先輩は私のお姉ちゃんだけどそれを先輩は知らない

吹石美里②

1人でこの子を育てると決めた。
でも、初めての子育ては私の予想を遥かに上回る大変さだった。
大反対していた親には合わせる顔が無く頼れなかった。

それでも、美咲がとても可愛らしく笑うので耐えられた。
この子がいるなら頑張れる。
そうやって日々が過ぎていった。

ある日、あの人が家を訪ねてきた。

「誠さん…？」

「それは、俺の子か。」

「え？なんで…。」

「俺の子なんだな。」

低くて落ち着いた声。でも、怖いわけではなくてその声を聞くととても落ち着く。

その声を聞いていたら安堵したのか涙が溢れる。

「すまなかった。」

そしてゆっくりと優しく抱き寄せてくれる。

「ごめん…なさい…。」

しばらく経って誠さんが眠っていた美咲の近くへ座った。

「名前は？」

「美咲。」

「そうか。可愛いな。」

そう言ってにっこりと微笑む。

「また、来てもいいか？」

「あの、陽子さんは…。」

「うん。ちゃんと話すよ。」

「だから、何か手伝えることがあったら言ってくれ。今まですまなかった。」

「そんな…。」

私は2人の家庭を壊したいわけではなかった。なのにどうしてこの人の優しさに縋りたくなってしまう。

そして、誠さんは度々ウチに来て手伝ってくれるようになった。

しばらく経った頃。誠さんが言った。

「実は陽子のお腹に今新しい赤ちゃんがいる。」

「え…。」

「それまで待ってもらえないか。」

「待つって。」

「ちゃんとケジメをつける。」

私は頭が追いつかなかった。
そもそも私はこの人の何なのだろうか。
誠さんはただ優しいからその責任でここまでしてくれていると思っていた。
だから、決して私の方へ来ることなんて無いのだろうと。

誠さんが土下座をした。

「え、あの、誠さん？」

「だから、もし許してくれるなら、そこからちゃんと一緒に美咲を育てていきたい。」

それから、陽子さんに子供が産まれて落ち着いた後に誠さんとの生活が始まった。

それは、とても幸せだった。