トレンチコートと、願いごと

花栗綾乃

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第十二話

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年の明けた元日は、快晴だった。まさしく、雲ひとつないである。

昼におせちを食べるため、その前に初詣を済ませなくてはならない。私は六時に起きて支度をした。瑞さんに心を覚ましてもらったときと比べると、支度にかかる時間は短縮されている。

瑞さんは、訪ねてきたときと、同じような格好だった。

すっかり雪の幕が張っている。豪雪、、、とまではいかないが、冬の景観を生み出すくらいの量は降る。

白銀の世界に舞う、淡いトレンチコート。

私は思った。

どうして真冬なのに、春秋用のトレンチコートを、瑞さんは着続けているのだろう。

「実波ちゃん、あけおめ。どこ行く?」

「え、決めてなかったんですか」

「だって、、、住んでるわけじゃないし」

そうだった。瑞さんは居候。

私は事実を再認識した。

「じゃあ、、、」

「でも、友人にあったら気まずいよね」

「そうだ、、、ね」

「だからって遠くに行くのもねー」

「、、、はい」

「山奥みたいに、大変なところもなー」

「条件、多くない?」

瑞さんの口から出てくる条件に、顔をしかめながら、私は頭をフル回転させた。これまで十四年間も住んでいるのだ。

神社の一つや二つ、覚えていて当然。当然なのだが。

「、、、ない。出てこない」

「ー困ったときにはっ!」

瑞さんの手にはスマートフォン。パパパっと付近の神社を検索する。

「なんだ。あったんだ」

「まぁね。でも、最初から出していたら実波ちゃんは、探そうとしなかったでしょ?行くのはわたし達なんだから、見つけられなくても、見つける努力はしなくちゃね」

「、、、いい理論、、、。すごく」

「でしょ?」

茶目っけたっぷりのウインクを受けつつ、スマートフォンの画面に見入る。

いくつか名称が上がっていた。

ひとつ目は大きいが有名のため、誰かがいる可能性が高い。
ふたつ目は知名度は低いが、山奥にある。危険だ。
みっつ目は、ここからも近い小さな神社。常時あまり人気がないらしい。

議論の結果、みっつ目になった。

「よかったね、行けそうなところがあって」

「うん。でも、私も聞いたことない神社、、、」

三十分程歩いて、その神社に着いた。石造りの鳥居は、苔にむしばまれていて、名称がわからなくなっていた。

ひとまず、お賽銭はしたもの、叶えたい願いもなかったうえに、おみくじも売っていなかった。

初詣の醍醐味ができないとは。気分激下がりのなか、神社の一角に腰掛ける。

腰掛けてみると、意外と瑞さんのトレンチコートの色が濃いことに気がついた。

思わず、「どうしていつも、トレンチコートを着ているんですか」と、訊いていた。
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