涙をそそぐ君へ

9話

「えーっと、まず名前からよね。あたしは上野うえの七海ななみ。暁矢あきやはあたしの弟。ちなみに中学三年生。いまは冬だから、この前私立の志望校を決めたところ。塾は週三」
「俺は藤江ふじえ駿しゅん。四年前､､､中三で事故に遭って死んだんだけど、かくかくしかじかで調魂師になってる」
「中三？ってことは､､､同い年？」

七海は駿と背格好が似ていた。久しぶりにこんな他愛のない会話をしているかもしれない。

「と言っても、今年十九歳になっている人たちが同級生になるけど」
「ふーん。同い年ではないわけね､､､じゃ、調魂師っていうのは？」
「天国と地獄で迷っている人たちがなれる職なんだ。こうやって地上に降りてきて、苦しんでいる人、悩んでいる人の心を解き放つ。それが仕事」
「じゃ、天使？」
「天使のように導くことはないかな。死を急かすこともない。調魂師が関われるのは、悩んでいる人」
「成程ー」

七海は分かっているのか、分かっていないのか曖昧な返事をした。駿からしてみれば、言葉が通じているだけでも、信じられない心地だった。微かな希望が芽生えたようにさえ思える。

「あたし、駿のこと忘れないよ。また明日、会えるといいね！」
「ちょ、ちょっと？」
「じゃあ、おやすみなさい！」

七海は、つむじ風のようだ。茉夕まゆうとも似ている。あっけらかんとした七海の雰囲気が、そのまま性格も表しているのだろう。

止める間もなく、七海は去っていく。狐につままれたように、駿は数秒間固まった。だが、悪い気はしない。

四年前の風景が、ありありと蘇ってくるかのようだ。