トレンチコートと、願いごと

花栗綾乃

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第八話

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瑞さんが結婚の意志を持っていないことくらいは分かる。婚活というのにも、無縁だろうし、どう見ても束縛を嫌う性質たちに見える。

ただ、瑞さんは、思いっきり自分の人生を楽しんでいる。当たり前のように。

「、、、私、自分が生きてていいのか、わからないです」

手元にある、数年前はまっていたコミックをようやく閉じる。片づけをするつもりが、内容が面白くて、読みふけってしまっていた。瑞さんは、重要な話だと思っているのか、いないのか、手は止めていない。

「、、、どうして分からないの?」

「、、、なにかを成し遂げたことがないから?やりたいことがないから?希望がない、、、から、、、?、、、なにか人の役に立てたかと言われると答えられないし、今の私は普通じゃない」

人と付き合うのが、得意ではない。友人との対話でも、必要以上に緊張してしまう。

冬の風は寒い。全開にした窓から、雪が侵入してきているのが分かった。

「実波ちゃんは、人生ってなんだと思う?」

「、、、重くないですか」

「いーのいーの。生について考えるのは、大切です」

瑞さんは網戸を閉め、雑巾をたたむ。

「人生は、痕跡のようなものだと思います」

「ほー。どうして?」

「だって、、、今、まだ起きていないことに対しては、人生って言葉は使わないじゃないですか。だから、人生っていう言葉が意味できるのは、結局、過去をなぞることぐらいだと思います。取り消すことのできない、回顧録のような」

我ながら、気障キザなことを言っているなと思った。用意したようにも聞こえてしまうかもしれないが、今、突発的に出てきたのだ。

「成る程ね。、、、では、私の考えも」

私を見ているはずなのに、瑞さんの瞳は、別のナニカを見ている。
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