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葵の本音① (美咲ver)

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葵先輩とはあのインターハイの夜から1度も会話をしていない。
すごく気まずい。
多分私が一方的に避けているから先輩がそれに合わせてくれている。

だけど、このまま気まずい関係でいるのはすごく嫌だ。
普通に先輩と後輩としてあの人の側にいる事ぐらいは望んでもいいだろうか。

「あの…葵先輩。」
勇気を出して話しかけた。

「ん?どうした?」
いつもの優しい笑顔だ。

「少しお話がしたいです。」

「そうだね。じゃあ、今日の部活終わり空いてる?」

「はい!空いてます!」

「じゃあ、ちょっと部室で待っててくれる?顧問のとこ寄らないといけないから。」

「はい!」

久しぶりの会話だ。
これだけですごく嬉しい。

「ごめんね!お待たせ!」
部室で待っていると葵先輩が来た。
他の人はもう帰っている。

「いえ、全然。お時間を作ってくださりありがとうございます!

「あはは。なんか堅いねー。てか、私のせいか。」

「ち、違います!全然私のせいで…。」

「そんなことないでしょ。」

少し重い空気が流れる。

「それで話ってこないだのことだよね?あれは全部私が悪いよ。だからもう謝らないで。ごめんね。」

今日の先輩はどこかおかしい気がする。
こないだのインターハイの時から思っていたが今日は特におかしい。

「いや、そんな…っん」
口を手で塞がれた。

「謝るな…。」

「は、はい。すみません。」

「だから謝るなって。」
そう言って少しだけ笑う先輩になんだかホッとした。

「はい…。」

今日の先輩はやっぱりおかしい。でも、今日しか聞けない。色々はっきりして終わりたかった。

「あの…、最近香澄ちゃんと何かありましたか?」

「何かって?」

あの夜から1つ決めていたことがある。
私の恋は終わった。だから香澄ちゃんを応援しようと。

「何かっていうか。香澄ちゃんってすごく優しいじゃないですか。実際私も何度も助けられていて…。だから、もし先輩が何か悩み事とかあってもきっと香澄ちゃんならって…。」

「………。」
先輩は何も言わない。

「えっと…先輩?」

「それは無いよ。私香澄のこと嫌いだもん。」

バチンッ!!

その瞬間、私は先輩のほっぺたを思いっきりしばいた。
自然と涙が出てきた。

「最低です…。」

「あんたに何がわかんのよ。」
いつもとは違ってとても弱々しい言葉で先輩はそう言った。

「何もわかりません!でも、香澄ちゃんがどれだけ先輩のことを好きでどれだけ頑張ってたか…。それから、先輩が今苦しんでるのもわかります…。」

「…………。」
先輩は下を向いたまま、また何も言わない。
何も言わない代わりにそっと私の胸に頭を置いてきた。

「あの…。先輩…?」

「助けて…。」

「え?」

「もうやだよ。もうこれ以上、香澄を傷つけたくない。」

そのまま先輩を抱きしめた。

「どうしてこんなことを?」

「最初はかすみが私を嫌いになればいいと思った。香澄みたいな子に好かれてるとすごく自分の空っぽさがわかってしんどかった。だけど香澄は全然そうならないからどんどんおかしくなっちゃった。自分がどうしたいのか自分でもわからなくて…。」

私の胸に頭を置いたまま弱々しく先輩が話す。

「先輩は本当に香澄ちゃんのこと嫌いなんですか?」

「嫌いじゃない…。ただ香澄が羨ましい。私なんかよりずっとバスケの才能あるし、こうやって香澄のために怒ってくれる友達もいる。」


「香澄ちゃんはすごく頑張ってます。才能だけじゃ無いです。」

「うん…。」

「でも、先輩だって頑張ってるじゃ無いですか。だから、私は先輩も香澄ちゃんもホントにすごいなーって。」

「うん…。」

「先輩…。ひどいことしたなら謝らないと。」

「うん…。」

「きっと先輩は、私や他の人以上に香澄ちゃんのことをすごいって認めてるんですよ。だから、ちゃんと伝えなきゃ。」

「うん、ちゃんとする。」

先輩が顔をあげる。
先輩のこの弱りきった顔は初めて見た。

いつも優しくて、かっこいい先輩がどれだけのことを抱え込んだらこんなことになるのだろう。
きっと私もそれに加担していたんだ。
そう思うと自分がひどく情けなくなった。

「先輩。ほっぺたすみませんでした。つい熱くなちゃって。」
そう言って先輩のほっぺたを優しく触る。
思った以上に腫れていた。私のどこにこんな力があったのだろうか。

「大丈夫。ありがとう。」



その後、2人で帰り道を歩いていた。

「私ちょっと今から話してくるね。」

「え、今からですか!?」

「うん。」

「今じゃないと。私すぐびびるから。」

「先輩が?」

「うん。私びびりなんだよ。」

「そんなことは無いと思いますけど…。」

「あはは。だからさ、またいつか私がびびったらもう1回叩いてよ。私のことあんなに思いっきり叩けるの美咲ぐらいだよ!」

「わ、私は2度と叩きたく無いですけど…。先輩が言うなら頑張ります…。」

「ありがとう。美咲。」

いつもの笑顔で先輩が言った。
でも少し力が抜けたような笑顔で先輩はきっともう大丈夫なんだと思った。









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