涙をそそぐ君へ

花栗綾乃

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プロローグ 

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学校の帰り道というものは、なんと気が重いのだろう。6時間授業と部活。計9時間の集団生活に、今の時期特有の蒸し暑さ。歩く者を殺そうとしているのではないかとさえ思える。すれ違う人々の疲れ切った表情。自分も全く同じ顔をしていると仮定してみると、駿はなぜか笑えてきた。

藤江ふじえ駿しゅんは今年、中学3年生になった。要は受験生、である。そのため、これまで打ち込んできたフルートも、一時休止することになった。
そして、夏休みが終わってからは“高校受験”である。一年前の、呑気に家でゴロゴロしていたときと、別世界に見える。今のように夏休みが、重苦しくは感じなかったのに。

意味もなく視線を漂わせていると、前方で手を振っている人物がいた。純白のブラウスから伸びる手首は、同じくらい白かった。

心なしか足が進み、人混みの中をかき分けながら、少女の傍らに急ぐ。
毎日毎日、彼女ーーー本条ほんじょうゆずは駿をそこで待っていた。白露町しらつゆちょうの、駅前。
青に変わったスクランブル交差点へ、一歩踏み出した。

次の瞬間、駿の視界は傾いていた。夏の暑さのせいで、めまいでも起こしたのかと思うが、違った。叩きつけられるような衝撃が、頭を襲った。徐々に体が凍っていくような感覚。意志を持たない彫刻なっていくような、自分が人形になっていくような。
軽く早い足音の後。
「駿!目を閉じないで!」
暖かい手のひらが、体に触れた。誰の手?視界がぼやけていく。目を閉じなくても、景色が見えなくなるらしい。人間は不思議だ。


すすり泣く声が最期、聴こえた。
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