涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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17話

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公園に柚は、いた。
憂げに髪を耳にかけている姿。うん、よく似合っている。はためく白色のコート。少し高くなった背。淡い水色のネイル。あげ出したらキリがない。

駿のあったことのなかった、十九歳の柚は、そこにいた。風に吹かれてたたずんでいる。一枚の絵画のように。

「柚っ!」

とどくはずのない声。でも、柚は振り向いた。虚空から駿の方へと視線を寄せる。
驚いただろう。不可思議だろう。見開かれた瞳と、半開きの唇。

変わっていない。

駿は駆けだしていた。このとき、はっきりと顔に風が当たっているのが分かった。柚も吹かれている、あの風が。

駆け寄ってきた柚の、体と勢いも全て抱きしめる。十五と十九の二人は、同じくらいの背だった。視線が交わる。駿は事故にあったときの制服姿に戻っていた。柚のなかでの、最後の姿に。

「駿、、、駿、なのよね」
「勿論。ちょっといろいろあったけど、っていうか、死んだんだけど。四年前のままの」

二人は生きているかのように抱き合い続けていた。ほのかな甘い香り。
何故?何故、今だけこんなに許される?

「俺さ、ずっと柚に伝えたいことがあったんだ。死んだとき、柚、ずっと泣いてくれてただろ?あのあと、、、自分を責めていたんじゃないかなって」

柚の瞳は、喜びとほんのちょっぴりの苦さに染まっていた。

「だって私があのとき呼んだから、、、。事故ってことは理解してたけど、どうしても、どうしても、心の奥に後悔があって。だってっ、、、駿は」

港希の言っていた闇。駿は吐露した柚の頬に、そっと触れる。温かい。こんなにも温かかった。
触れられる、伝えられる。

「大丈夫。苦しくもなかったし、柚がいてくれてよかったよ。だって、大好きな人に側にいてもらえたんだ。悲しんでもらえたんだ。これほど幸せなことは、ないだろ?柚が思っているよりも満足してる。だから、もう悲しまないで」
「、、、私も。ずっと駿のこと、愛してる。大好きだよ」

すっかり外野となった七海は二人を見つめていた。
二人の再会は、済んだかのようで、でもどこか脆い。駿は、自分の手が透けているのに気がついた。

「駿っ」
「あーなタイムリミット。これ以上は許してもらえないみたい。でも、柚に伝えたいことは伝えられた」
「待って。もう少しだけ」
「じゃあ、もう一つだけ」

柚の髪が、はらりと舞う。駿の体をつかまえようとした柚の手は、ただ風風を掻き回しただけ。
涙が、光る。
駿は、柚の涙にそっと指を添えると、ささやいた。

「泣かないで。、、、そして」

ーアイシテル。

星屑のように散る。暖かい太陽に照らされて、キラキラと。柚は泣くのを、必死に止める。

「奇跡、、、よね。でも、駿はいたの。いてくれた」

言い聞かせるように呟くと、地面にへたり込む。

駆け寄った七海は、柚の手に触れる。

その体温は、柚のものだけでなく、一人の幽霊の残滓ざんしが残っているような気がした。
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