シアカラーステッチ

乾寛

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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々

44. 一分の隙を狙って

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 レティアは、アリジスと共にヴァルトとレクロマの戦いを観ていた。

「私達にも被害があるが……あとはヴァルト・ヘイムとあの娘だけ。ここで負けたらカミツレは崩壊する。絶対に勝たなくては……」

「一般兵は士気も技量も無い有象無象でしたが、ヴァルト・ヘイムは、レクロマとの戦いを見る限りもの凄い力を有しているようです」

 レティアは、表情を全く変えずに俯いているレクロマを心配そうに見つめている。レクロマは体勢が崩れ、その場に倒れた。

「大丈夫!? レクロマ君」

 レティアがレクロマの元へ駆け寄って抱き起こすと、レクロマの顔は涙に濡れていた。

「ごめん、シア。ごめん……ごめん……ごめん……」

「レクロマ……くん……」

 ずっと一緒にいたシアさんがいなくなったらレクロマ君の心には何が残るの……心の支えもない……復讐も果たせない……

「俺が弱かったから……俺に、力がなかったから……俺のせいで、シアが苦しむ……」

 本当に弱いわね。助けてくらい言ってくれれば良いのに、何もかも自分で背負おうとして。

「今の俺じゃ……何もできない……何もない……ごめん、シア……俺じゃ……助けられない」

 レティアはレクロマの胸ぐらを掴んで体を持ち上げ、頬を思い切り引っ叩いた。

「しっかりしなさい。シアさんは貴方の唯一信頼できるパートナーなんじゃないの! 私を殴るくらい大切なんでしょ! それなら自分の力で守ってみせなさいよ」

 レクロマは少し驚いた表情になって、レティアから目を逸らした。

「でも……俺は動けない……」

「あなたが動けないのなら私たちに頼めばいいじゃない! それだってあなたの力の一つでしょ。一人だけでできることなんて存在しない。それはあなたが一番分かっていることじゃないの!」

「レティア、ごめん……ありがとう……頼む、シアを……シアを助けてください……」

 レティアは安心したようにレクロマに微笑んで優しく地面に下ろした。

「それで良いの。必ずシアさんをあなたの元へ取り戻してみせるから」

 レティアはカミツレのメンバーを数人集めて何かを話した。するとレティアは腰のレイピアを鞘から抜いた。

「では、レクロマさん、失礼します」

 カミツレのメンバーの一人がレクロマを背負って戦線の後方へ下がって行った。

 レティアがヴァルトの方へ向かって歩き出すと、コエンが駆け寄って来た。

「レティア様、シアさんが捕まったって本当なんですか」

「えぇ、あの男を倒すためにはシアさんとレクロマ君の力が必要。だから、絶対に取り戻すわよ」

「はい、僕が絶対にシアさんを救ってみせます」

「無理はし過ぎないでよ」

「大丈夫です、僕は僕にできることを精一杯にやるだけです」

 レティアはレイピアの剣先をヴァルトに向けた。

「あなたが従兄弟だとしても邪魔をするのなら殺す。私にはやるべきことがある」

「陛下の温情も理解できない野蛮人が王家の人間だったという恥は、今ここで拭う」

 レティアはその場でレイピアを高速で振った。すると、何本もの風の筋がヴァルトを襲った。

「こんな物で私に傷をつけられると思っているのか? 陛下への忠誠はこの程度の攻撃では傷つかない」

 ヴァルトはエレスリンネを両手で振り、衝撃波を放った。衝撃波は風を呑み込んで消し去った。

 レティアは左手で、ヴァルトに隠れてカミツレのメンバーに指示を出した。

 私は少し時間を稼げばいい。そうすれば隙を見てシアさんが解放される。レクロマ君がいれば勝てるはず。

「あの親にしてこの子ありだな」

「その言葉は賛美の言葉として受け取っておこう」

 コエンは何も持たないまま走って行き、ヴァルトの後ろに回り込んだ。

 それをレリネを見逃すはずもなく、一瞬でコエンの正面に移動してコエンの首を左手で掴んで持ち上げた。コエンは必死でエリネの手をほどこうとしてもがくが、なかなか振りほどくことはできない。

「何故……愚鈍……阿呆……」

「エリネ、そいつは頼んだ」

 ヴァルトは軽くコエンを見て、レティアの方に歩き出した。

「承知……了解……理解……」

 エリネはコエンの首を掴んだまま、地面に叩きつけた。

「僕だって……カミツレのメンバーで、姉さんの弟なんだ!」

 コエンがヴァルトの方へ手を向け手を振るうと、鋭い風がヴァルトへ向かって行き踊り出した。
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