涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

文字の大きさ
上 下
14 / 19

13話

しおりを挟む
茉夕が去ったトラーメスは、ずいぶん寂しくなった。変わることなく市名いちな京介きょうすけは仕事をしているが、物思いに沈んでいる時間も増えた。港希は抜け殻のようになっている。

一人一人の歯車が合わなくなってしまったかのようだ。

「駿」
「どうした、港希」
「茉夕は、、、天国に行けたよね?」
「あぁ、勿論」

嘘。真っ赤な嘘。でも人を幸せにする嘘なら、神様も許してくれるでしょう。
茉夕の姿はトラーメスで生き続けている。



「もうっ!こっちは大変ですよっ。四年も昔のことを覚えている人も、そうそういないからね!おかげでどれほど先生に心配されたと、、、」

二回目の邂逅から二週間経って、七海ななみは開口一番そう告げた。

「ありがとう。助かる」
「、、、駿君のことをひいたのはその当時、稲浦いなうら中学校に通っていた中一の生徒。、、、あぁ、駿君や本条さんの通っていた学校とも近いわ。でその加害者生徒、不登校になった後、事故の五ヶ月後に自殺しているわ」
「自殺?」
「そ。で君の両親は他の街に引っ越している、、、。これ、駿君の元担任の話」

そういえば、小言の多い先生だった。そこまで耳に入れていたとは、思っていなかった。

「本条さんは無事卒業。高校は公立学校に行ってるって。受験する大学までは流石に知らないみたい」
「、、、それも?」
「元、担任の先生。年賀状のやりとりがあるんだって」

駿はホッとした。柚が人生を送っている。きちんと卒業していた。今の柚は、どうなっているのだろう。髪型は変えているのか。

「でも、ここからはさっぱり。あとはもう巡り合わせってところね。あがいてはいるんだけど。、、、諦めてよ?無理だったら」
「分かってる。だからこそ、七海さんには調べて欲しいんだ。じゃなきゃ何も変わらない」
「了解」
「、、、そういえば、俺をひいたっていうのは?」
「あぁ、、、加害者の子?十三歳っていうのはハッキリしてる。、、、友達の話じゃ、うわさで名前がまだ出回っているらしいけど」

名前が残り続けるとは。人間という生き物は、なんと執念深い。

いずみ港希こうきって、名前らしいわよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

余命3年の君が綴った、まだ名前のない物語。

りた。
ライト文芸
余命3年を宣告された高校1年生の橋口里佳。夢である小説家になる為に、必死に物語を綴っている。そんな中で出会った、役者志望の凪良葵大。ひょんなことから自分の書いた小説を演じる彼に惹かれ始め。病気のせいで恋を諦めていた里佳の心境に変化があり⋯。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

カフェの住人あるいは代弁者

大西啓太
ライト文芸
大仰なあらすじやストーリーは全く必要ない。ただ詩を書いていくだけ。

流星の徒花

柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。 明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。 残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

gaction9969
ライト文芸
 ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!  ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!  そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!

透明人間になった僕と君と彼女と

夏川 流美
ライト文芸
――あぁ、お母さん、お父さん。つまりは僕、透明になってしまったようです……。 *  朝、目が覚めたら、透明人間になっていた。街行く人に無視される中、いよいよ自分の死を疑い出す。しかし天国、はたまた地獄からのお迎えは無く、代わりに出会ったのは、同じ境遇の一人の女性だった。  元気で明るい女性と、何処にでもいる好青年の僕。二人は曖昧な存在のまま、お互いに惹かれていく。 しかし、ある日、僕と女性が目にしてしまった物事をきっかけに、涙の選択を迫られる――

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

処理中です...