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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々
43. 一寸先に進めたら
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雷撃の球が収縮をやめ、膨張を始めた。
「氷の針と電気の球か。面白い」
ヴァルトは鞘に入ったままのエレスリンネを構え、前傾姿勢となった。目の前には氷柱と雷撃の球が迫っている。
もう避けられない。何もしないで終わりか。
「この程度がなんだというのだ」
ヴァルトはその瞬間、エレスリンネを抜刀し、振り抜いた。すると、エレスリンネから溢れた輝く光が氷柱と雷撃を全て消し飛ばした。
「なっ……」
「ただの魔力の塊のはずなのに……人間じゃないよ……」
シアの声が頭に響く。
「魔法に変化していないただの膨大な魔力だよ。ただひたすらに大きな魔力」
「このエレスリンネにのみ成し得る芸当だ。分かるか、この素晴らしさが。見えるか、この美しさが」
「凄いよ本当に。その剣だけによるものではなく、才能だけによるものでもない。あんたの努力を感じる。だが、俺は絶対にシアを渡すわけにはいかない。さっさと終わらせる」
これでは、勝てない。ヴァルトは技量も魔力量も別格だ。すぐに決めないと。
「シア、頼む」
「いいよ、おいで」
レクロマは急激に加速してヴァルトに向かって飛び出した。そしてシアを両手で構え、鍔の宝石に魔力を流す。すると青い光が周囲を満たした。
「うあぁぁぁ!」
しばらくするとレクロマの姿は次第に薄くなり、最終的には見えなくなった。
「これで終わりか。最も愚かな手を打つものだ」
ヴァルトは少し呆れたようにそう言って左腕を大きく振るった。すると、ヴァルトの手のひらから出た無数の魔力の糸に何かが触れた。ヴァルトが手を握ると、糸は空を捕らえた。
聖剣の力が消え、糸が絡まった空からは、レクロマが現れた。
くそ……腕が動かせないんじゃシアでも糸を切りきれない。
「良くないな。君の姿が見えていないとしても、目的は私であることは分かっているのだから動きの導線は見える」
ヴァルトはエレスリンネを鞘に収め、少しずつレクロマに近づいていった。
「そして何より、勝てぬ勝負で奥の手を見せるのは論外だ」
ヴァルトは強く握ったレクロマの右手の指をこじ開けていった。
「待て、やめろ! シアに……シアに触るな!」
「レクロマ、ごめん。私、ずっとあなたの側にいるって言ったのに……嘘ついちゃった……」
「違う、シア……」
ヴァルトは、動こうともがくレクロマの手からシアを奪い取り、シアの剣身に魔力の糸を絡ませた。
「やめろ! シアは俺の──」
レクロマを拘束していた魔力の糸は消え去り、翼が消えたレクロマはその場に落ちた。
シアから手を離しても体に溜まったシアの魔力で数秒間は動けるはずだ。まだ間に合う。
「返せ!」
レクロマは必死にヴァルトに向かって手を伸ばすが、ヴァルトは思い切り蹴り飛ばした。
シアは鞘に入れられていると人間の姿にはなれない。糸が絡まっていたらシアは動けない。俺が取り戻さないと。
ヴァルトは手からシアをぶら下げてじっとレクロマを見ている。レクロマは急いで走る。
「早くしないと……急がないと……シアが俺の元から」
シアが目と鼻の先にまで迫った。だが、体も鈍くなっている。
あと……少し……あと少し手を伸ばせば……
あと……数ミリ……
手がシアの柄に触れそうなところでレクロマの動きは止まり、膝から崩れ落ちてへたり込んだ。
「シア……ごめん……俺のせいで……」
シアがセルナスト王の物になってしまう。復讐だって叶わない。シアのおかげで進み出せたのに、恩を仇で返すことになるなんて……
あんなに美しく見えていた世界が、こんなにもくすんで見える。シアがいないこの世界に俺が生きる意味なんて……
「残念だったな」
ヴァルトは俺の横を通って歩いて行った。
動けない俺には興味もなさそうに……もう殺そうともしないようだ。
「エリネ、騎士団はどうなっている?」
「怪我……死亡……壊滅……」
怪我人と死亡者が出て部隊はほぼ壊滅か。私のミスだな……
「反乱軍を掃討する。手伝ってくれ」
「賛成……承知……了解……」
「氷の針と電気の球か。面白い」
ヴァルトは鞘に入ったままのエレスリンネを構え、前傾姿勢となった。目の前には氷柱と雷撃の球が迫っている。
もう避けられない。何もしないで終わりか。
「この程度がなんだというのだ」
ヴァルトはその瞬間、エレスリンネを抜刀し、振り抜いた。すると、エレスリンネから溢れた輝く光が氷柱と雷撃を全て消し飛ばした。
「なっ……」
「ただの魔力の塊のはずなのに……人間じゃないよ……」
シアの声が頭に響く。
「魔法に変化していないただの膨大な魔力だよ。ただひたすらに大きな魔力」
「このエレスリンネにのみ成し得る芸当だ。分かるか、この素晴らしさが。見えるか、この美しさが」
「凄いよ本当に。その剣だけによるものではなく、才能だけによるものでもない。あんたの努力を感じる。だが、俺は絶対にシアを渡すわけにはいかない。さっさと終わらせる」
これでは、勝てない。ヴァルトは技量も魔力量も別格だ。すぐに決めないと。
「シア、頼む」
「いいよ、おいで」
レクロマは急激に加速してヴァルトに向かって飛び出した。そしてシアを両手で構え、鍔の宝石に魔力を流す。すると青い光が周囲を満たした。
「うあぁぁぁ!」
しばらくするとレクロマの姿は次第に薄くなり、最終的には見えなくなった。
「これで終わりか。最も愚かな手を打つものだ」
ヴァルトは少し呆れたようにそう言って左腕を大きく振るった。すると、ヴァルトの手のひらから出た無数の魔力の糸に何かが触れた。ヴァルトが手を握ると、糸は空を捕らえた。
聖剣の力が消え、糸が絡まった空からは、レクロマが現れた。
くそ……腕が動かせないんじゃシアでも糸を切りきれない。
「良くないな。君の姿が見えていないとしても、目的は私であることは分かっているのだから動きの導線は見える」
ヴァルトはエレスリンネを鞘に収め、少しずつレクロマに近づいていった。
「そして何より、勝てぬ勝負で奥の手を見せるのは論外だ」
ヴァルトは強く握ったレクロマの右手の指をこじ開けていった。
「待て、やめろ! シアに……シアに触るな!」
「レクロマ、ごめん。私、ずっとあなたの側にいるって言ったのに……嘘ついちゃった……」
「違う、シア……」
ヴァルトは、動こうともがくレクロマの手からシアを奪い取り、シアの剣身に魔力の糸を絡ませた。
「やめろ! シアは俺の──」
レクロマを拘束していた魔力の糸は消え去り、翼が消えたレクロマはその場に落ちた。
シアから手を離しても体に溜まったシアの魔力で数秒間は動けるはずだ。まだ間に合う。
「返せ!」
レクロマは必死にヴァルトに向かって手を伸ばすが、ヴァルトは思い切り蹴り飛ばした。
シアは鞘に入れられていると人間の姿にはなれない。糸が絡まっていたらシアは動けない。俺が取り戻さないと。
ヴァルトは手からシアをぶら下げてじっとレクロマを見ている。レクロマは急いで走る。
「早くしないと……急がないと……シアが俺の元から」
シアが目と鼻の先にまで迫った。だが、体も鈍くなっている。
あと……少し……あと少し手を伸ばせば……
あと……数ミリ……
手がシアの柄に触れそうなところでレクロマの動きは止まり、膝から崩れ落ちてへたり込んだ。
「シア……ごめん……俺のせいで……」
シアがセルナスト王の物になってしまう。復讐だって叶わない。シアのおかげで進み出せたのに、恩を仇で返すことになるなんて……
あんなに美しく見えていた世界が、こんなにもくすんで見える。シアがいないこの世界に俺が生きる意味なんて……
「残念だったな」
ヴァルトは俺の横を通って歩いて行った。
動けない俺には興味もなさそうに……もう殺そうともしないようだ。
「エリネ、騎士団はどうなっている?」
「怪我……死亡……壊滅……」
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