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最後の理系戦争
35話:フェノールの正体(後編)
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戦況はどちらも引けを取らないもので、交戦が続く。ヘンリーの参戦により、ボイルの軍勢は士気が高まる。その前に現れたのは、
「ヘンリー!ジュラルミンの仇取ってやるからお前の命、破り捨ててやる」
「ふん、お前がアセトアルデヒドか。噂に違わぬ強さだが俺より弱いわ。貴様は酸化することで変化をする、なら!」
ヘンリーは自身の持つ槍をアセトアルデヒドの肩目掛けて打ち抜く。寸前に避けたものも、頬にかすり傷が残った。
「流石圧力を知るだけ強いわ。これの何が強いんだ…?なんだ、この焼けるような匂い」
よく見ると頬を掠めた事によって傷口が酸化して酢酸特有の匂いと、ヘンリーの突きの速さによって生じた熱によりあたり一面吐き気を催す戦乱となった。
「なるほど…あの槍は触媒槍ってことか。厄介な相手だ。だからと言って負けるわけにはいかないがな!」
掠めた頬の傷をもろともせずアセトアルデヒドは一気に突っ込む。しかし…
「お前のような若造の攻撃喰らってたらボイル様に合わせる顔がないわ。これでも喰らっておけ」
ヘンリーの右拳がアセトアルデヒドの鳩尾にヒットするとそのまま倒れて意識が遠のく。
「こいつ…絶対ジュラルミンの仇を」
「まだ言ってやがる。殺すには惜しい精神力だ。見逃してやるが次は無いぞ」
そう言い残し、ヘンリーはそのまま敵を薙ぎ倒していく。アセトアルデヒドはそのまま倒れ込み、意識が薄れる。
一方、フラーレンとコバルトはお互いの体に薬を塗り終わってベッドの上で横になっていた。
「ねぇコバルト、1つ聞いていい?」
「ん?どうしたの?」
フラーレンの聞きたい事に耳を傾けるコバルト。その内容は思春期の女子に多いものだった。
「君、私の体見てどう思った?変態な事を想像させるかもしれないけどさっき色んなことをしたからさ…。あまり私、自信持てなくてさ」
不安そうなフラーレンにコバルトはそっと彼女の頭に手を優しく乗せてこう言った。
「君の体は綺麗だよ。フラーレンという名前は黒鉛を思いつくけどそれとは逆に君は綺麗な白だ。傷がついてしまおうが何だろうとも僕はフラーレンのことが好きだ。初めてありのままの胸を見たけど僕の想像を超えてきた。また守りたいってより一層強くなった。傷ついて心が折れてしまっただろうけど、僕は君のこと命懸けで守るから」
「そっか、そう言ってくれるのコバルトだけだよ。ありがとう」
着替えた洋服に涙が溢れる。そして、コバルトは続ける。
「フラーレン、一緒に結婚しよう!」
「もちろんだよ!コバルト!」
2人の流す涙は炎色反応のように美しい、澄んだ色だった。
戦いにふけるアクリロニトリルたちは負傷したアセトアルデヒドを見つける。
「大丈夫か!おいおい…酸化してるぞ。すぐに中和させるしかないな、塩基性のものを頼む。できれば弱塩基性の液体だ」
近くにいる兵に頼み、アクリロニトリルは自身の持つ包帯を患部に巻く。治療中アセトアルデヒドはヘンリーとの一戦を話し始めた。
「父さん、ヘンリーをぶち殺してくれ…あいつはジュラルミンを亡き者にしやがった罪人だ…」
「それをしてどうする?」
呆然とするアセトアルデヒド。しかし、そんな呆然とするアセトアルデヒドの答えを聞く事なくアクリロニトリルは続ける。
「人を殺してその人の家族から恨まれ、殺される。その繰り返しになるだけのことをなぜ気づかないか?ジュラルミンは確かに良き友だ。だが、血のつながりというのはあるか?」
「ごめんけど、賛同できない。ヘンリーは俺の宿敵になる。あいつを倒さなきゃ話にならない」
それを言った次の瞬間アクリロニトリルはアセトアルデヒドの顔面をぶん殴った。
「勝手にしろ。お前1人で解決できるならしてみせろよ。もう頼るな」
治療中のアセトアルデヒドを背後にアクリロニトリルは戦火へ飛ぶ。アセトアルデヒドは患部を保護しながら戦線復帰を試みる。が…
「やっぱり無理か…ヘンリーにバレたらどうする?それとも、バレないように膜電極で誤魔化すか?一か八かだけど、この膜を使用してみようか」
アセトアルデヒドが取り出したのは、とある金属の酸化被膜であった。過去にアセトアルデヒドは、金属イオンとの一戦で剥ぎ取ったものを応用するという奇抜な考えだ。
「こりゃ良い!ある程度の硬さを誇るから、破れる心配もない。戦線復帰だ!」
元気よく飛び出すアセトアルデヒドは一騎当千の力をボイルの軍勢に目掛けて解き放つ。
「ボイル様。ただいま戻りました」
「ヘンリーか…なぜあの小僧の息の根を止めなかった?あの小僧はアクリロニトリルにとって1人息子だ。メンタルダメージは確実に付与できたはずだぞ?」
ボイルとヘンリーは本陣にて、良からぬ話を始めていた。それは、アクリロニトリル率いる軍勢を倒すための策を講じるための予備作戦だ。
「で、あの小僧はなぜ潰さなかったんだ?」
「近くにその父親のアクリロニトリルがいまして、殺せば最悪な事が起きると思い重症を負わせる程度に済ませました」
そのように言うと、ボイルはキレる。
「愚か者が!そこで殺さねばいつ殺す?奴が生きてる事でどれだけ士気が上がるか分かってんのか?お前も殺そうと思えば殺せるのだぞ」
そう言うとボイルの身体からよく分からない不気味なオーラが立ち尽くす。そのオーラが離れたと同時にボイルの顔はどこか見覚えのある顔へと変わった。
「どういうことだ?一瞬だけど顔が変わった。なぜあの時死んだはずのフェノールが…ここに」
謎が深まる中、フェノールらしき声が響き渡る。
「一度死んだ者の体を借りては手放しての繰り返しをしてやっとしっくりくる体を見つけたわい。このボイルという男の体は本当に良い」
「あなたはフェノール様…?なぜこの形でいるのですか⁉︎」
「ワシはあの娘を探す旅をしてからとある男に殺されたのじゃ。その報いを晴らすために、魂となって生きてるのじゃよ」
死神以上の魂を持つフェノール。しかし、その声を聞いたのはヘンリー以外にももう1人…。
「ヘンリー!ジュラルミンの仇取ってやるからお前の命、破り捨ててやる」
「ふん、お前がアセトアルデヒドか。噂に違わぬ強さだが俺より弱いわ。貴様は酸化することで変化をする、なら!」
ヘンリーは自身の持つ槍をアセトアルデヒドの肩目掛けて打ち抜く。寸前に避けたものも、頬にかすり傷が残った。
「流石圧力を知るだけ強いわ。これの何が強いんだ…?なんだ、この焼けるような匂い」
よく見ると頬を掠めた事によって傷口が酸化して酢酸特有の匂いと、ヘンリーの突きの速さによって生じた熱によりあたり一面吐き気を催す戦乱となった。
「なるほど…あの槍は触媒槍ってことか。厄介な相手だ。だからと言って負けるわけにはいかないがな!」
掠めた頬の傷をもろともせずアセトアルデヒドは一気に突っ込む。しかし…
「お前のような若造の攻撃喰らってたらボイル様に合わせる顔がないわ。これでも喰らっておけ」
ヘンリーの右拳がアセトアルデヒドの鳩尾にヒットするとそのまま倒れて意識が遠のく。
「こいつ…絶対ジュラルミンの仇を」
「まだ言ってやがる。殺すには惜しい精神力だ。見逃してやるが次は無いぞ」
そう言い残し、ヘンリーはそのまま敵を薙ぎ倒していく。アセトアルデヒドはそのまま倒れ込み、意識が薄れる。
一方、フラーレンとコバルトはお互いの体に薬を塗り終わってベッドの上で横になっていた。
「ねぇコバルト、1つ聞いていい?」
「ん?どうしたの?」
フラーレンの聞きたい事に耳を傾けるコバルト。その内容は思春期の女子に多いものだった。
「君、私の体見てどう思った?変態な事を想像させるかもしれないけどさっき色んなことをしたからさ…。あまり私、自信持てなくてさ」
不安そうなフラーレンにコバルトはそっと彼女の頭に手を優しく乗せてこう言った。
「君の体は綺麗だよ。フラーレンという名前は黒鉛を思いつくけどそれとは逆に君は綺麗な白だ。傷がついてしまおうが何だろうとも僕はフラーレンのことが好きだ。初めてありのままの胸を見たけど僕の想像を超えてきた。また守りたいってより一層強くなった。傷ついて心が折れてしまっただろうけど、僕は君のこと命懸けで守るから」
「そっか、そう言ってくれるのコバルトだけだよ。ありがとう」
着替えた洋服に涙が溢れる。そして、コバルトは続ける。
「フラーレン、一緒に結婚しよう!」
「もちろんだよ!コバルト!」
2人の流す涙は炎色反応のように美しい、澄んだ色だった。
戦いにふけるアクリロニトリルたちは負傷したアセトアルデヒドを見つける。
「大丈夫か!おいおい…酸化してるぞ。すぐに中和させるしかないな、塩基性のものを頼む。できれば弱塩基性の液体だ」
近くにいる兵に頼み、アクリロニトリルは自身の持つ包帯を患部に巻く。治療中アセトアルデヒドはヘンリーとの一戦を話し始めた。
「父さん、ヘンリーをぶち殺してくれ…あいつはジュラルミンを亡き者にしやがった罪人だ…」
「それをしてどうする?」
呆然とするアセトアルデヒド。しかし、そんな呆然とするアセトアルデヒドの答えを聞く事なくアクリロニトリルは続ける。
「人を殺してその人の家族から恨まれ、殺される。その繰り返しになるだけのことをなぜ気づかないか?ジュラルミンは確かに良き友だ。だが、血のつながりというのはあるか?」
「ごめんけど、賛同できない。ヘンリーは俺の宿敵になる。あいつを倒さなきゃ話にならない」
それを言った次の瞬間アクリロニトリルはアセトアルデヒドの顔面をぶん殴った。
「勝手にしろ。お前1人で解決できるならしてみせろよ。もう頼るな」
治療中のアセトアルデヒドを背後にアクリロニトリルは戦火へ飛ぶ。アセトアルデヒドは患部を保護しながら戦線復帰を試みる。が…
「やっぱり無理か…ヘンリーにバレたらどうする?それとも、バレないように膜電極で誤魔化すか?一か八かだけど、この膜を使用してみようか」
アセトアルデヒドが取り出したのは、とある金属の酸化被膜であった。過去にアセトアルデヒドは、金属イオンとの一戦で剥ぎ取ったものを応用するという奇抜な考えだ。
「こりゃ良い!ある程度の硬さを誇るから、破れる心配もない。戦線復帰だ!」
元気よく飛び出すアセトアルデヒドは一騎当千の力をボイルの軍勢に目掛けて解き放つ。
「ボイル様。ただいま戻りました」
「ヘンリーか…なぜあの小僧の息の根を止めなかった?あの小僧はアクリロニトリルにとって1人息子だ。メンタルダメージは確実に付与できたはずだぞ?」
ボイルとヘンリーは本陣にて、良からぬ話を始めていた。それは、アクリロニトリル率いる軍勢を倒すための策を講じるための予備作戦だ。
「で、あの小僧はなぜ潰さなかったんだ?」
「近くにその父親のアクリロニトリルがいまして、殺せば最悪な事が起きると思い重症を負わせる程度に済ませました」
そのように言うと、ボイルはキレる。
「愚か者が!そこで殺さねばいつ殺す?奴が生きてる事でどれだけ士気が上がるか分かってんのか?お前も殺そうと思えば殺せるのだぞ」
そう言うとボイルの身体からよく分からない不気味なオーラが立ち尽くす。そのオーラが離れたと同時にボイルの顔はどこか見覚えのある顔へと変わった。
「どういうことだ?一瞬だけど顔が変わった。なぜあの時死んだはずのフェノールが…ここに」
謎が深まる中、フェノールらしき声が響き渡る。
「一度死んだ者の体を借りては手放しての繰り返しをしてやっとしっくりくる体を見つけたわい。このボイルという男の体は本当に良い」
「あなたはフェノール様…?なぜこの形でいるのですか⁉︎」
「ワシはあの娘を探す旅をしてからとある男に殺されたのじゃ。その報いを晴らすために、魂となって生きてるのじゃよ」
死神以上の魂を持つフェノール。しかし、その声を聞いたのはヘンリー以外にももう1人…。
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