涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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7話

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とは言うものの、調魂師となってからの駿は毎日忙しくなった。そもそも悩みを抱えていない人など聞いたことがない。毎日毎日、うつつの世界へ向かい、哀しみから救うべく、人々と向き合う。

多くの人はありがとうと言ってくれるが、翌日には調魂師のことなど忘れてしまう。片隅に残っていたとしても、信じる者は皆無だろう。

何より、駿はの人なのだ。四年前に交通事故で死んだ藤江ふじえ駿、十五歳。で、人生は終わっている。うつつの世界と、死後の世界狭間にいるため、容姿も成長せず、当時のまま。既に駿のことを覚えている人も少ない。


主に駿は、十代の人を受け持つ。同じような年齢というのもあるが、物腰が柔らかかったり、共感しやすかったり、、、。大の大人相手よりは、話しやすいだろう。

今もちょうど、悩みが解決したところだ。隣でさっきまで泣いていた少年は、まだ八歳だった。

「ボク、宏也こうやと仲直りする!ちゃんと明日謝るよ。またサッカー一緒にしたいもん」 
「その調子だ。絶対宏也君と仲直りできるよ」
「ありがとう!えーっと、、、」

駿の名前が思い出せないのだろう。八歳なりの気遣いからか、言葉を濁してくる。

「シュンだよ」
「シュンお兄さん、ありがとう!」

満面の笑みを浮かべた少年ー暁矢あきやの頭を掻き回す。暁矢は嬉しそうに笑い声を立てていたが、駿自身には暁矢を触っている感覚がない。生きている人の幸せを、分かち合うことは許されない。

手を振り去っていく暁矢を見送ると、地面に大の字になる。

「あんなに感謝はされるが、、、覚えていてもらえないんだもんな、、、」

天国と地獄。いつかは選ばなければいけないが、未だわからない。後悔はほどけることがなく、チクチクと心をむしばみ続けている。

おもむろに呼ぶ。「ゆず」と。

途端、鳴き声がリピートされた。生きている彼女は多分、十九歳になっているだろう。

そのあと、駿の耳に殴り込んできた声があった。

「なんで寝っ転がってんの?」

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