノが渦巻いた。

 リュウセイは心の中で気が付いた。

 (これは……猫の……狩人ハンターの本能か!?)
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