先輩は私のお姉ちゃんだけどそれを先輩は知らない

吹石美里① (美咲母)

たった1度。たった1度の誤ちだった。
いけないことはわかっていた。

皆川誠。私の今の夫。そして、私の憧れの人だった。

高校生の頃私が入学した頃、生徒会長をしていた彼はとてもカッコよくてその姿に憧れて私も生徒会へ入部した。

そこで、内気だった私に彼はとても優しく接してくれ、好きになるのは時間の問題だった。

しかし、彼にはすでに素敵な恋人がいた。
柏木陽子さん。学校中で2人はお似合いのカップルだと言われていた。
そんな2人に私が入る隙なんて１つも無い。

陽子さんは時々、生徒会室へ顔を出すこともあり、私にも気さくに話しかけてくれるようなとても素敵な人だった。
私はそんな優しい陽子さんが大好きだった。

だから、そんな2人を遠目でずっと見ていた。

何年後かに2人が結婚したことを知った。

そんな時に仕事の関係で彼と再会した。
仕事終わりに1度だけ飲みに行った。
色んな話をした。
最近子供が出来たこと。仕事のこと。
そうやって話していくうちにお酒が進む。

そうすると間違いが起こってしまうことも珍しい話じゃ無い。

でも、私と誠さんに限ってそんなことあるはずがなかった。
私に陽子さんに及ぶような魅力らしい魅力なんてないのだから。

無いはずのことが起こってしまった。
たった1度、1晩だけ。

誠さんはお酒があまり強く無かったらしい。
だから普段からあまり呑まないようにしていた。
でも、久しぶりに私会ったことが嬉しくて呑みすぎてしまった。

次の日、全部無かったことにしたいと言ってきた。当たり前である。
何度も何度も謝っていた。
私はすぐにわかったと返事をした。
1度だけでも幸せだった。
もうそれで良かった。

そんな中、しばらくして子供が出来たことが発覚した。
おろすという選択なんて考えられなかった。
私はその事を誠さんには言わずに1人で産むことを決意した。

親は猛反対していたが、そんなことを聞けるわけはなかった。
自分の子供を堕すなんて選択を考えることが出来なかった。
1人で育てると決めた。