涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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6話 

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調魂師となってからも、駿はトラーメスで間借りをしていた。一室を借り、仕事の用意をしたり、趣味のことをしたり、港希らと一緒にオセロをしたり、、、。

間借り継続の経緯は、説明するに及ばない。出て行くのが面倒くさかったというのもあるが、大きな理由は、港希と茉夕が嫌がったからだ。

「せっかく仲良くなれたのに」
「なったのに!」
「、、、2人の気持ちは、分からなくもないが」
「いいじゃないですかぁ!出て行けっていう約束もないんでしょ?」

駄々をこねる2人に結局、市名京介が折れるという決着になった。
駿も、出ていくのは正直なところ憂鬱だったし、1人になるのも、寂しかった。寂しくなると、時々、ゆずのことを思い出してしまう。

彼女を思い出すたび、死んでしまった罪悪感が蘇る。
最期、駿はとてつもなく満たされていたように感じた。
でも、彼女は悲しんでくれていたのだ。駿を、失いたくないとまで、言っていくれたのだ。
ここまでいってくれる人が、そうそういるものか。

なのに、駿は諦めたではないか。

(仕方ない。あまりに唐突だったんだ。柚に何も伝えることができなかった。手放したのは、俺の方だ)

受験に憂鬱になっていたあのころを連想させるものは、もう、手元に一つしか残っていなかった。
親に買ってもらったフルートだ。白銀のフルートは綺麗なまま。綺麗なまま。
とびたしたのは、白鳥のような悲しい音。白鳥は、友の死を悲しんで泣き続けた神の姿だと、駿は聞いたことがある。

忘れられるわけがない、柚の泣き声とそっくりだ。

一歩踏み出したら苦しくなる寸前でいられるのは、他でもないトラーメスのおかげだ。
港希はいつも達観していて、こっそりと面白いことを言ってくれるし、茉夕も、明るい雰囲気をみんなに伝染させてくれる。市名京介は、どんなときにも見守ってくれているようで、心強かった。一日一日、歯車をコトコトと動かしてくれている。

死んだ後、調魂師となることも、友ができることも、4年前までは、知らなかった。
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