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「つきましては、一つ、お願いしたいことがあるのです。よろしいですか」
「内容によります」
宰が即答したことに対して、困った表情の緋花。それでも、調子を崩すことなく、口を開く。
「わたしの生きた証を、見つけてきて欲しいんです。わたしは、死んだことを悔いている、、、。わたしが、世に存在していたことの証明が、欲しい」
緋花は、あくまで淡々と言葉を紡ぎ、深々と礼をした。宰は、正直に言うと「厄介なことになった」と思ってしまった。
「でも、私は死にたいんですよ?」
「死にたいからこそ、です。わたしが頼めば、その願いのために生きようと、宰さんは思ってくれそうですから」
「そんなに私が律儀だと?」
「、、、ボーっとしてて、人を見下すことしかできない人間は、死という選択肢が思いつくほど、思慮深くもないでしょう。絶望する人ほど、デキる人間だったりするものです」
緋花は、反論を許す間も与えず、そうひと息にいいつのった。かすかに彼女の苛立ちが見えた気が、しないでもない。
「、、、わかりました。善処します。、、、それで、どうすれば」
宰の答えに満足したのか、緋花は頷く。桜の花弁が、詰まったままになっていた宰の手のひらをまた、軽く撫でた。
一瞬にして桜の花びら達は、一枚のカードに変わった。
「身分証明書です。入学すると学校から配られるものですね。勿論、わたし名義のものです。これを、宰さんに差し上げます」
「はぁ」
「多分、宰さんなら見つけられるでしょう。、、、、、、あぁ、桜の花びらが散って、枯れ葉がなくなるまでは、わたしは精霊の姿になれません。ご了承を」
「ちょっと」
「では、よろしくお願いします」
パチン!と再び指の鳴る音が響いた。宰には、幾重にも反響したように聴こえた。
隣りを見ても、緋花の姿はなかった。残りわずかな桜の花弁も、ひらひらと散り続けている。
もしかして、ついさっきの出来事は夢だったのではないか。死に損ねた自分が創り出した、幻覚の一種なのではないか。
宰はそう思えてきた。それでも、右手を眼前へと持ってきて、ひょいと開いてみる。ラミネートされたカードがあった。
ーーーその名義は「地塚 緋花」
「内容によります」
宰が即答したことに対して、困った表情の緋花。それでも、調子を崩すことなく、口を開く。
「わたしの生きた証を、見つけてきて欲しいんです。わたしは、死んだことを悔いている、、、。わたしが、世に存在していたことの証明が、欲しい」
緋花は、あくまで淡々と言葉を紡ぎ、深々と礼をした。宰は、正直に言うと「厄介なことになった」と思ってしまった。
「でも、私は死にたいんですよ?」
「死にたいからこそ、です。わたしが頼めば、その願いのために生きようと、宰さんは思ってくれそうですから」
「そんなに私が律儀だと?」
「、、、ボーっとしてて、人を見下すことしかできない人間は、死という選択肢が思いつくほど、思慮深くもないでしょう。絶望する人ほど、デキる人間だったりするものです」
緋花は、反論を許す間も与えず、そうひと息にいいつのった。かすかに彼女の苛立ちが見えた気が、しないでもない。
「、、、わかりました。善処します。、、、それで、どうすれば」
宰の答えに満足したのか、緋花は頷く。桜の花弁が、詰まったままになっていた宰の手のひらをまた、軽く撫でた。
一瞬にして桜の花びら達は、一枚のカードに変わった。
「身分証明書です。入学すると学校から配られるものですね。勿論、わたし名義のものです。これを、宰さんに差し上げます」
「はぁ」
「多分、宰さんなら見つけられるでしょう。、、、、、、あぁ、桜の花びらが散って、枯れ葉がなくなるまでは、わたしは精霊の姿になれません。ご了承を」
「ちょっと」
「では、よろしくお願いします」
パチン!と再び指の鳴る音が響いた。宰には、幾重にも反響したように聴こえた。
隣りを見ても、緋花の姿はなかった。残りわずかな桜の花弁も、ひらひらと散り続けている。
もしかして、ついさっきの出来事は夢だったのではないか。死に損ねた自分が創り出した、幻覚の一種なのではないか。
宰はそう思えてきた。それでも、右手を眼前へと持ってきて、ひょいと開いてみる。ラミネートされたカードがあった。
ーーーその名義は「地塚 緋花」
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