Call 〜記憶の糸の、結び目を〜

花栗綾乃

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第一話 「忘れる者と、拒むもの」

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ソファに案内し、同僚がアイスティーを出したところで、つぐみは頭を下げる。

「先程はごめんなさい。あの、あたし、抜けているってよく言われるんです、、、」

「いいえ。久しぶりに笑いました。ーお二人は恋人ですか」

「「違います」」

一脚のテーブルを挟み、アイスティーを飲んでいると言う光景は、探偵事務所を開いてから当たり前になっている。母親の方は美味しそうに飲んでくれているが、娘さんはグラスの水滴をなぞっているばかりで、飲む気はないようだった。

「えーっと、申し遅れましたが、あたしは京極つぐみといいます。この事務所、Call の一人で、こちらの彼が」

金城かなしろ陽希はるきです。同じくCallの一員で、まぁ、ここに住んでもいます」

母親は陽希の上から下を一通り見、なんとも言えない目になった。

といっても、着ているのは白いシャツだし、上下そろいになっているはずの黒のジャケット、ズボンのうち身につけているのはジャケットだけだが、服かけにかかっているくらいだ。無論、ケチャップのしみなどもついているわけがない。虹色の髪というわけでも、10個も20個もピアスをしているわけでも、カラーコンタクトをしているわけでもない。そんな彼の外見の中で、唯一、存在感があるのはループタイぐらいだろう。

まるで異世界の魔法石の一種ではないかと思えるくらいの緑色。本人は宝石ではないと言い張っているが、それなりの値段が張りそうな代物だ。胸元で輝いているその大きな意志だけが、割に合わないくらいの輝きを放っている。

多分、つけている人が普通の人だから尚更なのだろう。

「ループタイですか。珍しいですね」

「そうですか?僕はいつもこれなので、、、」

陽希が言うように、つぐみも仕事中の彼の服装でこれ以外は見たことがない。街に出ると、コスプレイヤーかなにかと間違えられることも多々ある。

「ご依頼は、なんでしょうか」

永遠に話が続いていかなそうな陽希を制し、つぐみは再び母親へ話を促す。もっぱらこの受け合いからスタートする。

「私は小花衣こはない蓉子ようこと言うのですが、実は娘のことでして」

「娘さん、、、お隣にいらっしゃる?」

「はい」

ちろりと母親ー蓉子の隣を見る。しかし、自分の話題にも関わらず、娘さんはテーブルの上のアイスティーから目を離そうとしなかった。その集中力は凄まじかった。

「、、、私が言うのもなんですが、娘は十葉とわといいます。、、、十葉?」

十葉、という単語には反応があり、蓉子の視線につられるようにしてつぐみを見つめる。陽希のことは見もしない。彼女の、一心に向けられた視線にたじろぐ。

「はじめまして。あたしは京極つぐみ。十葉ちゃん、、、であってるのかな」

「、、、うん」

つぐみは心の中で(小学生との会話か、これは)とうなっていた。

つぐみの目から見ても、十葉は中学生に見える。キッチリと揃えられた前髪も、JTならではのものだと認識している。笑顔を浮かべれば似合うのだろうが、無表情では賞賛しづらい。

「にしちゃあずいぶんと興味はなさそうですけど。十葉ちゃん自らのことにしては。、、、依頼したのはお母様ってことですか」

関係しているのは十葉ちゃんだが、依頼したのは蓉子さんですね。陽希はそう蓉子へ尋ねた。

「、、、えぇ。本人はそもそも、依頼したいこともわかっているのか怪しいですから」

「「は?」」

二人の間抜けな声を聞く間もなく、蓉子は突然テーブルにつけんばかりにして頭を下げた。そして悲痛な声でつぐみと陽希に言った。

「お願いします。娘の記憶を探してください」

つぐみは、思わず陽希と顔を見合わせた。

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