涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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16話

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「よし」

駿はいつものようにうつつの世界へ入ろうとしている。だが、今日は仕事に必要な書類等はもっていない。持っていくのは調魂師としての力だけをくれる、カード型の証明証だけだ。

(今しかない。これが実らなかったら、調魂師としてもどんな形でもいいから、罪でも罰でも背負ってやる)


市名いちな京介きょうすけが駿の部屋をノックして中を覗いたときには既に、駿の姿はなかった。市名京介は駿がやろうとしていることを悟った。

少し思案するとドアを閉め、部屋から立ち去った。駿の企みを咎めることは容易いし、そうするべき。
が、市名京介にはそれがヤボな行動に思えてしまった。


駿が待ち合わせ場所に来たときには、七海ななみが待ってくれていた。駿の姿をみとめると、手を振ってくる。あのとき二人が出会ってから待ち合わせるのは、必ずここ。駿の中では今の白露しらつゆ町のなかでここだけがクリアなのだ。

「分かったんだろ?」
「うん。あたし、完全に失念してた。あたしの通ってる塾に、、、いた。しかも同じ時刻だったの。今日強引に予定あけてもらった」
「えっ、強引にって、、、」
。早くしないと、駿君。そうしないと、消えちゃうんでしょ?」

次の瞬間、信じられないことが起こった。七海の手は、しっかりと駿の手首をいたのだ。二人ともそのことには気が付かなかった。走り始める。焦っていたのだ。

七海が本条柚と待ち合わせをしていたのは、塾の近くだという公園だった。人通りの少ない道路・場所を選んだのは、いつも駿が他人には見えていないことに配慮したのだろう。
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