涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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5話 

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現在、市名京介の元には、3人の弟子がいる。
1人目は、きてから四年目になる藤江駿。
3人目は、一番新入りの朱宮茉夕。
駿と茉夕の中間、トラーメスに来たのが、

「なにやってるの?」
「なーんにも。ただ、京介さんが話しかけて欲しそうだったから」

いましがた起きてきたばかりであろう彼は、いずみ港希こうき。彼が一番ワケありなのだ。というのも、自ら望んだ死ーーー自殺者だったからだ。
この自殺というのが一番厄介。せっかく与えられた命を蔑ろにした罪と、苦しみから逃れたいと願う、当たり前の感情と権利。
そのような背景もあり、自殺者は調魂師になることが多い。

「大丈夫じゃないですか?駿は勉強もできるし、性格もいいし、優しいし」
「、、、今の言葉じゃ、最後の二つ、同じ意味じゃない?」
「そう?ま、言いたいことは変わらないでしょ」
「そりゃ、そうだけど」

港希は、駿の一歳年下だ。死んだ時の年齢で考えれば、中学一年生ということだろう。
正式に調魂師になるためには、一回テストを受けなくてはならない。
テストの内容は、至ってシンプル。
実際に、うつつの世界へ行き、一人を幸せにすること。ーーー単純だが、難しい。

市名京介は、隣でキャピキャピはしゃいでいる二人をおいておき、店の外へ出た。
店の外は、四六時中昼だ。半分の確率で虹も出でいる。調魂師や狭間にいる幽霊たちは、うつつの世界と時間感覚を合わせるために、わざと睡眠時間を作っているのだ。勿論、寝る時にはカーテンを閉め切り、真っ暗闇にしてから、、、だが。

(ここは20年と、変わっていない。そして、わたしも)

地平線の奥から続いている石畳は、トラーメスで二つに分かれ、天国と地獄に繋がっている。

ふと、小さな光の粒が現れ、輪郭をつくった。
「あ、京介さん。なに突っ立ってるんですか。なにか、ありましたか」
「、、、いや。なんでもない。それよりも、結果はどうだった」

その問いを待っていたかのように、駿の顔に笑みが浮かぶ。見せつけられたのは、カード型の証明証。市名京介は、生きていた期間に持っていた、自動車免許の形を思い出した。

「合格しましたよー。はれて、調魂師です。いやー4年間も頑張った甲斐がありました」

市名京介は、駿の言葉に、自分の娘を重ねてしまっていた。

「しゅーん」
「どうだった?合格した?キャー!合格してるー!」

バタバタと大音量を鳴らしながら、茉夕と港希の二人が駆け寄ってくる。はしゃぎたてる2人に苦笑いしながら、トラーメスへと、共に戻る。

生きていた頃と、あまり変わりがない。

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