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Bad Boy ~不良少年

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 リュウセイは泣きじゃくるユキナを横目で見ながらハンドルを握り車を進ませた。

(やっぱり、こいつきっとずっと淋しかったんだろうな……。 人間社会でもそうだが、あまりにも高い地位にいるヤツってのは往々にして孤独だしな……)

 彼はそんな事を考えながら黙って車を走らせた。
 彼女が望むというのなら、喜んで隣にいてやりたい、とそう切に願った。
 そして少しずつユキナという少女の事がわかってきたような気がして、嬉しいような気にもなってくる。

「あ! そうそう!」

 泣き止んだと思ったら突然ユキナが素に戻って顔を上げた。

「な、なんだよ? いきなり」

 リュウセイが思わず訊ねるとユキナは俯いてもじもじと膝の上で手を合わせた。

「あのね、あのね……多分本家にいる時のあたし、普段と全然違うから……」
「? まぁ、そりゃそうだろうって普通に思うけど。 わざわざそんな事を?」

 ユキナはふるふると首を振った。

「えっとね……きっとすごく性格悪そうに見えるかもだから……」
「だから?」

 リュウセイは不思議そうに眉毛を持ち上げた。

「き、嫌いにならないでね!」

 ユキナはそう言って真っ赤になって完全に俯いてしまった。
 リュウセイは思わず吹き出した。

「バカだなぁ……。 どんなお前でもお前はお前だろ? なんでそんな事で嫌いになるんだ」
「ぜ、絶対だよ!?」

 ユキナは真っ赤な顔を上げてムキになって叫んだ。

「おう!」

 そしてユキナはぐいっと目を釣り上げてリュウセイを睨みつけた。

「そ・し・て!!」
「?」
「さっきからお前、お前言いすぎ!!」
「あ……、マジごめん……」

 (その前にバカって言った気がするんだが、それはいいのか?)

 リュウセイはふとそんな事を考えたが気にしない事にした。
 ユキナはふくれ面で助手席で腕を組んだ。

 そしてまた彼らの車は九号線をひた走り、鳥取を目指す。
 だんだんと暗くなり始めるとリュウセイは車のヘッドライトを点けた。
 実のところ吸血鬼である彼らには夜は輝いて見えるくらい明るく感じるのだが、対向車への配慮である。
 道路の先に赤橙が並ぶのが目に入るとリュウセイは少し迷惑そうに顔をしかめた。

「あれ? なんだ工事かな?」

 ユキナもそれを見て口を尖らせた。

「通れなくなったりしてないでしょうね?!」

 二人の乗るハイエースが赤橙の並ぶ辺りに到着して車を停めて様子を見ていると作業着を着てヘルメットをかぶって誘導灯を持った人影が彼らの元へと歩いてきた。

「おう! おっさん! すまねえが……ここは通行止めだ。 他の道を当たってくれや」

 えらい失礼な物言いをする作業員だな、とリュウセイは少しムッとしながら窓を開けた。

「通れないのか?」
「ああ……申し訳ねえけどな」

 ふと、ユキナが驚いた猫のようにピクン、と身体を震わせてその作業員をしげしげと見つめた。

「ねえ、あなた?」

 作業員はヘルメットを持ち上げて訝し気にユキナを見て、目を丸くした。
 見れば金髪のヤンキー丸出し、と言った風体の若者である。

「あれ? なんだよ……よく見ればてめえら……血族の者か?」

 そう言ってその青年は今度は真面目な顔になった。

「なんだと? ああ……そういえば……なんかそんな気配がするな」

 リュウセイも驚いたように言った。
 そして彼の隣でユキナが何かを思い出したようにぽん、と両手を合わせて叩いた。

「あー!!」

 その声に驚いてリュウセイと青年は彼女を見つめた。
 すると青年も目を丸くして、手を叩いて彼女同様に「あぁ~!」と声を上げた。

秀翔シュウトさん!!」
「てめえ、もしかして……ユキナか!?」

 二人は同時にそう叫んだ。
 青年はその強面な顔を嬉しそうな笑顔に変えた。
 まぁヤンキー顔なのだが、そこはさすが吸血鬼というべきか、充分以上に美形のイケメンではある。
 そして笑うと存外人が好さそうな顔になるのもリュウセイにとっては好感を抱かせた。

「なんだよぉ! 久しぶりじゃねえか! ……ガキンチョの頃に会ったキリだからすぐにはわかんなかったぞ! このクソガキ!!」

 嬉しそうに叫ぶシュウトを眺めて、リュウセイはなんて口が悪いんだこいつは……と少し呆れた顔になった。

「シュウトさんこそ! なんでこんな所……って、そうか。 この辺に『敵』がいるのね?」

 シュウトは鋭い目つきになると頷いた。

「ああ。 なんとか山の中に追い込んだんだが……あいつら手あたり次第で他人の迷惑なんざお構いなしだからよ。 なるべく人を遠ざけようとこうして道路を封鎖してるんだよ」

 そしてシュウトは思い切り顔をしかめて、不機嫌そうにユキナを睨み付けた。

「それにしてもユキナ。 なんだよ、てめえ。 そのシュウト『さん』ってのはよ。 ……気持ち悪ィからやめろやその呼び方……」
「え?」

 ユキナは目をまん丸くした。

「えっと……じゃあ……昔みたいにシュウトにいって呼んでいいの?」

 シュウトは彼女がそう言うと歯を見せてニッと笑った。

「おう! そう呼ばれないとなんだかケツの穴がこう……ムズムズとかゆくなっちまってなぁ!! ギャハハ!!」

 彼は下品に大笑いをして、少しするとまたヤンキーがガンを付けるような顔でリュウセイを睨んだ。

「なぁ、オッサン。 あんたは誰なんだ? 血族の者には違いねえようだけど……どうやら俺はあんたの顔に見覚えがねえんだけどよ?」

 するとユキナが説明してくれた。

「この人は東京からあたしが連れてきた『はぐれ』なの!」

 シュウトはそれを聞いて目を丸くすると、にんまりと笑った。

「あぁ……そうかぁ! あんた! よかったなぁ……仲間にこうして会えてよう!」

 そしてシュウトは笑顔のままぽろぽろと涙を流し始めた。
 どうにも感情過多なタイプらしいが、どうにも悪い人間……いや、吸血鬼ではなさそうでリュウセイも思わず笑みを浮かべてしまう。

「ていうか、シュウト兄?」
「あン?」

 シュウトがユキナに呼ばれてぽかんとした顔になるとユキナはリュウセイを指さした。

「この人はシュウト兄とは従兄弟になるのよ?」
「な、なんだってぇ!? それじゃあ……ばぁさんが探してたってのは……」

 ユキナはドヤ顔で頷いた。

「うん。 そう! 大滝リュウセイさんよ!」
「マジか……」

 シュウトは一層目を丸くしてぶしつけな様子でリュウセイの顔に自分の顔を近づけてマジマジと彼の顔を見つめた。
 そしていきなり彼の手を取ると、ものすごいいい顔で笑った。

「あんた!! 兄貴って呼ばせてもらっていいか!!」
「はぁ!?」

 あまりの馴れ馴れしさにさすがのリュウセイも驚いて声を上げたが、すぐに笑いだしてシュウトの手を握り返した。

「ああ! 俺もてっきり天涯孤独だと思ってたからな……こうして従兄弟に会えるなんて……ほんとに嬉しいんだ。 よろしく頼むよ、シュウト」

 リュウセイが言うとシュウトはまたぼろぼろと涙を流しながら頷いた。

「あぁ~、兄貴……苦労してきたんだなぁ……。 もう安心しろよ! 俺たちといればもう寂しくねえからよう!!」

 シュウトはそう言って空いた方の腕でぐしぐしと乱暴に顔を擦って涙を拭った。
 リュウセイは少し苦笑しながらも、シュウトが思いの外人のいい吸血鬼(?)な事に心から安心した。
 少なくとも彼はユキナに対する変な対抗意識や敵愾心はまったく無く、お家騒動などとはまったく関係ないのだろうという事だけはよく理解できた気がした。

「どうしたんすか? シュウトさん?」

 ふと彼の後ろからシュウトよりも若そうな青年が歩いてきてそう声をかけた。

「コハク?」

 ユキナはさっきとは打って変わって、不機嫌そうな顔になって彼を睨み付けた。

「ユキナお嬢様! まだこんな所にいらっしゃったんですか!?」

 コハクはそう呆れたように言って首を振った。

「おうコハク!」

 シュウトが彼を呼ぶとコハクはぴしっと背筋を伸ばした。

「な、なんすか? シュウトさん!」

 シュウトは彼の首根っこを掴むようにするとガンを付けるような顔で歯を食いしばり、顎に皺をこさえながらものすごい怖い顔で睨み付けた。

「てめぇ!! そのシュウト『さん』つーのはやめろっつってんだろがぁ!! アアン!? 昔みてぇにシュウト兄ちゃんって呼べやコラァ!!」
「す、すんませんっしたぁ!! シュウト……兄ちゃん!!」
「おっしゃ!」

 シュウトが首から手を離してもコハクは顔面蒼白になって完全にビビりまくって震えていた。
 コハクの方が吸血鬼としては格上のはずなのだが……ヤンキーの迫力はそれすらも凌駕するとでもいうのか? とリュウセイは驚きながら二人の様子を見つめて呆然としていた。
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