涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

文字の大きさ
上 下
11 / 19

10話

しおりを挟む
駿がトラーメスへ戻ると、仁王立ちの港希こうきが待っていた。

「遅い!」
「ゴメンって」
「いつも、ちゃんと戻ってきてくれるのに」
「ごめんって」
茉夕まゆうの話し相手を一人で引き受けた気持ちを考えて」
「、、、反省してます」

深々と一礼した後、港希は満足したらしく、トラーメスの奥へ手を引く。

「茉夕と京介さんが待ってるよ。早く行こう」

ベルのついたドアまで導いてくれる。なかでは、二人が待っていた。茉夕の目の前のアイスコーヒーが目についた。

「おかえり」
「ただいま」

港希の隣へ落ち着くと、きちんと挨拶をして、食事を始める。

寄せ集めでも、本当の家族のようだった。

食事が済み明日の予定ももらい、準備を整えた駿はふと、窓の外に人影を見た。

おもむろに外へ出てみると、人影の正体が茉夕だとわかった。トラーメスのすぐそばにある小高い丘で、体育座りになって、暗くなることのない空を見つめている。

「あ、駿。どうしたの?」
「窓見たら茉夕がいて。何かあったのかなーって」
「えー?何かやらなしたなって思った?」
「大切なものを失くした、、、とか?」
「めっちゃベタだね」

くすくすともらす笑いには、いつもの幼さはなく、大人の笑みに見えた。

「わたしは、ここにいていいのかなって」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

余命3年の君が綴った、まだ名前のない物語。

りた。
ライト文芸
余命3年を宣告された高校1年生の橋口里佳。夢である小説家になる為に、必死に物語を綴っている。そんな中で出会った、役者志望の凪良葵大。ひょんなことから自分の書いた小説を演じる彼に惹かれ始め。病気のせいで恋を諦めていた里佳の心境に変化があり⋯。

流星の徒花

柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。 明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。 残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

カフェの住人あるいは代弁者

大西啓太
ライト文芸
大仰なあらすじやストーリーは全く必要ない。ただ詩を書いていくだけ。

透明人間になった僕と君と彼女と

夏川 流美
ライト文芸
――あぁ、お母さん、お父さん。つまりは僕、透明になってしまったようです……。 *  朝、目が覚めたら、透明人間になっていた。街行く人に無視される中、いよいよ自分の死を疑い出す。しかし天国、はたまた地獄からのお迎えは無く、代わりに出会ったのは、同じ境遇の一人の女性だった。  元気で明るい女性と、何処にでもいる好青年の僕。二人は曖昧な存在のまま、お互いに惹かれていく。 しかし、ある日、僕と女性が目にしてしまった物事をきっかけに、涙の選択を迫られる――

行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀龍太朗
ライト文芸
 流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。  そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!  同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

処理中です...