涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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12話

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いつもより早めに仕事を済ませ、昨日、七海と話した場所へ向かう。

「こんばんわ。駿君元気?」
「、、、幽霊に元気も何もない」
「え、そうなの?」

七海の期待には応えられなかったようだ。軽くあしらうと、駿は七海へ、

「話の対価をもらおうかな、と思って」

と続けた。当惑した様子の七海は、駿の記憶の中の本条ほんじょうゆずの仕草と似ていた。柚も不安があるときには、必ず顔に出ていたから。

「あたしにできることなら。っていうか、そんなにあたしのことを信用しちゃうの?」
「そりゃ、そうだけど。だって、だまし取られるものも持ってねーし。もう死んでるし」

駿は半分冗談のつもりで言ったが、七海は図らずとも息を呑んでいるようだった。

生きている人からしたら、わかりづらい感覚なのかもしれない。

「いいわ。手助けしてあげる。何をすればいいの?」

河原に座りこんだ七海につられて、駿も腰を下ろす。隣同士のはずだが、体温を感じることはできなかった。生者と死者の壁が崩れることは、ない。

「人を探して欲しいんだ。俺の幼馴染の。本条柚っていう名前の」
「本条さん?今十九歳ってこと?そんなの、あたしとの接点なくない?名前だって変わっているかもしれない」
「名字が変わっている可能性はある。でも、柚は絶対にいる。、、、成績は中の上くらいだったと思う。まぁ、高校は市外かもしれない」
「どして?」
「もし柚が俺の死に傷ついてしまっていたら、転校もあり得る、、、受験先が遠いかもしれない」
「いや、そんなに思い当たってんなら、どうして頼むかな」

七海だって、ただの中学生だ。

それなのに、駿は叶う確証のないことを頼んでいる。

何故なぜ

「分からない。、、、なんとなく、今まで七海さんほど感じ取ってくれる人もいなかったし、、、。今なら、柚に会えるような気がしていて」
「ま、期待にそえるよう努力はするけど」
「よろしくお願いします」

柚ともう一度、会えるかもしれない。

せっかくの機会を逃したくはない。
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