映る世界を、雨で磨いて

花栗綾乃

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洋也のリュックのなかから、小さな缶詰が出てくる。よく見ると「猫用」とあった。彼は器用に蓋を開け、子猫らに差し出す。

勢いをつけて食べる子猫たちを、フラッシュをなくしたデジカメが撮る。見せてもらった画面には、子猫の食べている姿がはっきりと映っていた。ややピンぼけはしているが。

「とある人から、下田さんのことを聞いたんだ。、、、頼みたいことがあって」

「頼みごと?」

「あーっと、、、雨を降らせてほしい」

「、、、え?私が?」

思いもかけない言葉で、反応に困った。「世話をして欲しい」とか、「引き取ってくれないか」とか、そういうベタなものだと思い込んでいたのだ。

「下田さんは雨女なんでしょ?こういう休日の日にここへ来て、雨を降らせてほしいんだ」

「どうして、、、ですか」

私は動揺していた。

それが何を意味しているのか、洋也はわかっているのか。

「私が降らすのは、慈雨なんかじゃありません。豪雨かもしれません。そんなの降ったら、いくら雨天決行のスポーツとはいえ、よ」

「オレは、サッカーを好きでやってるわけじゃない。親が喜ぶ。、、、それだけだ。両親はサッカーの大ファンでさ。サッカー選手にしたいんだと。でも、オレは違う」

サッカーを好きにはなれなかった。

吐き出された言葉には、自己嫌悪が滲んでいた。

向けられているわけでもないのに、私の心まで痛くなってしまうような。

「オレは撮るのが、好きなんだ。小さいときにじいちゃんからもらったデジカメで。自分で感じたものを、自分の手で残す、、、。それが、オレの本当にやりたいことだった」

カシャ、とシャッター音がした。また一枚、子猫の写真が増えた。洋也はどこか泣きそうな顔で続ける。

「平日はともかく、休日のサッカーをつぶさないと、世話できなくて、こいつらが死んじまう。、、、勝手な依頼だとは思ってる。、、、お願いします」

私は、子猫の目を見、背後のサッカーグラウンドを見た。
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