映る世界を、雨で磨いて

花栗綾乃

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洋也が私のそばにいてくれたのは、きっと恋愛感情からではないのだ。たまたま雨女であったのが私で、たまたま雨を必要としていたから。私から洋也へ「好き」という気持ちを伝えたこともない。

洋也のそばにい続けるには、私がである必要があるのだ。

誰より私自身がそれを理解していたのに。このままの土曜日が続いていくことを願っていたのに。

もう、私は洋也のそばへはいられない。

最悪の結末が見え透いていた。

誰もいなくなった公園で、小雨のベールがかかるなか、私は大泣きした。そのまま全ての思い出が流れてしまえばいいと思って。


昼食を求めて家へ帰ったのは、午後二時。母は家にいない。テーブルには、ラップのかけられたおかゆ。

風邪の日に食べたおかゆだ。作ったばかりなのか、まだ湯気がでていた。泣いたからか、少しぼんやりする。おかゆに添えてあったメモ書きに気がつき、開く。

“なかなか帰ってこなかったので、つくっちゃいました。ったく、水分不足には気をつけなさいよ?
あぁ、それと、雨女と蒼依あおいの価値は、別物だからね?雨は天の気まぐれの産物だからね?すべて制御できるとは思わないこと。人の真意と同じように。
まぁ、、、蒼依も十代なんだから、何事も経験よ。経験。ちゃんと食べて、一から考えてみれば、大概のことはなんとかなるよ。  母より”

私の身に起こったことを察しているのか、いないのか。が、この文章を読んでいるときは、泣かなかった。涙が出尽くしてしまったからか、それとも。

帰ってきた母に開口一番言ったのは、「うまかった」
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