シアカラーステッチ

乾寛

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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々

45. 姉のように生きた

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 ヴァルトは余裕を持って軽々と避けたが、風の一つがシアを絡め取っていた糸の一本を切り裂いた。

「不覚……過失……失策……」

「まずい、アングレディシアが解放されてしまう。くそ……この魔力の糸は魔法への耐性は高いはずなのに」

 ヴァルトはシアを掴もうと手を伸ばしたが、届かなかった。

「ははは……僕は魔法だけには少しは自信があるんだよ」

 シアが地面に落ちる瞬間、シアは人間の姿となって地面に立った。

 コエンは首を地面に押さえつけられたままシアを見ていた。

「レクロマさんがカミツレを助けてくれると思ってます。僕にできるのはシアさんを助けるための手助けをするくらいです」

「邪魔……余計……処分……」

 エリネはコエンの首を掴んで持ち上げた。

「コエン君っ……」

 シアはコエンの方へ走って行ったが、もう間に合わない……

「コエンッ……」

 レティアもカミツレのメンバーも急いで駆けつけようとしていた。

 コエンの腹は貫かれ、エリネの手刀は真っ赤に染まっていた。

 エリネはコエンをシアの方に放り投げ、シアはそれを抱き起こした。

「ごめんなさい、コエン君。私のせいで……」

「えゔっ……がはっ……がはっ……
私はもう十分生きた……あなたは生きて……」

 コエンは口を必死で動かしながら言い聞かせるように言う。

「え……」

 コエンの体は重く感じる。コエンが体の重心を操作できなくなっている証拠だ。次第にまぶたは下がっていく。

「実はこれ……姉が最後に言っていた言葉なんですよ……僕が生きていた意味を……やっと見つけられた……」

 コエンは無理に笑顔を作ろうとしてくる。

「ありがとう……私、必死に生きるから……」

「マルナお姉ちゃん……僕もお姉ちゃんみたいに……かっこよく……なれたかな……」

「コエン君。あなたはとても勇敢でかっこいい」

 コエンは目を閉じたままそこにある何かに触れるように手を伸ばし、満たされたような満面の笑みを浮かべた。その瞬間、コエンの体からは力が完全に抜けた。

「美麗《びれい》……不屈《ふくつ》……秀逸《しゅういつ》……」

 エリネはコエンを見ながら、右手を振って血を払い飛ばした。そのままヴァルトの方へ歩いて行った。

「ありがとう、コエン君」

 シアはコエンを抱え上げて立ち上がった。

「シア!!」

 レクロマの声が聞こえてくる。声の方を見ると、カミツレのメンバーがレクロマを背負って走って来た。とても大変そうに背負っている。やはり、レクロマを背負えるのは私だけだ。

「シアが無事で良かった。でも、コエンは……」

「レクロマ、ちょっとだけ手を貸して」

「あぁ、もちろん」

 レクロマを背負っていた男はレクロマを地面に降ろした。そして、そのまま安らかに眠るコエンを受け取った。

 アリジスは戦う決意を固めたレティアの代わりに、無事に生き残ったメンバーに後退して怪我人の手当てに当たるように指示を出している。

 シアはレクロマの手を取り、剣となった。

「ごめん、おかえり……シア」

「ただいま」

 レクロマはシアを剣身を抱きしめた。

「すごく……温かいよ」

 レクロマはシアを左手に持ち直した。レクロマはコエンの頭に手を置き、ゆっくりと撫でた。

「コエン君、ごめん。シアを助けてくれてありがとう。短い間だったけど、コエン君のおかげで楽しかったよ」

 ヴァルトとエリネの方を見ると、二人が並んで歩いて来ていた。

「話は終わったのかな。その子は自分が死ぬことを分かりきっていたはずなのに、自分の命を以て仲間を救った。その強さに敬意を表する。君たちもすぐに同じところへ送るから安心したまえ」

「剣、構えろよ」

 レクロマは顎でヴァルトが持っているエレスリンネを差した。

「死ぬ覚悟はできているようだな」

 エリネはカミツレのメンバー達の方へ向かおうと足を向けた。

「待ちなさい」

 レティアが、エリネの前にレイピアを横から突き出した。

「私を忘れてもらっては困るわ。私はカミツレのリーダーとして死んだ仲間のためにあなた達を殺す」

 エリネは渋々下がっていき、ヴァルトの隣に付いた。

「陛下の妹の子か……私の従妹……。生産性の無いことをして陛下の邪魔をするだけの者共は、私が取り除く」

 レティアはレクロマの隣に立った。

「頼りにしてるよ、レティア」

「そう……ありがとう。レクロマ君、絶対に勝つわよ」
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